6:エピローグ

旅の終わりと新たな始まり

 運命とは皮肉なものである。

 人を導くことも、選択することも、必然ともいえる出来事といえる行動だとしても起きるものだ。

 彼女達にとって運命とはどんなものだっただろうか。

 何を導き、何を選択し、行動させられてきたのか。その軌跡と答えを知ってるか知らないかで降される審判は変わる。


「さあて、どんな答えを聞かせてくれるかな?」


 バランズは楽しげに笑う。イレギュラーだったとはいえ、なかなかに面白い者達が試練を受けてくれているのだ。

 もし期待外れなら、それはそれで今まで楽しめたのだから仕方ないで片づけることにしよう、と考えた。


「そろそろ時間か」


 彼女達が、特にクリスが出す答えを楽しみにする。

 どんな顔をし、どんな感情を持ち、答えてくれるのか。その反応を楽しみに審判の時が訪れるのを待ったのだった。


◆◆◆◆◆


 二人の英雄が誕生し、村は湧き立っていた。邪悪な巨人を倒したことで二人は一気に有名となり、村では誰一人知らないという状態になる。

 そんな二人を遠目から眺めるクリス達がいた。クリス達は称えられ、持ち上げられ、羨まれる二人に微笑みつつ、去ろうとする。だが、リリアがあることに気づいた。


『そういえば、ルミナスコインはどうなったの?』


 クリスは言われてリリアを持ち上げた。そのまま身体を振り、音を聞いてみるとチャリチャリと鈍い音が響く。

 感じられる重さから、リリアの身体にはルミナスコインがたくさん詰まっていることがわかった。


「大丈夫、たくさんあるよ」

『やったぁー! ならこれで身体が戻るんだね!』

「だと思う。そろそろ審判者ってのも姿を見せてくれると思うし」

『早く出てこないかなぁー? 私、戻ったらパフェを食べたい!』


 気が早く、元の姿に戻った時のことをリリアは考えている。

 そんな微笑ましい友人の姿を見てクリスは優しく微笑んだ。そんな風に穏やかな時間を過ごしていると、後ろに何かの気配を感じ取った。


『よく頑張ったな。さすがなものだ』


 振り返るとそこにはバランズの姿がある。クリスは警戒心を抱き、リリアを守るように前に立った。

 バランズはそんなクリスを見て笑う。楽しげに楽しげに、ゆっくりと近づいていく。

 そして彼女の肩を叩き、こう告げる。


『審判を始めようか』


 指が弾かれ、音が鳴る。途端に空間は闇に包まれると、小さな光が散りばめられ始めた。

 それはまるで星のような輝きを放っており、その場にいる全員を見守る。


『さて、今回は特別に私が審判者を務めよう』

「…………」

『何、そんなに警戒しなくてもいいさ。前にも言ったが、質問に答えてくれればいいだけだ』


 バランズは咳払いをし、被っていた仮面を取る。そこから覗かれた顔を見て、クリスは目を大きくした。

 その顔は愛しくも憎い存在と同じだったからだ。


『さて、問おう。君達は人が好きか?』

 単純な問いかけだった。

 それをされた二人は、すぐに答える。

「好きな人は好き。リリアは特に好き」

『嫌いな人は嫌い。でもクリスは大好き』

『ほうほう。ならば、嫌いな人間は死んでもいいか?』

「嫌いだからといって殺していい訳じゃない。嫌いだからこそ生きててもらうかな」

『そうだね。わざわざ殺す必要はないし。むしろ私達の幸せを見て悔しがってもらいたいよ』

「うん。嫌いな人だからこそ幸せを見せつけたいね」

『ククク、ハハハ! そうかそうか! これはまたありふれたできそうでできない復讐ですね』


 バランズは楽しげに笑う。

 考えていた答えとは違うが、これはこれで愉快だ。だからこそ、二人にたいしてこんな審判を降す。


『面白い答えが聞けたな。いいだろう、第一の審判はクリアとしよう』

『やったぁー!』


 喜ぶリリアだが、クリスはある言葉に引っかかりを覚えた。

 それを見たバランズは微笑む。


「第一の?」

『ふふ、そうだ。第一のだ。僅かながら少しだけ人の姿に戻れる時間をやろう』

『えぇー!? 元に戻してくれないの?』

『僅かながら、と言っている。まあ、一日一度の十五分だけだがな』

『十五分だけ……もっとサービスしてよぉー!』

『ならもっとルミナスコインを集め、審判を受けることだな。では、そろそろ時間なのでサラバさせてもらおう!』


 バランズはそう告げると光に飲まれて消えていく。闇が晴れ、元の世界へ戻ってきたクリスはリリアを見た。

 そこにはプンスカと怒っている赤毛の女の子が立っている。


「もぉー! まだ旅しないといけないの! 戻ってこいこの卑怯者ぉー!」

「リリア……!」

「どったのクリス? なんか感慨深い顔してるけど」

「身体が、戻ってる」


 リリアはクリスに言われ、自分の手を見た。蹄ではない、人の手。人の肌の色をしており、慌てて顔を触ると特徴的な鼻の形はしてなかった。


「え? 本当に、戻ってる?」

「リリア!」


 クリスはリリアの身体を抱きしめる。

 リリアは慌てた様子で「こんなところでなんてぇー!」と叫んでいた。

 だが、すぐにその悪ふざけはなくなる。なぜなら、クリスが嬉しさのあまりにも泣いていたからだ。


「クリス……」

「よかった、ホントによかった……!」


 まだ完全ではない。しかしそれでも、元に戻ったという事実がある。

 だからこそクリスはリリアを抱きしめた。


「リリア、旅を続けよう。もっとルミナスコインを集めてちゃんと元に戻ろう」

「うん! 集めてぎゃふんと言わせよぉー!」


 二人の旅は続く。

 まだまだ終わりが見えない旅路を二人は歩んでいくのだった。

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無欲のクリスと不思議な貯金箱 小日向ななつ @sasanoha7730

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