3-3 ダンジョンに突撃!うわっ…私の体、弱すぎ…?

 宿で装備を整えたトワ、アラン、ネジャロはどこのダンジョンに行くか決めかねていた。

 三者三様。さすがに意見が割れる。

 

「初めは手堅く第一ダンジョンで肩慣らしするべきじゃないかな?」

「オレは第三か第五で腕試ししたいがな!」

「私は第二と第四じゃなければどっちでもいいです!」

 

 アウロ・プラーラのダンジョンには、それぞれ特色がある。

 

 第一ダンジョン

 ゴブリンやウルフ系など、外でよく見る魔物しか出てこない所謂初心者向けダンジョン。

 

 第二ダンジョン

 ゾンビやグール、スケルトンといったアンデッド系が多く出現する、ちょっと不人気なダンジョン。

 

 第三ダンジョン

 巨大な魔物が跋扈するような、上級者や腕試し、若しくは実力を過信したものが挑む高難易度ダンジョン。

 

 第四ダンジョン

 虫、虫、虫!

 人間サイズの魔虫が大量に湧く、女子が近寄りたがらないダンジョン。

 ただし、虫系の素材は便利なため女子でも身につけていたりする。

 

 第五ダンジョン

 ゴーレムしか出現しないため、生半可な攻撃では傷一つつかない高難易度ダンジョン。

 魔石は第五が、素材は第三が最も高く売れるぞ!

 


 各々アレがいいこれはヤダと要求を述べるだけ述べ、結果、今日は第一で肩慣らしということに決定した。

 言論戦争を勝ち抜いたアランと、キモイのじゃなければ何でも良しのトワは満足だが、強い敵と戦いたい欲が溢れ出ているネジャロはかなり不満そう。

 しかし、「私たちは奴隷なのですから、これくらい我慢しなさい!」とベルテに言いくるめられていた。

 何故だろうか。おやつを我慢させられる長男が見えた気がするが、きっと気のせいだろう!そうだろう!

 

 そうと決まれば早速出発だ!と三人は第一ダンジョンへと向かう。

 ちなみにベルテはというと、ショッピングを楽しむのだとこちらも意気揚々と宿を出ていた。

 

 

 ダンジョン。普通であれば命のやり取りをする危険な場所。

 初心者が迷って出て来れなくなったなんで話もあったりなかったり。

 

 だが心配なさるな!トワの空間把握マップサーチのおかげで、三人は遠足気分でずんずんと奥へ進んでいた。

 

「この先、ゴブリン三匹です」

 

 待ち伏せもこの通り。

 完璧な空間把握能力で全てが意味を成さない。

 

 そして見つかってしまったゴブリンは、一匹はアランが初級風魔法の風の刃ウィンドカッターであっさり仕留める。

 もう一匹はネジャロがむんずと捕まえ、ノーザンベアの肝臓を食わせて、時間加速ヘイスト。実験体というわけ。

 

「グギャ……ギャ……」

「うっわー、グロ。食べなくてよかったー」

 

 もうそれは見事に猛毒であった。もがき苦しんで肌もボロボロになり、遂には気絶して死んでしまった。

 地球でただの暇つぶしとして読んでいた本の知識に助けられた結果に。

 食べ物の怖さを知っているトワは手を合わせて感謝するのであった。

 

 さて、最後の一匹だがこれはトワの剣の練習相手となっている。

 魔法で戦えるのは分かったから、せっかくだから剣も!という好奇心だ。

 ダンジョンに入る時にアランに風の防壁ウィンドプロテクションをかけてもらったので、ミスっても怪我はしない。

 そのため、1VS1のデスマッチではあるものの、命を懸けているのはゴブリンだけという悲惨な光景が出来上がっている。

 

「おりゃー!クッ、やるなゴブリンめ」


 トワが振り回す長剣は軽々躱される。

 だがゴブリンが持つ骨ナイフも、纏う風の鎧に阻まれ肌まで届かない。

 

 沼プレイ!

