第28話 魔力の有無
今日はソーニャを武器屋に連れて行った。何故か店主とディスカッション開始。相変わらず分からない言葉ばかりだが、楽しそうなのは理解する。
「これどうしようか」
「あとで頼めばいいと思いますわ」
元々刃物のメンテナンスをしてもらおうと思っていた。だがこの様子では終わるまで暫くかかりそうだ。というわけで待機状態である。
「それもそっか」
ギルドにいるわけでもない。店主がしっかりした人なので、治安は悪くない。平和だなとのんびりと商品である大剣などを眺めていた。
「へえ。ここが田舎の村の武器屋か」
ぼーっとしていたら、他客が入って来た。明らかに他所から来たものだ。金髪をたなびかせ、煌びやかな衣装を着る美男と言ったところか。うざったい雰囲気とかその他諸々で第一印象最悪なニンゲンだ。
「貧乏くさいけど、腕は悪くないね。おっと。先客がいたか」
目が合った。多分私達より時間の余裕はないだろうと思い、譲るような発言をしてみる。
「急ぎならどうぞ。予定があるわけじゃないし」
「いや。ただ立ち寄っただけだが……」
奴の視線は店主とソーニャへ。目を大きく開く。
「彼女はいつからああいう状態だ」
突然の問い。ニュアンスからして、健康ではないという判断だろう。しかしソーニャは至って健康そのもの。だからこそ、理解ができない。
「え。普通に元気ですわよ?」
そしてカエウダーラが「何言ってるんだ此奴」と言わんばかりの表情になる。声もそれに反映されている。
「そうか。君たちは元から魔力を持たない種族だったね。すまない」
謝ってきた。第一印象は最悪なものだが、案外礼儀正しい人だった。
「いえ。こちらが無知でしたわ。ところで先程の発言の意味をもう少し聞かせてくれません?」
「分かった」
男は真剣な顔になった。
「俺はある程度感知できるから分かる。あれは異常だ。全然感知出来ないとなると、何か患っている可能性があり得るんだよ」
残念ながら、ソーニャは元からこの世界の住人ではない。見た目は確かに似ているが、魔法という力は使えない。テレパシーという念話を使える程度だ。馬鹿正直に言っても、恐らく信じないだろう。というか安心させたい。
「大丈夫。幼い時から元気いっぱいだったし、グロリーアから止められたりしなかったよ。それに店の人とのやり取りで見て分かるでしょ?」
今出来る限り、笑ってみる。男は私を見て、ソーニャを見て、納得するような顔になった。
「そうだね。いやすまない。こちらが色々と早とちりしてしまった。グロリーアの仕事仲間だもんな。彼が問題ないと判断してるのなら、間違いはない」
二度目の謝罪である。予想していたとはいえ、困惑しかない。
「こっちは気にしてないよ」
知識がない上に、魔力を持たない種族と言われているのだ。むしろこちら側から感謝したいぐらいだ。グロリーアも教えてくれるが、一般的な住人の視点ではない。人々と接する機会が多いのに、常識を知らないとなると、
「色々教えてくれてありがとう」
まだ伝えたいことがあるのか、男はまだ真剣な表情のままだ。
「暫くは彼女と一緒に行動するつもりか」
急な質問に戸惑いながらも私が答える。
「うえ。うん。そうだけど」
「昔からある国家に気を付けろ」
それだけでは分からない。古い思想と何か関連があることぐらいは分かるが。
「もうちょっと具体的にお願いしますわ」
「グロリーアに聞いた方が早い。彼奴本来の専門は歴史だ」
カエウダーラの要望にこう答えたというわけで、グロリーアに直接聞くことにした。カエウダーラも同じだろう。口にはしていない。だが経験上、考えていることは互いに同じだと分かる。
「というわけで他の国のこと、教えてもらえると助かるんだけど」
そんなわけで正々堂々、グロリーアの家に戻ってすぐに質問をしてみた。言葉の重なり具合を聞く限り、やはり同じことを考えていた。出迎えてくれたグロリーアに驚きはない。予想をしていたかもしれない。
「帰って来て早々……何言ってるんすかね。この二人は」
一方のソーニャは突っ込んだ。会話を聞いているわけではないので仕方がない。簡単に言っておく。
「ソーニャが楽しくディスカッションしてた時にちょっとね」
「へー。誰か来てたんすか。ちょっと申し訳ないことしちゃった気がするっす」
熱くなった自覚があったみたいだ。
「とりあえず君たち、ガチの話をここで話すわけにはいかないし、中に入ってくれ」
そう言えばそうだった。玄関で。立ち話で。恐らくヘヴィーなお話になるであろうことを話すわけには……いかない。近所に誰かが住むような環境ではないが、グロリーアが心理的にやりづらいのも事実だろう。
「それもそうですわね」
いつものようにダイニングに行き、この世界特有の社会問題を聞くことにした。いや。社会問題と言って良いのかさっぱりだが、気にする必要はない。面倒ごとなのには変わりない。
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