2-7 気づいた心は止まらない


ベルテ、ネジャロを新たに迎え入れた一行は、トワの独断の元、服屋を巡っている。

 ネジャロは服を着ていると落ち着かないということで、黒の短パンだけ履くという、バキバキの筋肉を見せつけてゆくスタイルに落ち着いた。

 一方ベルテは、あっちもいいしこっちもいいしと、色々な服を持ってくるトワに対しオロオロしていた。

  

「あ、あの、お嬢様。私なんかにこんな綺麗な服は似合いません。今着ているボロ切れで十分ですから」

「ダメですよ、ベルテさん。私なんて、とか言っちゃダメです。

 それに十分きれいなんですから、しっかりオシャレしないと」

 

 この世界の人族の基準で見るのなら、全く、これっぽっちも共感は出来ないがベルテは醜いのかもしれない。

 それは、彼らのにも現れている。

 ネジャロが銀貨六枚だったのに対し、ベルテは銀貨二枚。 

 家事全般でき、馬の世話や御者までできるという有能っぷりでありながら、銀貨二枚だ。

 ただ混血と言うだけで、異常なまでに価値が下がっているのである。

 

 だがそんな些細な事、トワには一切関係ない。

 ベルテは綺麗だ。

 どんな金持ち、例え王族であろうとも醜いと蔑むのであれば罵倒してやる、そんな気概でいる。

 結局、服の方は気に入った物を何着か購入し、彼女は今白いワンピースのような服を着ている。

  

「うん!よく似合っていますよベルテさん!」 

「あ、ありがとうございます……」

 

 二人の服を購入し終えた一行は宿屋シングレイに戻り、追加でもう一部屋借る。

 そしてそのまま、皆でバザールへと繰り出して行った。

 

 

「そういえばネジャロさん。戦闘の時の武器はどうするんですか?」

「そうだなぁ……大剣が一番好みだが、あれは刃の手入れとか面倒だからな。とりあえず棍棒があればそれでいいさ……です」

 

 とのことで、大きさや重さなどリクエストはあるかと聞くと、大きさはトワの身長ほど、重さは重いほどいいと言われた。

 

 ――え、まって。私の身長140センチ位あるんだけど。

 そんなにでっかいの振り回せんの?

 

 かなり重くなるけど、と聞くが全く問題ないと笑われてしまう。

 

「そ、そうですか。なら後で作りに行きましょう」

 

 買いに行くではなく作りに行くと言ったトワには、棍棒にするのになかなか良さそうなに心当たりがあったのだ。

 

 

 買い食いやら何やら、ひとしきりバザールを楽しんだ一行は現在、人目につかない場所、いつぞやもお世話になった宿屋シングレイの厩舎にいる。

 

「さて、今からネジャロさんの棍棒を作るための素材のところに行きます」

 

 厩舎にいることも相まってか、ベルテが馬車を用意してきますと言い、立ち去ろうとする。

 

「いえいえ、馬車は使いません」 

「「?」」

 

 不思議そうにするベルテとネジャロ。それに対してアランはすぐに慣れるよと、余裕の表情だ。

 

「じゃあ、全員手を繋いでください」

 

 四人が手を繋ぎ、輪っかになった状態を確認し、

 

 ――転移テレポート

 

 川の近くにある、巨大な岩の目の前にとんだ。

 

「え?え?ここ、どこですか?」

「マジかよ、目の前にいたはずの馬が大岩になっちまった……」

 

 ここはグレイス王国に来るまでに通った川のそばだ。

 馬に水を飲ませる際に立ち寄ったのだが、でっかい岩が印象的で覚えていたのだ。

 不思議そうにしている新規二人組に現在地を伝え、身分証を取り出す。

 二人に秘密を明かすのだ。

 

「私は空間魔法と時間魔法が使えます。それと、どうも魔力が無限にあるみたいなんですよね」

「お嬢様が、神話の魔法を……初めて見ました」 

「ハァー……オレたち、とんでもねぇ人に仕えることになったみてぇだな」

 

 この際なので、全員にトワが使える魔法【 空間把握マップサーチ異空間倉庫アイテムボックス転移テレポート時間タイム遡行エピストロフィ空間破壊リージョンブレイク 】の説明をしておいた。

 

「説明も終わったことですし、今から空間破壊リージョンブレイクで大岩を削って棍棒を作ります!」

 

 ドッカンバッカンと、大岩を爆発させるようにして削るというより破壊して、一本の巨大な大槌と二本の普通サイズの棍棒を作り出した。

 

「ずいぶん派手な魔法だったね。初めて見たよ」

「そうですねー。棍棒を作るってなってから考えた魔法なので。あ、ちゃんと戦闘にも使えるはずですよ!」

 

 アランの顔は引きつっていた。

 何故なら、こんな魔法掠りでもすればスプラッタ間違いなしだと確信しているからだ。

 そんなアランを気にも留めず、トワはいい攻撃魔法ができたと喜んでいる。

 トワの敵となる者には救いが無さそうだ……

 

「どうですか、ネジャロさん。使ってみて何か要望とかあります?」

「いや、いい感じだ!しっかり重いし丈夫。これならなんでも叩き潰せるぜ。

 それに、こっちの小さい方は狭いところ用だろ?しっかり考えられてるな!

