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「たくさんのお宝~♪ いっぱいもって~ 海にでよう~♪」

「重力の荒波を~♪ こぎ出すんだ~♪」


 害鳥のような汚い声が茜色の空に響いた。


 ミィミィがいない分、思い切り歌えた。やはり誰にも気を遣わず、自由気ままに歌うのは気持ちがいい。こんなに歌が好きなのに、どうして俺には才能がないのか。もったいない。


「生きて戻ったら~♪ 伝えよう~♪ 歌のすばらしさwow~♪」

 をとwowをかけていい出来だ。これから試す修理みたいだ。コルトは胸が躍った。


 きっかけは数刻前に潜入したスパゲティ化した船だ。船内はモニターや基盤、外壁の装甲などが薄っぺらく伸びて気味悪かったが、一部のパーツは部品レベルまで分解され、原形を保っていた。乗組員が咄嗟に機転を利かせたのだろう。

 とはいえ、科学技術の違いや、船内にある謎の言語、そしてコルト自身が電気機械に強くないため使用は困難だった。

 半分諦めていたが、AIコアの基盤がリバーシスと類似していることに気づき、愛機から部品をかき集めた。だが、異文化のAIコアを船に繋いでも互換性があるかわからず、リバーシスのCPUも半壊している。接続した瞬間に壊れる可能性があった。

 

なんとか使用できるものにしたい。


 ほかにないか瓦礫の山を探していると、自走式AIのボディを手に入れた。

 頭部・胴体・脚部のどれもが四角形の前時代的デザイン。全長が一メートルほどの三頭身で、脚部は低く、歩行ができない代わりにローラーがついていた。横転すれば、まず自力で立ち上がれない。

 センサーは大きな二つ目で、瞼のようなカバーがついている。口元には複数の穴があり奥にスピーカーが内臓されていた。

 背部には接続式のバッテリーがあり、三本の電極穴がついている。

 これはいけるかもしれない。

 ――そう思って修理を試みた。

 煤けた四角いボディを開け、異文化のAIコアを入れ替える。リバーシスから取ってきた予備バッテリーと取り換え、起動を待った。

 四角いボディからジジジというビビリ音が流れ、頭部の丸く大きなセンサーが光り出す。

「起動プログラム始動……。終了マデ3……2……1……」

 固唾を飲んで見守る。

 AIの音声は抑揚がなく、言語も異なるため意味不明だ。すべからくAIは初期段階で動作プログラムを行うため、その類だと推測する。

「起動完了。メインメモリ修復中……。動作確認チェック――規定動作不良――規定タイプノボディニ変更シテクダサイ。繰リ返シマス」


「目が覚めたか、宇宙人のAI」

 見下ろしながら声をかける。

 修理した自走式AIはコルトの身長の約半分。それもオモチャみたいな胴体だ。船の復旧作業は期待できない。

 AIがピロピロと機械音を立て、頭部を僅かに上げてセンサーを動かした。

「識別データナシ。アナタハ?」

「俺の言葉がわかる?」

「言語設定ナシ。統合調整中。直近ノメモリデータ照合……――現状把握。第三シークエンスノ移行ヲ決定」

「さっきから何を言っているんだ?」


「ハ・ジ・メ・マ・シ・テ」


 いきなり言語を整えたことに、コルトは慄いた。

「おまえ、どうしてわかった?」

 旧世代の二脚ロボットは大きな二つのセンサーでコルトの反応を知ると、

「声ノ抑揚ト言語識別パターンニ類似傾向アリ。ソコカラ導キ出シマシタ。不慣レナノデ、修正ヲオ願イシマス」

「いや、十分だよ。君のところのAI技術はすごいな。俺たちの宇宙国家より数段進歩している」

「光栄デス」

 AIは瞬きするように、センサーのカバーを上下に開く。体も動かそうとしているのか、モーター音が鳴り、腕が前後に揺れ、首が三〇度動いた。

「……トコロデ私ノ可動域ガ限ラレテイルノデスガ、ドウナッテイルノデス?」

「元の姿はあるのか。参ったな……とりあえず自分の姿を確認して」

 コルトは携帯端末から自撮用のカメラに切り替え、画面にボディを映した。


「ナ、ナ……コノポンコツハナンデスカ!」

 ピロピロと機械音を鳴らし、センサーの光が緑や赤に点滅する。

「ずいぶん人間らしいな」

「冗談イワナイデ!」

 AIは足裏のローラーを器用に回してその場で一回転する。

「ナンテコトデショウ! 才色兼備デ可憐ナワタクシガ!」

 ひとり暴走を始めるAIをコルトはじっと見つめていた。

 言葉遣いがずいぶん達者だ。感情プログラムが入っているのか。

 作業効率化をあげるために生まれたAIだが、コルトたちの銀河では非効率的な機能を持ち合わせていない。


「きみ名前は?」

「NA-DAST5。別名『ルナ』ト呼バレテイマス」

「ルナか。いまからきみのAIデータが入った船の中に案内する。だけど、この場所は船の墓場だ。俺と連れのミィミィはかろうじて来れただけど、中はひどい状況だった。過度な期待しないでほしい」

「カシコマリマシタ」

 ルナは抑揚のない機械音でいう。

 コルトは頷き、船の残骸で埋もれた道を歩き出した。

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