第5話 異常発生

 翌日以降も例年どおり私たちはゾンビスモークを焚いては寄ってきたゾンビを退治するというのを繰り返しているのだが、今年はどうにも様子がおかしい。


 去年は三日目にもなると、寄ってくるゾンビはほとんどいなくなっていた。だが今年はその勢いが衰えないどころか、益々増えているのだ。


 まるでゾンビがどこかから湧きだしているのではないかと思うほどだ。


「隊長! これ、まずくないっすか?」

「ああ。これは異常事態だ。一体どこからこんなに湧いてくるんだ」

「はあっ。はあっ。浄化っ!」


 さすがにちょっときつくなってきた。ずっと奇跡を連続で使っているせいで頭がクラクラしてくる。


 衛兵さんたちはまだまだ余裕がありそうだが、基本的に私は非戦闘員なのだ。


 時間のあるときに多少の運動はしているものの、毎日訓練している人たちとは比べ物にならない。


「隊長! ホリーがそろそろ限界です!」

「ああっ! くそっ! 仕方ない。火の使用を許可する!」

「わかりました!」


 ああ、悔しい。


 私が参加する前はこのやり方をしていたそうなので大丈夫だとは思うが、山火事の恐れもある危険な方法だ。


 なんとか頑張らなくては、と思うものの体力不足はどうにもならなかった。


 やがて私は動けなくなってしまい、その場にへたり込んでしまう。


 それと同時に火が放たれた。


 すると腐った肉が焼ける不快な臭いが漂い始め、そしてこの不快な臭いに誘われてさらにゾンビたちが集まってきた。


 もちろんゾンビスモークを焚いたときほどではないが、それでも腐肉の燃える臭いはゾンビを呼び寄せるのだ。


 こうなってしまえばあとは延々と襲ってくるゾンビたちを倒し続けるしかない。


「ほら、ホリーちゃん。ちょっと休みなさい」

「ヘクターさん……ありがとうございます」

「ごめんね。ちょっと無理させ過ぎたね」

「いえ、すみません」

「いいよ。ホリーちゃんは衛兵じゃないんだから」


 申し訳なさで一杯だが、もう限界だ。


 素直にヘクターさんの言葉に甘え、その場にへたり込んだまま戦況を見守る。


 あちこちでゾンビが燃やされており、その臭いにつられて続々とゾンビが押し寄せてくる。


 やがて炎は枯れた下草に燃え移り、そしてあっという間に燃え広がっていく。


「ああ、森が……」

「ホリーちゃん、仕方ないよ。ホリーちゃんがまだ奇跡を使えなかったころはこうしていたんだ」

「はい……」

「それにある程度燃えたら勝手に鎮火するからさ。大丈夫だよ」

「はい……」

「大丈夫。薬草だってまた生えてくるよ」

「はい」


 こうしてヘクターさんに励まされながら、私は燃え盛る木々をじっと見つめるのだった。


◆◇◆


 それから数時間ほど経ち、私たちの周りはすっかり焼け野原になった。


 にもかかわらず、焼け野原の向こうからゾンビたちがやってきている。


「ちょっと、これはどうなってるんだ?」

「隊長、ヤバいですよ。いったん引き返したほうが良くないですか?」

「だが、あれを連れて帰るわけにもいかないだろう」

「それはそうですけど……」


 ヘクターさんの指さした先には、おびただしい数の鹿のゾンビが私たちのほうへと向かってゆっくりと歩いてくる。


「私、がんばります! あとちょっとくらいなら!」

「ホリーちゃん、本当に大丈夫かい?」

「はい。さっきまで休ませてもらいましたから」

「でも……」

「ホリー、本当に大丈夫なのか?」

「ニール兄さん……大丈夫! ただ、あれを浄化したらたぶん動けなくなると思う。だからちゃんと私はホワイトホルンまで運んでね」

「……分かったよ。ちゃんと俺が連れて帰る!」

「よし、じゃあホリーちゃん。頼んだよ!」

「はい!」


 私は気力を振り絞ってなんとか立ち上がると、衛兵さんたちの倒したゾンビに近寄って浄化の奇跡を施していく。


「ホリーちゃん! こっちも!」

「はい!」

「ホリーちゃん!」

「はい!」


 大体五十匹くらい浄化しただろうか?


 ふと、私を呼ぶ声が聞こえてこなくなる。


「え? 終わり?」

「ああ、ホリー。よく頑張ったな」

「あ、ニール兄さん……」


 その声を聞いた瞬間ふっと意識が遠くなり、私の視界はそのままブラックアウトしたのだった。

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