第7話 メンバー揃い、移動開始

 空がオレンジ色になった時間で事務員から連絡が来た。使い魔とやらの鳥に触ったら、紙に変化していた。紙は紙らしくして欲しい。


「多分冒険者ギルドの事務員だね」


 折りたたまれた紙を広げる。ここの世界の文字を読めるわけではないので、どう報せるのだろうかという疑問を持ちながらだ。


「あらまあ。可愛らしい絵ですこと」


 絵が描かれていた。女性の絵だと思うが、デフォルト化されている。


「だね。それじゃ、行こうか」

「ええ。行きましょうか」


 冒険者ギルドの建物の中に入る。駄弁る時間帯でもあるのか、昼頃よりも人が多い。手続きをしてくれた事務員に向かおうとしたところ。


「よお」


 面倒な男が立ちはだかっていた。茶髪を結び、ガラが悪い印象がある。後ろには子分たち4人が控えている。


「噂で聞いたぜ。もうシルバーランクを貰えるんだってな?」


 既にギルド内では広まっているようだ。規模が小さいと広まるのも早い。


「そうだけど」


 男達はねっとりとした視線で私達の体全体を見ている。実に不快だ。


「魔力ねえ女がそこまでやれるとは思えねえ。誰かと寝たんだろ。ああ?」


 最低な発言だ。魔力がない部分に関してはしょうがないと思っている。実例がない。どれだけ人柄が良くても疑問を持ってしまうものだ。ただ女だからとかそういったものは気に入らない。


「ぎゃはははは」


 下品な笑いだ。今すぐここから叩きだしたい。しかしここで騒動を起こすわけにはいかない。仕事が控えているし、シルバーランク昇格の審査に影響が出てくる可能性があるからだ。さてどうしようかと模索していた時、


「この殺気は」


 強烈な殺気を察知した。誰かが近づいてくる。ゆったりと、静かに。


「お前さん達がとやかく言う資格はねえだろ」


 背が小さく細い爺さんだった。エルフェンのように耳先が鋭い。白髪で皺が出来ている。ローブを羽織っているせいで恰好はさっぱりだが、片手剣を持っている辺り、動きやすいようにはしているはずだ。ただ者ではない。


「ちっ」


 男達が舌打ちをしてどこかに行ってしまった。


「ありがとうございます。えーっと。あれ」


 カエウダーラが礼を言おうとしたら、殺気を放っていた爺さんを見失っていた。


「行ってしまいましたわね」

「だね。別の機会に言っておこう」


 これ以降、出発時間になるまでトラブルに巻き込まれることがなかった。待つだけというのは辛いが仕方ない。


「全員揃ったな」


 討伐メンバーの数は審査員のダスティン、私達を含んで6人だ。率いる人が前に出てくる。巨大な斧を持つ、黒髪をひとつに纏めたニンゲンの女性。防具が見当たらない。鍛えあげられた筋肉が目立つ。


「リーダーとして務めることになったキャサリンだ。よろしく頼む。お前たちも名乗っておけ」


 名前を知らない二人を見ることにする。


「俺はレナルド。魔法剣士として修行中だ」


 スキンヘッドでちょび髭が洒落ているニンゲンの男。腰に二本の片手剣を吊り下げている。動きやすさ重視なのか、鎖鎧をまとっている。


「えっと。案内人として務めます。フランクと言います。よろしくです」


 フランクと名乗った男はこの討伐メンバーの中で最も小さいだろう。恥ずかしいのか、深緑色のフードを被ったままだ。肩にいる緑色の鳥が気になる。


「次は私で」


 このように次々と名前を言う。全員の名前が分かったところで、すぐに出発した。整備された道を利用するわけではないので徒歩だ。


「ダスティン、今の内に灯りの魔法を使っておけ」


 完全に暗くなる前にキャサリンがダスティンに指示を出す。そしてフランクを先頭にし、森の中に入っていく。ゾンビ化したドラゴンの移動ルートを軽く地図に書かれており、確か森を抜けた川原の部分で討伐作戦を行う予定のはずだ。一部の魔獣が活発化する時間帯でもあり、途中で戦闘になる。そうなると警戒しておくのが最初の役割だろう。


「ウォルファ、周辺はどうだ」


 キャサリンに聞かれた。仕草で分かったのだろう。


「今のところは問題ないと思います」

「分かった。引き続き警戒を頼む」

「はい」


 この後も周囲の警戒を怠ることなく、移動をし続けていた。ずっと静かというのが苦手なのか、レナルドが会話を始めた。


「そういりゃえーっとウォルファとカエウ……何だっけか」


 すぐに全員の名を覚えられるわけではないのか、あやふやな部分があるみたいだ。もっともカエウダーラに関しては言いづらい面もなくもないと思うが。


「カエウダーラですわ。言いづらかったらカエウでも構いませんわよ」

「そうさせてもらうよ。二人とも魔力なんてないのにどうやって戦ってるわけだ。純粋な身体能力の高さに頼ってか?」


 ここでは魔力が高い方が戦闘で有利になるケースが多い。聞いている限り、魔力が少なくても強い人もいるみたいだが、かなり数が限られるのだろう。


「そうだね」

「へー。ぜひ手合わせ願いたいもんだ。魔法無しでのな」


 これはカエウダーラが喜ぶ奴だ。顔が見づらくなっても分かる。


「ぜひ機会があれば」

「やるんだったら広いとこでやっとけ。軽い模擬戦を。その気持ちでどこかのギルドが半壊したという話があるのだからな」


 キャサリンが忠告をした。戦闘は確かに場所を選ぶ必要がある。しかしギルド内での戦闘事例が普通にあったとは……予想外だ。


「気を付けますわ」


 修復等でお金がかかることを知っているカエウダーラとしては、気を付けておきたいことだろう。


「血気盛んだねぇ。若い子は」


 ダスティンが笑いながら言っているように聞こえる。キャサリンがすぐに訂正を入れる。


「ダスティン、若いどうこうではない。戦士だからこそ、やり合うものなんだよ」


 このように話をしながら、歩いて行くのだった。獣と遭遇することなく、森を抜けることが出来た。

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