第18話 魔法学校で模擬戦を

 私達が想像する学校というのは二パターン。一つ目は白亜の校舎、金属の柱と自然由来を加工したもので建てられたものだ。二つ目は黒の校舎、構造は白亜の校舎と変わらないが、材料が完全人工物だと言う。更に古い時代だと土で塗り固めたものが多いらしい。正直歴史的建造物という認識が強く、学校のイメージと程遠い。


「うわでっか」


 魔法学校も古い時代の歴史的建造物と言った感じだった。見上げるほどの高い壁で囲まれており、それは不法侵入者を防ぐ仕組みだと理解した。マスケットを持った警備員がいるから安全性は高い。


「許可貰えました!」


 アンナが笑顔で報告。何故か普通に見学の許可を貰ってしまった。


「え。そんなあっさりと」


 紺色の服を着た中年の男の警備員が朗らかに笑う。


「あっはっは。まあ校長も興味あったんじゃないか? 君たちみたいなの、初めて見たし」

「そういうもんですかね?」


 遠くから眺めて様子を窺う人が多い中、校長はそうでもないみたいだ。


「かの有名なグロリーア君の知り合いなら見ておくといいよ。いい勉強になるさ」


  というわけでいざ魔法学校へ。門を潜ると建物が見える。薄い色のレンガで積み上げたものだ。五階まであるだろう。屋根はオレンジ色に近い。二つほど煙突があり、煙が出ている。他には小さい塔みたいなものが付いている。地図の看板によると、コの形になっているみたいだ。屋根の上が所々異なっている理由は目的が違うからだろうか。


「校長先生!」


 玄関前に誰かがいる。アンナが校長先生と呼んでいた。青い服を着たエルフのおばあちゃん。皺があるものの、白髪になっていないタイプのようだ。力強い何かを感じるが、何故だろう。


「魔法学校へようこそ。どうぞこちらへ」


 考える間がない。校長先生に付いて行く。校舎内に入るとフローリングと土で出来た壁だ。スタイリッシュに決まったものだ。まだ早い時間帯なのか、人がいる気配がない。


「神獣族とアプカル族。神々の眷属の一つだったと言われていてね。君たち以外にもたくさんの種族がいたという記録があるんだよ。とはいえ数の暴力や自然破壊とかで消えちまったけどね」


 校長先生の解説を聞きながら、廊下を歩いていく。


「その辺りは文献で見つかるからまだ楽さ。だけどね。神獣族とアプカル族は突如どこかに行っちまった。何かに巻き込まれたように」


 校長先生は期待するような目で私達を見る。観察するような感じだ。


「グロリーアが言うには神々の戦に巻き込まれたのではないかという話だ。証拠がないから断定は出来ないがね。とはいえ、子孫がここにいる。となると……何か起きる可能性が高い。神話時代の獣達の反応がどんどん高くなってるからね」


