2
シリンダー型コロニーの貨物運搬口から、薄紅色の小型艦リバーシスが出てきた。
棺のような上下が平らなボディに、前方部には左右に伸びるエンジンの噴射口がついている。
元々は船の
心の折れたコルトは、早々に宇宙ステーションへ急ぐ。
実家のコロニーに戻り休養を図りたかった。。
帰るまでは約半月。宇宙の旅は里帰りも長い。
現在の位置は二番目の太陽圏であるイー圏。そこから実家のコロニーは、一番目のエー圏内にあり、距離にすると一〇〇光年になる。光の速度を越える技術がない宇宙国家では、通常での航空では到底たどり着けなかった。
しかも推力は液体燃料のロケットエンジン。惑星コアによる核融合は数式で立証されたものの実用化はほど遠く、いまだに太陽光とガスエネルギーが主流だった。
リバーシスは土色の巨大な惑星に接近していく。星の横に筒状の巨大な人工物と護衛艦が見えた。
ディスプレイの通話ランプが黄色から青になる。光速通信が通常どおりの距離を指した(光は一秒で三〇万キロ進むので、それを越えた場合に通信にラグが発生する。それを視認するために距離に応じて赤、黄とランプが灯る)。
「こちら独立探索艦リバーシス。所属はマクスタント。応答を願う」
間もなく映像付きで護衛艦から連絡が来た。
「現在照合する……。葬儀屋か、また別の仕事か?」
「里帰りの予定です。流体テレポーテーションの準備いいですか?」
「しばし待て」
コルトはリバーシスを前進させながら、暇をもてあますように指を回した。
何かのトラブルだろうか。テレポーテーションの技術を確立した今日では、準備に手間取ることはなかった。あるとしたら別の要因だ。
応答を待っていると音声が入る。
「目的地の前にアー圏のステーションに寄ってほしい。リリ星人が葬儀屋を呼んでいる」
「リリ星人?」
疑問を抱いたが、いまは仕事に関わりたくなかった。
「あの、依頼なら後にしてほしいんですが」
「これは国家命令だ。転移の準備は速やかに行う。貴公はその速度を維持しろ」
通信が途切れ、コルトは不貞腐れたように背もたれに身体を預けた。
「マジかよ、強制って……」
転移は宇宙国家に管理されているため変更できない。面倒なことこの上ない。
自動誘導にした操舵室で、呼び出した人間を想像する。
宇宙国家を築いたシーズ人とリリ人だが、リリ人の九割は宇宙進出に難色を示す。彼らは母星が第一であり、惑星コアの生み出すエネルギーを大事にする。原住民といわれる所以は、コロニー建造や星の植民地化を毛嫌いするからだ。好奇心ある研究者がシーズ人と協力するが、リリ人の中にはそうした身内を軽蔑する者もいた。
そのリリ人が母星を飛び出して会いに来る理由がわからない。コルト自身もリリ人と接点がない。また、国家命令というのも引っかかった。
どうでもいいか。
どうせ仕事は休業するつもりだ。
心に余裕をもちなさい。父さんはいつもそういっていた。
そうだ、休暇中に自作の歌をつくって披露しよう。人気になったら歌手デビューできるかもしれないし、そしたら泣く泣く家業とはおさらばだ(嬉しいな)。
「夢を~現実にしよお~ うぉうお~ うぉうお~」
しばらく歌っていると周囲の宇宙艦から人型タイプの作業マシンが現れ、リバーシスを取り囲む。マシンの両手には外付けのブースターがあり、それを船の出力発射口に取り付ける。
装置の取り付けが済み、人型マシンが船の中へ戻ると、ステーションのスタッフから音声が流れる。
「取り付け終了。進路はこちらで修正済みだ。1600にて大気圏へ入る。転移後に注意せよ」
「了解です」
「あと、通信は切っておけ。変な歌が垂れ流しだぞ」
ずっと聴かれていた! しかも変な歌呼ばわり!
いや、家に戻ったらきちんと音作りとかして形を整えるし! そのときはもっと聴ける歌になってるはず!
恥ずかしさで顔が沸騰しそうだった。
コルトの心象をよそに、リバーシスは誘導されるまま、土色の巨大な惑星に向かっていく。
操縦室から土色の惑星が眼前に広がる。
流体テレポーテーションは、消滅時も再生時も惑星に触れることが前提のため、転移は大気圏内となる。いうなれば、星へ落下しながらの瞬間移動だ。
転移する側は問題ない。危険なのは、その後。
再生が始まった直後、転移した船は重力の影響で地上へ突進。その際、すぐさま重力に抗わないと地面に衝突する。人型マシンが設置した外付けブースターは、仮にコルトが転移から目覚めなくてもオートで重力圏を離脱する安全装置だった。
コルトはディスプレイに設置されたタイマーを一瞥し、転移の覚悟を決める。
リバーシスは星の重力に導かれ、突入時の圧力で外装が赤く染まる。
人口重力を切った船内は落下の振動で揺れ、コルトの身体がGで圧迫される。
ガス雲を突き抜け、視界に大地が広がっているのが見えると、タイマーがOO を指した。
――視界が急に白くなり――その瞬間意識が切れる。
船は加速したまま白い光となってその空間から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます