第51話 通り夢のかんばせ 4
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この道は海岸沿いにあって、右手は砂浜、左手は広い駐車場や休憩所になっている。
閑散としていて逃げこむ場所は存在しなかった。
近くに建物は二つしかない。
一つは私のいたリゾートホテルで、この足では到達不可能に思える程度の距離があいている。
もう一つも同じ業種の「グランドホテル海月」で、射手はこの建物の上階から狙撃しているらしい。
こちらのやはり、この足では到達不可能だった。辿り着く前に行動不能にされてしまうだろうし、辿り着けても、射手を捕まえられるとは限らない。罠だってあるかもしれない。
命乞いをして、助けてもらえるとは思わなかった。
〈ホール〉で行う事はすべて趣味であるべきである。そして実際この射手は、人を狩ってみたいから今こうして撃っている。狩りが終わるまではやめる理由がないのだ。
一番良いのは、どうにかして射線の外にまで逃げてしまうことと思われた。車があればそれができる。
私は一番近くの車を目指して転がっていった。
そのあいだも客人は弾を撃ってきた。その精度は確かなものだった。
弾丸が耳を貫通した。
空気銃なのだろうか火薬の音はしなかった。
頬の肉が削がれる。
コメカミを削られる。
片目を射貫かれた。
二発目に足を撃った以外では、この射手は執拗に顔を狙ってきた。腕や背中を狙った方が簡単に動きを止められるだろうに。
何か執着があるのか、遊んでいるのかは不明だ。どちらにせよ、こちらに選択肢はない。
駐車場には何台かの車が停まっている。
もちろん〈ホール〉に持ち主は存在しない。私も持ち主じゃない。つまり鍵を持っていないということだ。
とにかく接近できた車へとりつき、取っ手をガチャガチャいわせる。
残念ながら鍵が掛かっていた。
他の車を探したいが、そうそう許してはもらえないだろう。射手としても遊んでいる余裕はなくなってきたはずだ。
方向転換しようとしたところへ、次の弾が撃ちこまれた。頭部を狙ってくるのは分かっていたから、腕で庇った。
回転する弾丸は、防御した腕を抜けた後、車の窓ガラスを吹き飛ばした。
射手は驚いたろう。私は低くしゃがんでいたから、腕に当たった弾が、上にある窓ガラスまで逸れることはあり得ない。
理由はシンプルで、弾丸がそれほど大きなものではなかったから、筋繊維や骨のせいで軌道が逸れたのだ。
狙っていた、といえるほどではないが、期待はしていた。
私はガラスを払って車の中へ飛びこんだ。
座席の下にしゃがんで、当面は被弾の心配はなくなった。
とはいえ、射手がホテルから出て近づいて来たらどうしようもない。
車を出したい。だが、繰り返すが私は鍵を持っていないのだ。
車内を探して、鍵は見つからなかった代わり工具を入手した。映画で見たあれをやるしかないだろう。ハンドル下の配線を露出、直行させてエンジンをかける、あれだ。
私は車にはまるで知識がない。しゃがんだ姿勢と腕の怪我に難儀しながら、がちゃがちゃやった。驚いたことに成功した。
本当に大丈夫なのか心配だが、迷っている暇はない。車を発進させた。
まっすぐ駐車場を出たところで、タイヤをパンクさせられた。
構わず曲がろうとするがハンドルが動かない。
ハンドルロックというやつだろうか? 曲がれない。それどころか、エンジンさえ止まってしまい。車は道路のまん中で立ち往生してしまう。非常に危険だった。
射撃の的になるだけではない。まさにこのカーブの先に〈通り夢の花嫁行列〉が迫っているのだ。
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