 おっと、考えられて……るです?」

 

 ネジャロはどうも敬語が苦手なようで、今回のはいつもより危なかった。

 

「ネジャロさん。私には敬語じゃなくってもいいですよ」

「うん、それなら僕の方もいいかな」

 

 話しづらそうなネジャロに気を使って、トワに続きアランにも敬語は必要ないということに決まる。

 

「そうか!それはありがてぇ。そういうのは苦手でよ。喋りづらかったんだ」

  

 ベルテも話しやすいようにと誘ってみたのだが、そのままで大丈夫と断られてしまった。

 

「それじゃあ、武器もできたので帰りましょうか。

 大槌は異空間倉庫アイテムボックスにしまっておきますね」

「おう!よろしく頼むぜ」

 

 

 グレイス王国に戻ってきた一行は、ネジャロとベルテの身分証を作り忘れていることに気づく。

 この街で身分証なしで滞在していたら衛兵に捕まってしまう。

 なので、大急ぎで門前の小屋に行く。

 

「ほら、二人とも終了だ。共に犯罪歴はなし。

 主人の名前も入れといたから、宿にも泊まれるようになったぞ」

「ありがとうございました。これでやっと帰れますね」 


 帰り道、二人にそれぞれの身分証を明かしてもらった。

 

 【 ネジャロ・虎人族・男・24歳・犯罪歴無し・魔法適正無し・黒・主人、人族アラン 】

 

 【⠀ベルテ・猫人族、人族・女・18歳・犯罪歴無し・魔法適正 火・黒・主人、人族トワ 】

 

 ネジャロは一切魔法は使えないガチガチの脳筋戦士であることが判明し、ベルテは火魔法が使えることが明らかになった。

 ただし、魔力量は最低の黒なので使えても初級を一回か二回程度らしい。 


 宿へと戻り、恐縮するベルテを説得して四人一緒に夕食を摂る。

 その後はアランの魔法でさっぱりして、あとは眠るだけとなった。

 

「さて、部屋割りですが、男女で分けましょう」

  

 四人になり一部屋では収まらなくなった一行は、部屋割りを男女別に替えて寝ることに決める。

 

 ――きれいなネコミミお姉さんと同室で寝れるなんて最高!

 

 寝る前に少し話をして、せっかくだからと同じベッドで寝ることになった。

 

 ――同室なだけでなく、添い寝までできるとは! 

 これは間違いが起こっても仕方な……ってあれ?

 おかしいな?ドキドキするどころか、すごい落ち着くんだけど。

 こんな美人に抱き枕にされてそういう気分にならないなんて、ちょっとおかしくない?

 ……これならアランさんと一緒に寝たときの方が

 ん!?まって、今何考えた?


 疲れている、のか?おかしなことを考えてしまったトワは、ベルテの腕の中で恥ずかしさに身悶える。

 

 ――確かにアランさんには沢山助けられたし、優しいし、それにかっこいいとも思う。 

 けどっ、それは恋とかそういうのじゃなくて、ないはずで……だって、心は男のはず、なのに。

 

 でも助けて貰った時、一緒のベッドで寝た時、暖かくて居心地が良かった。いい匂いもしてた気が――

 

 ただ感謝の気持ちがあっただけだと思っていたのに。こんなにも胸が苦しい。

 もう、完全にアランさんのこと、好きに……

 

 気づいてしまった。元の性別が男だとか、そんなのはこの気持ちの前では些細なことに過ぎない。恥ずかしくなったトワはベルテの胸に顔を埋めて眠った。

 

 

「みんなおはよう」

 

 結局よく眠れなかったトワと、元から早起きのベルテが朝食を食べているところに、アランたち男子組が起きてきた。

 

「おはようございます。ご主人様」

「お、おはよう、ございます」

 

 礼儀正しく挨拶するベルテと、俯きながらボソボソと挨拶を返すトワ。

 

 ――どうしよう、顔見れないんだけど……

 

 昨夜、自分の気持ちに気づいたところまでは何とかギリギリ耐えられた。

 だが、会ってすぐに泣き喚くわゲロったところを見られるわという醜態を晒していることにも気づいてしまったのである。

 恥ずかしさもさることながら、情けないという感情もかなりの割合を占めている。

 

「今日は中途半端に終わってしまった工房見学の続きをしようと思うんだけど、みんないいかな?」

 

 アランの提案に、トワ小さく頷くことしか出来ない。

 

 

 工房見学はアズーラ工房のアクセサリー作りから始まり、武器や防具、陶器など様々な工房を見学することが出来た。

 しかし、アランのことが気になりそれどころでは無い。

 チラチラとアランの横顔や後ろ姿を盗み見ながら、小さくため息をつく。

 

 そんな感じでモヤモヤとした一日が過ぎていった……

 

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