第29話 同時討伐。ウォルファ編。

 今回はほぼ同時のタイミングになりそうだ。というグロリーアの報告から、私達は二手に分かれて行動することになった。海と大陸。かなり極端な環境の違いからすぐに決定した。問題は移動手段だ。一つだけの場合、グロリーアの空間転移でどうとでもなるのだが、今回は互いに別方向である。ただでさえ長距離移動だと負担が大きい。


「そういうわけでこれ第二パターンもちょろっとだけ使う感じだよね。というか頼めてるの?」


 予め空間転移の使い手で、尚且つ、滅びの獣の調査をしている者をグロリーアが手配してくれていた。


「ああ問題ないよ」

「おっすー」


 意外にも会ったことのある人物だった。グロリーアよりも年上のアンチエイジング効果で子供っぽく見えるタファだ。


「少し会わないだけで、恰好がだいぶ変わってるのはどゆこと?」


 タファが私達の格好を見て驚くのも無理はない。首の下から足の先まで伸縮自在の黒色の薄い生地のタイツのようなもの。胴体部分は銀色でコーティングされた非金属の頑丈なもので出来たもの。頭を覆うヘルメットに近いもの。私達の世界で野外活動といえば、こういう格好なのだ。動きやすく、頑丈である。


「これは最新技術を取り入れたバトルドレスと言っても過言ではないんすよね」


 自慢げに語るソーニャ。そういえば合成金属などのプロジェクト参加者だった。


「君がソーニャだね。初めましてー」

「どもっす」


 緩くて短い挨拶を交わした。うずうずしていることが顔を見て分かるが、緊迫した状態なので彼らの望みはすぐに叶いそうにないだろう。


「本当はゆっくりお話ししたいんだけど、時間がないと思うから」

「そうだね」


 このように軽く話して、早速移動開始である。私はタファと共に、カエウダーラはグロリーアと共に。ぽんぽんと地点へ移動していく形なので、冒険とか旅路なんてものはない。そもそものんびりしているようなものではない。


「着いた! おっすー!」


 空間転移の回数は十三回。前のやたらと長い国家よりも多い。木の小屋の窓から様子を窺う。緑色で広がった葉っぱの木々が広がっている辺り、気候はアルムスと大差ないだろう。


「タファ。ここは」

「うん。ダークエルフィニア自治領だよ。エルフの中でも肌が黒い者達が住むところと言ってもいい」


 静かだ。人々の争いというものが一切ない平和な森だ。そう思いながら、私は背負ってきた鞄から、二丁拳銃を取り出す。レーザーの剣の電気量のチェックも忘れない。小道具もだ。丸くて重い爆弾。肉体の組織を腐らせる差し込み型のもの。音を鳴らす爆薬。久しぶりの一人での狩りだ。手段は限られてくるが、やるしかないのだ。


「よし。行こうか」

「はーい」


 チェック完了後、タファに付いて行きながら移動していく。時間は数分程度だと思う。木の看板でタファの足が止まった。毛皮のコートを着る黒い肌のエルフェンが迎えに来ていた。


 何を言っているのかは不明だ。民族独自で全く理解出来ない。それでも雰囲気で同じ研究仲間であることぐらい分かる。そして私を見て、好意的であることも。


「お願いしますだそうだよ。もう既に目覚めている。討伐を頼む。一本道の奥。洞窟の前にいる」


 かなり深刻だった。私は静かに頷き、全速力で行く。森を切り抜け、原っぱのようなところに出てきた。焦げ茶色の固めた山に穴。これが洞窟だろう。その前に私のターゲットがいた。


 第一印象としては「まず乗れそうにない」ということだった。大きさがテレッサ村にいるものに比べて、倍以上あるだけではない。気性がとにかく荒い。目が合った時点で襲い掛かって来たぐらいなのだ。そういう馬らしい。いや。グロリーアから見たら、これは一本の角を持つ馬ではなく、一角獣というものらしいが。


「おっと」


 ひたすら角で傷つけようと突進しに来ている。それと同時に電流が外に迸るような音が耳に届く。いつの間にか天候が悪くなっていた。黒い雲。鳴り響く音。雷と呼ばれる現象を奴が起こしたのだと理解する。だが効かない。元々このバトルスーツは悪天候でも動けるように設定されたものだ。しかし本来の雷は煩いはずだが、思ったよりも音の大きさが収まっている。何故だろうか。


 避けながら考えていく。このままだと逃げている一方だ。一度怯えさせるような、動きが止まるようなことが起きればと思考していく。いっその事、角をへし折る手も考えたが、間合いの関係上かなり厳しい。二丁拳銃を持ちながらの戦闘も今回は無理そうだ。動きながらとなると、命中率が下がってしまう。ただの牽制ぐらいの役目しかない。


「あ」


 そうだと私は思い付く。何故雷の音が小さいか。それは自滅しないようにするためだろう。どれだけ強いものだろうと、所詮は獣でしかない。弱点は明確にある。腰のポーチに触れる。手探りをして、あるものに触れる。植物で出来た筒に火薬を入れた爆竹というものだ。火力はないが、音をデカく鳴らしてくれるものだ。


「しょっと」


 素早く点火させ、爆竹を投げる。耳に響く破裂するような音で正直嫌いだが、これで効果があるのなら、私自身が一時的に不快になっても構わない。奴の足が止まる。驚くように前の足を高く上げ、反るような仕草をする。チャンスはここしかないと、右手でレーザーの剣を握る。一撃で仕留められないことを理解しているので、まずは足から潰しておく。支えてくれる足がなくなったことで、奴は地に倒れる。衝撃を和らぐものがないため、胴体の影響は相当あるだろう。


「残念だけど意味ないよ。それ」


 雷の音がまた聞こえた。しかしこれがどれだけ意味のないものかを獣は知らない。素早く胴体と首を分けていく。獅子っぽい一体目の時みたいに再生されたらたまったものではない。


「あっぶな」


 油断していた。奴が噛みつこうとしていたみたいだ。咄嗟に左手で角を持つことが出来て良かった。


「ん?」


 光線のようなものが見える。角から出ている。とりあえずと手の力で角を砕く。真っ二つに綺麗にとはいかないが、これで多少はやりやすくなるだろう。そして一丁の拳銃を取り出し、頭を撃っておく。致命傷になっているのに、生命力が溢れんばかりというバケモノだ。解体中も何度も反撃されそうになった。報告書で出したら、あっさりと倒したように思える人も出るところが……地味に辛い。合成獣みたいに解体して完了ではない。白い文字が刻まれている黒い石を見つけて破壊をしなくてはいけないのだ。


「苦戦してないけど……疲れた」


 数時間後、ようやく要となるものを破壊して終了した。カエウダーラは無事にやっていけているのだろうか。

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