前夜祭2日目

1次会 ‌参加者を募る

「私は絶対に出ない!」


 ‌部室に戻ってくると、茜さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

 ‌先に戻っていた茜さんと部長が言い合ってるようだった。

 ‌山崎先生は、僕と南部さんを静止させ、少し待つようにとジェスチャーをした。



「私は酒姫になるのをんだよ。あいつら、正統派だか知らないけど、あの通りの奴らだよ。あんな風に陰で悪口言い合ってるんだよ。周りを蹴落として自分を相対的にあげようとして。気が悪い。もうあんなやつらとは関わり合いになりたくない」


「……けど、茜氏。あんなこと言われて悔しくないの? 僕は悔しい」


 ‌何を言われてもダメージを受けないような部長が、茜さんの事を言われて傷ついているようだった。


「あいつら、茜氏の魅力を全然わかってないよ! ‌好き勝手言って! ‌僕はずっとそばで見てきたからわかるんだ! ‌茜氏はあんな奴らよりずっと素晴らしい! ‌あんなやつらに負けないくらい可愛いんだから!」


「……は?……‌なんだそれ」


 ‌茜さんは意表を突かれたようで、少し怯んだ。



「暴力的なところはあるけれど、ちゃんと手加減してくれていることを僕は知っているんだ。癖が強いように見せて、優しい一面も持っている。女の子からもモテていることを知っているよ!」


 ‌机を叩く音が聞こえた!


「霧島茜氏! ‌ここは覚悟を決めてくだされ!」

「……なんだよ」



「僕が茜氏をプロデュースするでござる!」


 ‌部長の渾身の宣言が、部室を飛び出で廊下まで響いた。


「……おい、クロ。藤木に感化されてんじゃねえよ」


 ‌南部さんが山崎先生の静止を振り切って部室へと入っていった。


「茜さん、一緒に頑張りましょう!」


「……なんなんだよ。聞いてたのかお前ら……」

 ‌茜さんは複雑な表情をしていた。


「私は、ここが、この部屋の居心地がよかったからいるんだ。あんな酒姫みたいなやつらにはなりたくないんだ」


「そしたら、この部屋を一緒に守りましょう! ‌ならできます!」


 ‌南部さんは茜さんの手を取っていた。


「いいじゃないですが、正統派だかなんだか知らないですけど、個性派がいてもいいじゃないですか! 茜さんには茜さんのいいところがいっぱいあります! ‌酒姫部のあんな方達よりもとても魅力的です!」


 ‌南部さんは茜さんを必死に見つめている。


「私と一緒に酒になりましょう! 」


「……なんだよ。お前らは……」


 茜さんは、‌南部さんのキラキラした眼差しを受け止め切れず、こちらを向いてきた。


「……もうやらないと思ってたんだけどな……。……藤木、お前のせいだからな。……今回だけやってやるよ。最終的にはお前が責任とれよ」

「……えっ……。責任って……」


「……私たちを、立派な酒姫にしろよな。中途半端は許さないからな!」


 ‌部長は座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、座っていた椅子が後方に倒れた。


「おおお! ‌それって! ‌茜氏参戦決定! ‌これは!! ‌一大事!!」


 ‌部長は興奮して、机をバンバン叩いている。

 ‌相当嬉しかったのだろう。

 感情を爆発させ過ぎて、机が壊れないか心配になった。



「これは! ‌みんなに拡散するでござる!」


 ‌部室の中を走り始めた部長は、茜さんに思いっきり蹴られた。


 ‌茜さんはいつもの表情に戻っていた。

 心なしか、いつもより‌少し笑顔に見える。


「団体線は、3人で1組なんだろ? ‌出場するにしても、あと一人集めないとだろ」


「大丈夫です! ‌みんなで探しましょう! ‌今ならなんだってできる気がします!」

「そうだよ! ‌茜氏が参戦すればなんだって出来るよ!」


 ‌南部さんと部長は、手を取り合って陽気に踊り出した。

「茜さんがいればなんだって出来るー!」

「茜氏がいればなんだって出来るー!」


 ‌その輪の中に入れなかった事を少し残念に思いながら、茜さんを見ると、茜さんはいつも見せないような優しい笑顔になっていた。


「私だけじゃなくて、お前達も頑張るんだよ! 藤木も見てるだけじゃなくてなんかしろ!‌」


 ‌唐突に話を振られてもと困ってしまったが、流れに身を任せて僕は答えた。


「茜さんがいれば、なんだって出来ます!」


 南部さんと部長は、目を輝かやかせてこちらを見てきた!


「藤木君!」

「藤木氏!」


 ‌僕も部長と南部さんの踊りの輪の中に強制的に組み込まれ、踊らされた。


「茜さんがいればなんだって出来るー!」

「茜氏がいればなんだって出来るー!」

「出来ますよ、大丈夫です!」


 ‌茜さんは流石に呆れた顔でこちらを見てきた。

 ‌ボソッと小声が聞こえた。


「……まぁ、こういうのも嫌いじゃないけどな」

 ‌茜さんの優しい笑顔が見れた。



 ‌――その後、部長と僕が、茜さんから蹴られるまで踊りは続いた。

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