 神話時代の獣達は確実に私達の獲物のことだろう。いずれ私達も知る必要がある。


「それって書物とかで知る事が出来ますか」


 カエウダーラに先を越されてしまった。思ったよりも校長先生の反応がよろしくない。


「どうだろうね。かなり昔のことだから、不透明な部分が多い。そもそもだ。私よりグロリーアに聞いた方が早い。ほら。私、校長先生でそう簡単に遠くまで行けないし」


 確かに職業柄、校長先生はすぐに移動が出来ない。結局私達はグロリーアから随時、話を聞かなければいけないみたいだ。


「アンナ。放送室と職員室に行きなさい」

「え」


 いきなりの校長先生からの指示にアンナが戸惑う。当たり前だ。


「そして伝えなさい。登校した学生全員、校庭に集まるようにと。臨時でも模擬戦を行うとね」

「分かりました!」


 アンナが元気よく返事したので、一瞬だけスルーして……いや出来ない。サラッと模擬戦と言ってなかったか。


「いやー定期的にやらないと鈍るからね」


 校長先生は楽しそうに笑った。時間はまだ余裕あるとは言え、この展開は流石に予想外である。


「あの……私達、この後用事があるのですが」

「大丈夫。すぐに終わるさ」


 恐る恐る伝えたらこれだ。ウインクしても、こちらが困る。


「校庭はこっちだ。付いておいで」


 正直おばあちゃんとなると、身体能力は落ちているだろう。いくら魔法でもカバーしきれないのでは。そういう疑問を持ちながら、私達は校庭に到着した。


「うわー」


 校庭は広々としていた。アスリート競技の会場だと言われても納得するぐらい広い。奥にある黄金に輝く大樹が最も気になる。


「さて。少ししたらやろうかね。うっふっふ」

「ええ。楽しみですわ」


 校長先生とカエウダーラが楽しそうにパキパキと音を鳴らす。出会ってはいけなかったのではないか。


「こ、校長先生! 朝から何するつもりなんです!?」


 ベストとネクタイ姿の眼鏡をかけた細身の男のニンゲンが慌てて走って来た。


「放送で聞かなかったか? 模擬戦だよ。模擬戦」

「知ってますよ! なんでそうなったのかって話ですよ!」

「大丈夫大丈夫。そんなやわじゃないだろうし」


 会話がマジで大丈夫なのだろうか。不安しかない。


「お気遣いありがとうございます。ですが校長先生のおっしゃる通り、私達はそう簡単にやられはしませんわ」


 相棒よ。フォローのつもりでやったと思うが、余計に悪化するだろう。


「そういうことだ。ワーナー先生、結界を」

「分かりましたぁ」


 校長先生に逆らえないのか、ワーナー先生と呼ばれた細身の男は渋々と指示に従った。透明のドームのようなものは結界の類だろう。


「これで観戦客は大丈夫だ。ある程度、人が来た事だし」


 少しずつ学生という観戦客が増え、現在は百名ぐらいいる。先生もちらほらといる。


「ワーナー先生。いつものを」


 校長先生が何かを投げた。先にふわふわとしたものが付いた木の枝。


「あ。え。えと。これより模擬戦を始まります。ルールはどうするつもりです?」

「んー私の魔力切れ、あるいは体力切れ、ホームルーム開始時刻までになったら終了としようかね。流石に学業を邪魔するわけにはいかんし」


 朝礼を行う習慣があるみたいだ。ただ問題はいつ開始されるか。これで試合の展開が変わる可能性だってあり得るのだ。


「分かりました。二人とも。校長先生の我儘で本当に申し訳ない。大丈夫ですか」

「大丈夫です」


 とはいえ、こちらは二人。人数だけなら有利なのだ。


「それでは試合開始!」


 ワーナー先生の言葉で模擬戦が始まった。


「さあて派手にやるとしようかね」


 校長先生がニヤリと笑う。聞き取れない言葉を言った後、地面が動き始める。盛り上がっている感じだ。


「カエウダーラ!」

「分かってますわ!」


 跳躍する。危なかった。山のように盛り上がり、先が鋭いものが出来上がっている。着地したら足に大怪我を負うことになるだろう。


「まあこれぐらいなら」


 カエウダーラはリスクを理解していた。その上ですぐに行動する。槍を組み立てる。そして鋭い土の山に向けて投げる。流石に土で出来たものなので、粉砕である。安全に両足で着地することが出来た。


「本命はこっちってことか」


 しかしこれはあくまでも前座にすぎなかった。数秒足らずで校長先生は別の魔法を使っていた。土で出来た巨大ロボット。自動型という分類だろうか。金属製ではないことが不幸中の幸いだ。


「ロボット!?」

「いや。ロボットではない。ゴーレムだ!」


 校長先生がノリノリで答えてくれた。ロボットではなく、ゴーレムらしい。よく分からないが。


「射出!」


 水分の多い泥が腕から出てきた。校長先生のイキイキした声の後に、魔法陣のようなものが一瞬見えたので、自動型という線が消えてしまった。


「厄介ですわね。あれ」


 カエウダーラの言葉に私は頷く。火力はない。スピードはそこまで速いものではない。だがぬかるみ始めたとなると、かなり厄介なものだ。


「けど破壊すれば」

「ええ。動きはそこまで俊敏ではない。ならば私が足を潰しますわ」

「なら私は上から……だね」


 私は跳躍して、空を飛ぶ。


「おー。伝承通りに飛んでおる!」


 校長先生が見上げて、めっちゃ興奮している。この隙を逃すほど、カエウダーラは甘くない。


「隙あり!」


 槍でゴーレムの右足を突いて破壊。バランスを崩した。好機だ。私もここで攻めに行く。一気に下降して、蹴りで粉砕して地上に戻る。元々土で出来ていたので、うっかり口の中に土が入ってしまう。不味いのでペッと吐き出す。


「これでお終いでしてよ」


 さあてどうなったかと周辺を見渡したら、カエウダーラは回り込んで、槍先を校長先生に向けていた。校長先生に怯えはない。至って冷静だ。


「トルネード」


 油断していた。強力な風が突如発生し、私達は結界のギリギリまで飛ばされる。距離を詰めても対処が可能。本当に魔法は厄介だ。どうやって勝利条件へ持ち込もうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る