 もしこれがゲーム実況であったなら、今頃ヤジがこれでもかと飛んでいる頃であろう。


 両者共に近接戦弱者。

 最早剣に振り回される少女と攻撃が一向に届かないゴブリン。

 ブンッ!カンッ!ギンッ!と虚しい音だけが響き渡り、それを眺めるアランとネジャロなんて運動会を見に来たお父さんかと。

 そんな微笑ましいお遊戯会はしばらく続いたが、遂に決着の時が来た。

 どうせゴブリンの攻撃は届かないのだからと、防御を捨てて大きく一歩を踏み込む。

 

「やぁぁーー!」

 

 長剣を上段から、その重量に任せての一撃。

 それと同じタイミングで、ゴブリンも負けじとナイフを振るってくる。だが、それはアランの張った風の防壁ウィンドプロテクションに阻まれる。

 

 

 はずだった。

 


 トワの振り下ろした長剣は見事ゴブリンの脳天を叩き割り、絶命させる。しかし、ゴブリンが決死の一撃で振るったナイフは、何にも阻まれることなくトワの腕に突き刺さった。

 

「い゛っッ!」

「トワ!?」

「お嬢!」

 

 顔を青くして駆け寄ってきて治療ヒールをかけようとするアランを手で制し、刺さったナイフを抜く。

 

「ぐッ、あァ゛ッ!」

 

 ゴブリン作の骨ナイフはよく切れるなんて物からは程遠く、至る所が返しのようにささくれ立ち、トワの肉を抉った。

 どくどくと血を流す腕を時間魔法で巻き戻し、受けた傷を無かったことにする。

 

「はぁー……痛かった」

 

 幻肢痛のように、無い傷が痛んでいるような感覚。トワは優しく腕を摩る。涙を擦って顔をあげれば、アランが抱きしめようとした格好のまま固まっている。

 

 風の防壁ウィンドプロテクションの効果を思い出したのだろう。

 

「大丈夫かい?でもなんで……まだ切れるような時間じゃないのに」

 

 通常であればきっかり一時間持つはずの風のウィンド防壁プロテクション。まだ30分しか経っていないというのに、効果が切れているのはおかしい。

 

 アランは死んだゴブリンに近づき、手を伸ばす。

 するとそこには切り裂かれた跡が。

 纏っている風の鎧、元い風の刃が切り刻んだのだ。

 

「やっぱり、僕はまだ効果がある」

 

 そんな時、アランはふとグレイス王国での治癒術師の言葉を思い出した。

 

「回復魔法の効力が半分くらいしか発揮されなかった……」

 

 アランは皆に休憩時間にすると伝え、トワに風の防壁ウィンドプロテクションをかけ直す。

 そして、懐中時計を取り出してこまめに時間を計る。

 

「思った通りだ」

 

 アランの予想通り、ちょうど30分でその効力は失われた。

 

「トワは、ほかの魔法の効果を減衰させているのかもしれない」

 

 回復魔法は効力を、防御魔法は時間を。

 もしかしたら、攻撃魔法は威力を半減させているかもしれないが、それでも受けてしまったら痛いものは痛い。

 回復魔法は時間を巻き戻せばどうとでもできるが、防御魔法の方は厄介だ。

 30分毎にかけ直してもらっていたらアランの魔力が持たない。

 それに、トワの力ではフルプレートの着込むことも出来ないため、攻撃を受けるという選択肢をゼロにするしか無かった。

 

「なんか防御魔法、どっかにないかな……」

 

 新たな魔法を考え出そうとするが、そんなに一瞬で思いつくようなものでもない。

 その日はネジャロが前衛で暴れ回り、アランとトワが後方から魔法を放つという陣形で、何度か戦闘をして終了。

 

 だが、新たな課題は突然飛び出しては容赦なく勝負を仕掛けてくるというもの。

 空間破壊リージョンブレイクでは、魔物を魔石や素材ごと破壊してしまうのだ。

 

 防御魔法に別の攻撃魔法。

 冒険者ライフを楽しむためにも、早急な開発が必要となった。

 

 

