カクヨムの新機能『カクヨマズ』が追加!

ちびまるフォイ

本編をちゃんと読んでください!

「はぁ、なにかネタないかなぁ」


SNSを見飽きた流れでカクヨムの作品を開いた。

適当にクリックした作品に入ると、どこまでもスクロールする目次。


「いったい何話あるんだよ……」


もはや本編がどれで、どこがあとがきで、どこが閑話で、どのあたりが「〇〇side」かもわからない。


番外編や総集編に親を殺された過去があるため、

そういった本編に関わらない話は読む気がしない。


とはいえ、作品を開いたからには1話くらい読むのが礼儀だと思って小説を開く。


待っていたのは大量の文字の海。

と、その横に「この話のあらすじ」が書かれていた。


「あれ。こんな機能あったか?」


調べてみるとカクヨムで最近実装された新機能らしい。


登録者が増えて、作品も増えているのに時間は有限。

そこでAIが自動で作品のあらすじを生成してくれるという。


「便利な機能じゃん。これで全部読まなくて済むぞ!」


本編には目もくれず、そのサイドバーに表示されるあらすじで読み進めた。


普通なら30分はかかろう1話を数秒で読了。

一気に最終話まで展開や登場人物を把握することができた。


「あっという間だったな。これならもっとたくさん読めそうだ」


この機能があれば負担も少なく大量の作品を読める。

気にはなっていが長すぎて疲れるので避けていた作品にも手が伸びた。



長いだけの本編は読まずに、あらすじのほうでその話の概要をつかむ。


エッチなシーンや、グロめのシーン。

登場人物の大きな成長や、誰かの死といった印象的なシーンが有る場合は

あらすじから一旦離れて本編をちゃんと読む。


あらすじだと、あっさりめに「〇〇が死んだ」とだけ書かれているが

ひるがえって本編を読むと、死にドラマが描かれているのでわかりやすい。


「このあらすじ機能はまさに俺のような忙しい人のための機能だな!」


ニートのスケジュールはいつも分刻みなのだ。




あらすじ機能が追加されてからしばらく経った。



本屋さんで週刊誌をパラパラとめくる感覚で小説を読んでいく。


あらすじの中でベッドシーンが含まれていたのを確認すると

すぐに本編に戻ってそのシーンを探していく。


辞書でエッチな単語を探す中学生男子の経験がここに生かされている。


「あった! ここ……か?」


本編に描かれているベッドシーンの箇所を見つけた。

しかし、書かれているのはAIで自動生成されたあらすじとほぼ同じ情報量。


「じゃあ寝よう」

「ハイご主人さま」


そんなあっさりした書かれ方だった。


「なんだよこれ! もっとちゃんと書いてくれよ!

 これじゃなんのために読んでるのかわからないじゃないか!」


いいがかりといえばそうだが、たぎった感情をぶつける矛先が必要だった。

怒りにまかせて執筆者に怒りのファンレターを送ったところ、返事はすぐに戻ってきた。


「だって、どうせあらすじしか読まないんだから、本編をこだわって書いても意味ないじゃん」


「ばっかやろう! あらすじがおもしろそうなら本編を読むんだよ!」


「そんなのはごくわずかさ。力いれて書くだけ無駄だよ」


「そんなことないだろう!?」


「他の作品の本編も見てみろよ。みんな同じことやってる」


「え?」


あらすじしか読んでなかったので本編の書かれぐあいを知らなかった。


他の作品でもあらすじ以上の情報量を盛り込むことはなく、

あらすじを読めば本編と同等の内容を理解できるつくりになっていた。


「なんだよこれ。どれも本編とあらすじが一緒じゃないか!」


これじゃAIに適当な単語を入れてあらすじを自動生成してもらったものを

作品としてネットで公開しているのとなんら変わらない。


作者の感情や、文体のクセといった"味"が一切感じられない。


「これじゃ作品じゃなくて、ただの情報だよ……」


このままじゃカクヨム文学が廃れてしまう。

そんな危機感を感じ、持て余したヒマの使い道が決まった。


「必ずカクヨムに文学を取り戻してやる!!」



そうして幾多の星間戦争のすえに「カクヨムあらすじ機能」の撤廃を勝ち取った。


失ったものは大きい。

それでもカクヨム作家が人間性を取り戻せたのなら御の字だ。


あらすじ機能撤廃で怒る読み専も多かったが、

それもちゃんと本編書かれた小説が増えるにつれ声は小さくなった。


きっとみんな作者の描く雄大な冒険譚や、

心おどるファンタジーがちゃんと読みたかったんだ。


「取り戻したぞ……! カクヨムのあるべき姿を取り戻したんだ!」



そして俺は今日もしっかり書かれた本編を、さっと目を通すだけでブラウザバックした。


長いんだもん。

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