回収

 ブラックパレードは一定の速度を進み続けた。ダークエネルギーの一つとなった彼らには、重力や星の爆発のエネルギーなどに干渉しない。コルトたちは、ときおり星の爆発を転移でかわしながら後に続いた。

 幽霊船がどこかの特異点に入る。

 つられて訪れたリバーシスは、いつか見た特異点に減速を始めた。

「まさか戻ってこれるとはね。来た道を帰るという理屈はわかっていたが、すべてが奇跡じみているよ」

 マウは鉱石でできた巨木を眺めながら嬉しそうに呟いた。心情はコルトも同じだ。

 正直、戻れないと覚悟していた。天の計らいか、運命の輪のなかにいるのか、コルトはユユリタ一世に感謝していた。

「ミィミィ、どうやら約束を果たせそうだね」

「うん。でも、コルトはいいの? ずっと大事にしていた船なんだよ」

 さすが宇宙一のテレポーターだ。誰よりも自分の心を読んでいる。

 話を聞いていたマウは、すぐさま何かを発した。ミィミィの一言で俺が何をしようとしているか理解したのだ。


「マウさん、俺の口から言いたいんです。この先でマウさんとはお別れです。俺たちはここで父の船を修理し、遺体とともにブラックホールを抜けます。だからマウさんは俺のリバーシスを使ってください」

「いや、それはできない!」

 マウは狼狽えながら必死に首を振った。

「私は君たちと出会わなければ、あそこで死んでいた。都合よくコルト君に甘えるわけにはいかないよ」

「いいんです。俺たちもマウさんなしにたどり着けなかった。それに、マウさんだって別の使命が残っているはずです。亡くなった人たちのためにやり遂げてください。これは死者を生業にしていたマクスタント家の願いです」

 マウは静かに涙をこらえて、息をのんだ。

「ありがとう! 君たちの厚意に感謝する。だが、コルトくんたちの船を直すまで私も協力させてくれ」

 コルトは嬉しそうに頷くと、ミィミィが歯を見せて笑う。

「最後の共同作業だね」

「お前は何もしないだろ」

 ミィミィはぷーと頬を膨らませる。

「うー心外! ってかコルトだってほんとに直せるの? マウさんのダガーヘッドの部品はほとんど使って廃品しかないし、母さんたちの船のエンジンも壊れてるんでしょ」

「そこはなんとかする……」

 コルトはバツが悪そうに言いよどむ。

「待って……。いま作り出すから」

 ミィミィはそういうと瞼を閉じた。


「え、どういうことだ?」

 動揺するコルトだが、視界にあった巨大な木の頂点が不意に光り出す。光は細い木々から球体に形が変わり、次第に光が消え、その物体がゆっくりと水面に降りていった。

「あれは――」

 マウが唖然とした。

 半円状の外観に、二本の砲門がついた戦闘機。彼がよく見かけていたモノだった。

 力を使ったミィミィはその場でしゃがみ込むと、帽子を取って顔をあおいだ。

「ユアンがボクを操っていたとき、ボクもユアンとシンクロしていたんだよ。だから、あいつがコアの力で生成していた戦闘機の一つをコピーしたわけ。これで修理の部品を調達できるとおもう」

 話を聞いたマウはゆっくりと頷く。

「敵の戦闘機は何回か捕獲している。電気系統は別だが、調整すればエンジンくらいはどうにかなるな」

 そばにいたコルトは呆れかえった。

 ミィミィは胆力があるというか、ただでは起きないというか。

 残すは、父さんたちの遺体をどうするか。腐っているし、臭いも船に充満している。

「ブリッジはダガーヘッドを使ってくれ。ユアンの戦闘機のシステムとは相性がいい。あれを切りとって君たちの船を繋げば、曲がりなりにも父親の船として受け継ぐはずだ」

「ありがとうございます。船の一部はリリ星に持っていこうとおもっていましたから」

「では早速とりかかろう。私は戦闘機の調整に移る」

 いまにもブリッジを出ようとするマウに、コルトは引き留めた。

「あの、すみません。もうすぐ帰れるのに、こんな場所で引き留めてしまって」

 マウは振り向いて敬礼すると、

「礼をいうのはこちらだよ。最後にコルト君と仕事ができて嬉しい。君たちは最高のパートナーだ」

 コルトも指を伸ばして額に当てた。

向こうの銀河の挨拶だ。コルトは初めて軍人になった気がした。




「グッドラック!」

 そういってリバーシスの新たな持ち主は、剣のリリーフをもつ幽霊船の後を追った。

 一か月の末、父の船だったコンティクスは改修を終えた。マウとコルトたちは互いに別れの挨拶を済ませた後、ブラックパレードを待った。どちらのパレードが先かダイヤ次第だったが、たまたまマウのほうが早かった。

 二人は大きく手を振りながら愛艦を見送った。

 これまで自分を助けてくれた船を手放すのは悲しいが、リバーシスにはもう一つの任務がある。ぜひとも全うしてもらいたい。あとは、天に任すのみだ。




※ これは筆者の後付けだが、とある銀河の伝承に二人の英雄が語られている。

一人は少年で、もう一人は少年の師となる老年の男性だった。

無尽蔵に戦闘機を出す青い悪魔に対し、二人の乗る船は青い悪魔の眼前に現れ、次々とその目玉に光の剣を刺し、遂にその銀河は平和を取り戻したという。

これが彼らの物語に関わるかは不明だが、脚注として添えて置く。

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