「下位魔石が11個に、ブラックウルフの毛皮が三、レッドの毛皮が一。

 確かに確認致しました。

 買取金額の銀貨一、銅貨二、銭貨二枚です。

 またのご利用お待ちしております」

 

 トワの沈んだ心に反して、本日の稼ぎはなかなか。初心者向けであろうと侮れない。流石はダンジョン都市国家と言ったところか。 

 悩みに支配されたトワが大きなため息をつきながら宿に戻れば、にっこり笑顔のベルテがお出迎え。

 

「お嬢様!浴場、浴場に行きましょう!」

「えー、浴場って言ってもどうせ水浴びと変わんないでしょ?」

 

 それならはっきり言って乗り気じゃない。いつものようにアランの魔法に任せてしまいたいと考えるが、どうも違うようだ。

 ベルテが耳にした話によると、ここ帰還の岬の浴場は、綺麗なお湯が湧き出る池と、お湯が流れる魔法具があるのだという。

 

「え、それマジ!?文明の利器があるのか!?」

「きっとそうです!行きましょうお嬢様!」

 

 そんなこと言われるまでもない!

 先程まで乗り気じゃなかったことなどまるで嘘のよう。トワは急いで着替えとタオル用の布を引っ掴み、ベルテと共に浴場に向けて突撃する。


「ここだー!とうちゃ、ん!?」

 

 いざ辿り着いた浴場の入口には、赤い布に女、青い布に男と書かれた暖簾がかかっていた。

 しかも漢字で、である。

 

「に、に、日本語!てことはここは!」

 

 転生、もしくは転移した日本人がいたのは確定。

 期待の眼差しで暖簾をくぐれば、やはり見なれた脱衣所と見ただけでドライヤーだと分かる魔法具があった。

 

魔導機械マジックアイテムドライヤー。

 使い方は、ボタンを押すと温風がでるからそれで髪を乾かせと。

 うん。完全にあのドライヤーなんだけど、魔法具じゃないの?」

「お嬢様、魔導機械マジックアイテムは、失われた技術だったり、高価すぎて市場に出回らないものを指すんですよ」

「はぇー、そんなものを脱衣所なんかに置いてていいものかねー」

 

 わざわざこんなものまで作るなんて。

 大方これを作った元日本人が、こだわりの強い人物だったのかなと想像できる。

 

 ――中央ギルドのマスターが元日本人説あるね。

 いつか機会があったら聞いてみよう。

 

 ギルドマスターと会うことが楽しみになったがそんなことは置いといて、服をすぽぽんと脱ぎ捨てカゴに放り込む。

 カラカラと音を立てる引き戸を開けると、この世界に転生して初めてのお風呂が。

 

「サイコー!もうここに住むー!」

 

 シャワーのような魔法具で体を洗い、大きな浴槽へ飛び込む。

 

「「はぁー……」」

 

 ベルテと共に自然と漏れ出た声にくすくすと笑いながら、憩いの一時。

 ぼんやりする頭でダンジョンで浮上した課題について話し合うも、これだ!という回答は出てこない。

 それでも、まぁ今はいいやと思えるほどに久々のお風呂は気持ちのいいものだった。

 

 お風呂上がりのコーヒー牛乳(フルーツ牛乳)は何故か無かったが、その後の夕食が美味しかったのでまあ良し!

 トワの中でこの宿の評価が爆上がり。上限を突き破るほど気に入った。

 

 満腹のお腹をポンポン叩きながら部屋に戻り、いざ寝ようとする時アランに一緒のベッドで寝たいと言われる。

 

 ――ダンジョンでは心配かけちゃったし、今日は甘えようかな。

 

 同じベッドに入り、アランに抱かれる。

 落ち着ける空間。悪くない。

 

 なんて考えていられたのも束の間。

 ダンジョンではしゃぎ、お風呂ではしゃぎ、夕飯ではしゃいだトワの体力は欠片も残っていなかった。

 もしかしたら何かされたのかもしれないが、そういう空気になる前にスヤスヤと寝息をたててしまうのであった。

 

 ――明日こそは、ダンジョンで無双するノダァ……zzz

 

 

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