映像記録 報道番組緊急中継 録画

<LIVE>


(マイクをもったキャスター 背景に対怪獣防衛都市の遠景)


 見えますでしょうか! 隔壁を踏み倒す巨大な足を! 99年に出現したプロトセリオン以来の巨大怪獣です。あまりの大きさに雲から足が生えているようで、全体を見通すことができません!

 現在、私のいる場所は、防衛都市外周第三防衛隔壁の北面上。怪獣の出現場所は南側第二隔壁内の外周居住区。こちらからは20kmの距離といったところでしょうか。

 白い毛に包まれた足は徐々に前進を開始している模様です……あ、今、映像で確認できたでしょうか。黒い鉤爪が見えました! 現在確認できる怪獣の特徴は、巨躯、白い体毛、鉤爪です。

 現時点では怪獣出現の警報が発せられたのみで、グレイプニル機関からの情報発信はありません。怪獣名、特性はもちろん、避難誘導もなく、防衛隊の出撃も確認されていません。先月の複数体同時出現の状況と同様に、なんらかのイレギュラーな事態であることは明白です。

 多くの人々は前回の怪獣の地下到達を受け、防衛都市外へと逃げる動きをみせています。我々報道クルーのいる隔壁上部にも、多くの人が避難してきています。

 我々は一体、何を対峙しているのでしょうか。

 見渡す限り、間違いなく終末の光景であります。


『た、太陽が呑み込まれるぞ!』


 空が……覆われていく。なんて大きさなんだ……人間なんて、ひと足踏み出せば。


(太陽光が遮られ、夜が訪れる)


『どんどん近づいて来るぞ!』

『いや、違う! まだ一歩も動いていない! 大きくなっているんだ。あの怪獣は、まだ具象化している最中なんだ』

『大きくなる。この地球を踏みつぶす大きさに』


(二本目の足が空から降りてくる)


『なにを恐れる必要がある! これこそ我々の望んでいた終末だ! さぁ、怪獣よ。すべてを踏みつぶしてくれ』


(ひとりの女性が叫び声をあげる)


『怪獣教徒……冗談じゃないぞ。家も仕事も、ここにあるんだ。壊されていいわけない』

『この世は腐りきった。社会を浄化する為には、徹底的に壊さねば。歪みを正して、もう一度全てをやり直すのだ!』

『こんな時に、ふざけんじゃねぇぞっ』『突き落とされたいのか!』


 みなさん、落ち着いてください! この場で人間同士争うことは、なんのメリットもありません! 我々自身の首を絞めるだけだ。誰も死にたくはないでしょう! 落ち着いて、落ち着いて!


(映像の乱れ 罵声、悲鳴、ノイズ)

(ブラックアウト)

(映像回復 隔壁の崩壊 さざめく泣き声)

(静寂)

(へたり込む老人 すすり泣く女性 血を流す男性)


『ヨナン……ヨナンだ』


(少女が怪獣を指さす)


 ヨナン? きみはあの怪獣の名前を知っているのかい?


『夢で教えてくれた。待ってて、迎えに行くからって』


 それは一体どういう……?


『ヨナンは私たちを助けてくれるよ』


(子供たちが現れ口々に怪獣の名を叫ぶ)


『ヨナン! ヨォナァアン!』


(怪獣教徒たちが狂乱した様子で怪獣の名を叫ぶ)


『名を呼べ! 怪獣の名を呼べ!』

『ヨナン! ヨナン!』


(感化された人々も一体となり怪獣の名を呼ぶ)

(異様な熱気のなか、怪獣が一歩踏み出した)

(中央制御塔が足にぶつかり、へし折れる)

(映像が揺れる 地響き)


『今行くよ』


(子供たちが隔壁から飛び降りる 地面に叩きつけられる前に次々と怪獣へ変化する)


 今のは……噂は本当だった。子供が怪獣になる噂は真実だったんだ。

 なら、怪獣は……怪獣とは一体……?


(変化した怪獣たちは、ヨナンと呼ばれる怪獣の元へ集まっていく)

(集合した怪獣たちの周囲の空間が歪む)


 あれは拒絶ヴォイドの前兆だろうか。


(巨大な足もろとも、怪獣たちは姿を消す)

(砂塵が立ち上る)

(防衛都市の中央区画消失 瓦礫と化した作戦司令本部)


(映像はここで途切れている)

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