俺の嫁が実妹だった!?

日々菜 夕

俺の嫁が実妹だった!?


「あのね。おにいちゃん。実は、私、これに出てるんだよね……」


 それは、とうとつに始まった妹のカミングアウトだった。


 お互いに歳を重ねるにつれプライベートな事とかには干渉かんしょうしなくなっていたこともあり。

 俺の部屋に妹がやって来るのなんて数年ぶりのことだ。

 しかも、その手に持っているのは友人から勧められたゲーム。

 いわゆるR18版のエッチなゲームだったのだから驚きだ!

 さらに付け加えるなら、登場人物の一人が俺のハートを射抜き。

 2次元世界なれど、俺の嫁と言っても過言ではない存在にまでなった桜木さくらぎ 舞華まいかちゃんがいらっしゃるゲームなのだ。

 舞華ちゃんは、サブヒロインという立ち位置にもかかわらず一番人気を勝ち取り。

 次回作は、舞華ちゃん中心の物語が作られるとの発表まであったくらいである。

 もちろん俺も、大喜びした。

 勢いに任せて抱き枕も購入し毎晩お世話になっているくらいである。


 この時の俺は、まだ――

 そんな楽しい日々をぶち壊すカミングアウトがなされるとは夢にも思っていなかった。


 妹は、うつむきかげんながらも頬を染め。

 眼鏡越しに上目づかいで俺の瞳を真っ直ぐに見すえている。

 パッケージのイラストこそ健全な学園物を演出しているが、中身が中身なだけに恥ずかしいのは良く分かる。


「さ、最初はね、友達の付き合い、っていうか、付き添いで行っただけだったの。それなのに担当の人が体調不良でこれなくなっちゃて、バイト代出すからかわりにやってみてくれないかって話になっちゃて。その場の勢いっていうか断れない雰囲気になっちゃってね! やってみたらこれも声優さんのお仕事の一環なのかなって感じで楽しくなっちゃって! で、どう思う?」

「ど、どう思うも何も、お前、声優とかに興味あったりするの?」

「う、うん。これでも一応、レッスンは受けてる身だからね」


 知らなかった。

 よもや、妹が声優を目指していたとは……


「で、脇役か何かやらされたのか?」


 おそらく、ヒロイン達の友人AとかBとかをやらされたのだろう。

 普通の、レッスンしか受けていないであろう妹にエロイ演技とか無理だろうしな。


「脇役っていうか、一応、サブヒロインの桜木 舞華って言う娘なんだけど知ってる?」

「はぁ~!?」


 思わず、椅子から立ち上がってしまった。

 今、コイツは何と言った!

 聞き間違いでなければ桜木 舞華と言ったぞ!


「えと、その反応だと、もしかしなくても、おにいちゃん知ってるんだね……」

「あ、ああ、まぁ、それなりにはな……」


 どこが、それなりにはだよ! 

 今、一番のお気に入りで、毎日お世話になっている娘じゃねぇか!

 ま、まさか俺は、妹の演技で喜んでいたとでも言うのか!?

 こうして話してたってまるで、別人だとしか思えねぇし!

 声色だって全然違うじゃねぇか!

 舞華ちゃんが可愛いアニメ声なのに対して妹は、普通の声色だ!

 それともなにか!

 もしかして、俺の妹ってとんでもねぇ天才だったりするのか!?

 いや、まて、確定するのはまだ早い!


「なぁ、素朴な疑問なんだが、声優のレッスンってエロイ演技とかもすんの?」

「し、しないよ! だから見よう見真似っていうか、その場の勢いとノリでなんとなくやったらスッゴク上手いって褒められちゃって、悪乗りしちゃったというかなんというか……」

「そ、それで、桜木 舞華を、お前が演じたのか?」

「う、うん。で……ど、どうだったかな?」


 どうだったも何も、最高でした!

 なんて言えるか!

 眼鏡をかけた一見地味なサブヒロイン。

 なれど、いったんエロイシーンに入ると何かが憑りついたのかのごとく豹変し、俺ら男の心を鷲づかみにしやがった演技力。

 次回作が作られるという事実は、だてではないのだ!


「ま、まぁまぁだったんじゃないかな……」

「そっか、悪くはなかったんだよね?」


 身内びいきがあるとはいえ、それなりに可愛く育った妹が、照れながらも笑みを浮かべている。

 比較的短めのヘアースタイルとか、くせっ毛のある所まで舞華ちゃんを思わせる。


「あぁ、初めてにしては頑張ってたと思うぞ」

「一応、ありがと……で。いいのかな? そ、それでね!」

「お、おうなんだ!?」


 妹が顔を上げ、気合の入った顔で見つめて来るから思わずのけ反ってしまう。


「私、このお仕事頑張ってみようと思うの!」

「そ、そうか。頑張れよ……」


 色んな意味で複雑な心境だが、仕事は仕事。

 妹が、その気になっているのならば応援してやるのが兄のつとめってもんだろう。


「ホントに! おにいちゃんは応援してくれるの!?」

「まぁ、お互いもう大人なんだし。仕事を選ぶ権利くらいあるだろ?」

「で、でも、お父さんとお母さんには、さすがに言えないかなって……」

「そうだな、普通の声優さんとは違う仕事だもんな」

「だからね、この事は、秘密にしてほしいかなって」

「あぁ、わかったよ」


 って、いうか俺の方が言えねぇよ!

 実妹の声でヒャッハーしてたなんて!


「じゃ、じゃぁ、また感想きかせてね?」

「それは、つまり次回作も買えってことか?」

「だって、応援してくれるんでしょう?」

「わかったよ、付き合ってやる」

「ありがとう、おにいちゃん!]


 こうして始まった俺達の関係。

 妹の出演する作品を買っては、感想を伝えると言う奇妙な物語が幕を開けたのである。



 おしまい

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俺の嫁が実妹だった!? 日々菜 夕 @nekoya2021

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