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 転移が始まったほんの僅かなときのなかで、コルトは幼少の記憶がよみがえった。

 星々が煌めく宇宙で、大型戦艦から手のひらサイズの小船がでていった。小船の帆はソーラーパネルがついており、小さな光を点滅させている。百も二百もある小さな光の一団が、ゆったりと彼方へ旅立つ。祖霊を異界へ送るため精霊流し《ブラックパレード》だ。

 惑星シーズが宇宙に進出する前より行われる文化で、昔は小船を海に流していたという。

 背丈がいまの半分にも満たない頃、コルトは父の乗る宇宙船から眺めた。

 精霊流しを見るたびコルトは不思議がった。幼い双眸に、船の上に浮かぶ無数の幽霊ゴーストの顔が映っていたのだ。

「息子も見えるかい? 夢を見て散っていた人々が……」

 小さく頷いて見せると、

「人の魂は重力――ブラックホールに導かれていくんだよ。彼らは引力に従い、長い旅を経てもう一度生まれ変わるんだ。私たちの仕事は、彼らがこの世に未練のないよう、背中を押してあげることだ」

 ほんとう? そう目で訴えると、

「あぁ……。だからコルト。いつか私の跡を継いで彼らを導いてほしい」

 コルトは黙ってうなずき、船窓に視線を戻した。

 船に重なるように進む幽霊ゴーストたちの顔は、みな寂しそうな表情だ。やり残したことや子孫に未練があるのか。けれど、こころなしかその瞳には覚悟が宿っているように見えた。

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