第51話 アルマの話

 魂を研究していた私は新しい魂の製造も可能としていた。それを使って世界を観察した。何故やったのかは色々ある。その中に友と出会いたくなかったことも含まれていたよ。彼は酒を交わし合った友だった。その友と再会して、正直に自分が犯人であると言わんばかりの発言をしてしまった。胸が痛い。張り裂けそうになるぐらいに痛い。


大魔術師は悪い輩ばかりではない。寧ろいい輩ばかりで、よりよい国にするために、前へ進むために精進していた者ばかりだった。それでも私は覚悟をして滅ぼした。そのはずだったのにこのザマだ。数千年も経った今でもそうだ。


 話が逸れてしまった。本題に入るとしよう。見るためだけに作られた魂を操作して、神々がいる天の世界と地上の世界を交互に観察していった。


 天の世界では地上の状況がよろしくないことを知った神々同士が話をしていた。厄介な大魔術師、つまり私を殺す方法。地上の復興をどうすべきか。議論を重ねて、神々は結論を出した。それこそ神々の眷属の誕生に繋がり、神獣族やアプカル族達が生まれた。


 ここでアプカル族の子のもう一つの質問の答えと結びつけることが出来る。だからここで答えよう。何故誤算だったと発言したのかを。


 神々の眷属は魔力を持っていない。精神に干渉するような魔法が効かない性質を持っている。何よりも身体能力が高く、元となった動物や植物の特徴を引き継いでいる。私が召喚したというか、作った獣は完全に大魔術師殺しに特化していたから、君達が相手だと一方的にボコボコにされてしまう仕様だったんだよ。


「再生能力持ちでクソ面倒だったんだけど。どれだけ時間かけて倒したと思ってるわけ」


 合成しちゃったから数は少なくなったけど、それでも全部討伐出来た君達が言うことではないよね。ああ。また逸れちゃった。


 私は神様から狙われていたわけだし、彼らを維持させながら、身を潜めながら、様子を見ることにしていたよ。あの後、神々の眷属は新たな文化を築いて栄えた。神を祀り、農作物を育て、牛や羊を育てて。規模は古代文明の時より遥かに小さいけど、のんびりとしていた。見ていてずっとそのままでいて欲しかったと思っていたぐらい、私は好きだった。


 けどそう長くは続かなかった。時代は再びニンゲンとエルフの手に渡った。この世界の魔力が元に戻り、少しずつ違う形で魔法が発展していったからね。共存出来ていた時代もあったけど、競争という生き残りに関しては圧倒的に神々の眷属の方が弱かったよ。技術を上げるなんて発想がなかったからね。


 いくつもの戦争で滅び、災害で滅び、そして……最後まで存在していた神獣族とアプカル族さえも何処かに消えてしまった。僕でさえ彼らがどこに行ってしまったか、全く分からなかった。


「獣を起こして今すぐに殺せばよかったのでは」


 ……アプカル族のお嬢さん、結構暴力的な発想を。神獣族の君も賛同しているけど、君たちはどっちの味方なのかな?


「感情どうこうを排除して、効率よく自分が独り勝ちをするためにはこういう考えになるでしょう」


 私を何だと思って。でもそうだよね。結果的に私は友だった大魔術師を殺し、生活をしていた罪のない人々を巻き込んでしまったわけだし。


 理論上は獣を起こすことぐらい可能さ。私自身の魂を代償としちゃうから、すぐに消えちゃうから意味ないし、やらなかっただけだ。魂はずっと同じままではないからね。様子を見ながら、ずっと僕自身の強化をしていたし、資源回収を神々の目から逃れてやっていたよ。集めて集めまくって。年数を重ねて。大昔と変わらないぐらいでも問題ないレベルまで力を獣達に与えた。数百年かかっても問題なかった。魔力持ちを殺す獣だからね。


「復讐は大昔に達成できたのではありません?」


 違うよ。これは復讐ではない。全てを変えるために動いているだけなんだ。ここは魔力で全てを変えることが出来る。持てば持つほどいい。そういった風潮が出てくるし、有無による差別が生まれ、加速していく。魔法の技術が上がれば、そうなってしまうものだよ。誰も止められない。ならば最初から魔力を無くせばいい。魔力無しの仕組みを作り上げればいい。


「なんて浅はかな考えでしょう。それでもあなたは七大魔術師ですの?」

「ちょ。いくら何でもそれは言い過ぎ!」


 本当に容赦のないアプカル族の子だ。


「考えが同じでも言わないよ。てか。普段ならオブラートに言ってるでしょうが」


 敵対してるようなものだから、それはしょうがないと思うよ。ところで神獣族の君、考えを教えてくれないかな。私のやりたいことが達成したら、この後どうなることかを。ものすごく嫌そうな顔をしてるね。


「何でそういう質問を私にぶつけるの」


 アプカル族の子から浅はかだと指摘されたからね。それに私は喋ることしか出来ない。色々と聞いておきたい。


「うーん。いつだって解決したら、また問題が出てくるんじゃないかな。基本その繰り返しって感じ。私達が住んでいるところ、魔力なんてないけど、腐る程問題があるわけだしね。高速鉄道の開発のために森を破壊しちゃったらしいし。技術をあげて出来た工場があるから効率よく物が作れるけど、水と空気が汚くなったし。ずっとこんなもんだよ」


 君達に問う。私が取っていた選択肢は間違っていたのだろうか。


「そんなの知らないよ。依頼されて狩りをしただけのお仕事人だし、ここの世界の住人じゃないし」

「ですわね。それに時と場合で判断されるものでしてよ」


 ドライだなぁ。でもそうだったね。依頼を引き受けて、狩っただけなんだよね。

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