第26話 嫉妬のセルゲイ

セレス達は素早く武器を構える。




全身を燃やしながらこちらへ向かっていたドラゴンは、

ふいにバサバサ…と強く羽ばたき、その高度を上げた。




「おそらく火をき出して来る!

 イガラシ殿どの!ティナ!

 かべを作るぞ!」


ミリアが叫ぶ。




ボ ォ ン ッ !


ドラゴンの口から巨大きょだいな火球が放たれた。




紅蓮の壁クリムゾンウォール!」


ミリアが両手をかざしてさけぶと、

火球をさえぎるように巨大きょだいほのおかべが出現した。


紺碧の壁アズールウォール!」


続いてイガラシが両手をかざしてさけぶと、

ほのおかべの手前に水が一気に集まっていき、巨大きょだいかべになった。


風壁ウィンドウォール!」


続いてティナが両手をかざしてさけぶと、

水のかべの手前で風が巨大きょだいうずを巻いた。




バババァンッ!


火球が三枚のかべ衝突しょうとつした。


ほのおかべで勢いが弱まり、

水のかべでさらに勢いが弱まって火が消え、

風のかべでさらにさらに勢いが弱まっているはずだ。


だが、ブオッ!とセレス達に強烈きょうれつな熱風がぶつかってきた。


火傷をするほどではないが、

その勢いで危うく後ろにたおれそうになる。


三枚のかべで防ぎきれなかった火球の左右の部分は、

周囲の燃えきた森の木々をバゴゴゴ…!とたおして行った。




「キュー!キュー!」


と鳥車の駆鳥くちょう達が悲鳴を上げて王宮と反対の方向へ走り出した。




ドラゴンはセレス達を一度通りし、大きく左に旋回せんかいするように飛んでいる。




「ホセ!イヴァン!

 今のうちにげろ!

 ジョコネンの関所まで行ってしまって構わない!」


ミリアがさけぶと、ホセとイヴァンはげて行く鳥車を追って走り出した。




「さて、どうする…?

 全身をかたいウロコとほのおで守られているとあっては、

 火も水も風も効果は期待できないぞ…?」


ミリアがセレス達をり返る。


「イガラシ殿どの、私に水をくれ。」


ベリエッタが言う。


「『水をくれ。』とは…?」


イガラシがたずねる。


「私の体を水でらしてくれ。

 少しだけなら、あのほのおえられるだろう。」


ベリエッタがドラゴンを目で追いながら言い直す。


「『無茶するでない。』

 とは言わんぞい…。」


イガラシがつえると、水が集まってベリエッタの全身をザブン!とらした。


「あいにくこの戦い方しか知らなくてね。

 ありがとう。行ってくる。」


ベリエッタが全身からポタポタと水滴すいてきを垂らしながら礼を言い、

ドラゴンのほうへスタスタと歩き出す。


「そんな!危険です!」


セレスが言うと、


「もとより失くしたような命だ…。

 勇者殿どのと聖女殿どのの助けになれば本望さ…。」


と背を向けたままベリエッタは言った。




ドラゴンは再びセレス達のほうに向かって来ている。


だが、先ほどとはちがい、低く飛んだままだ。


ほのおのブレスを防がれたから、直接攻撃こうげきで来る気か!?」


ミリアがさけぶ。


「好都合だ…。あまり遠いと瞬間しゅんかん移動も届かんからな…。」


ベリエッタがドラゴンの向かって来る方向へ左手をかざしながら言った。




ビュオン!


ベリエッタが消えた。




飛んでくるドラゴンから見て右前方へ移動すると、


「フッ!」


ビュン!とほのおに包まれたつばさに向かって、

ぶつかるようにしながら全身でけんった。


ガッ!


つばさに命中する。


「グフォ!?」


ドラゴンはおどろいたような声を出し、バサバサ!と高度を上げた。




「(当たった…!

  少しでもダメージはあっただろうか…?)」


ドラゴンは再びそのままセレス達を通り過ぎ、

大きく左に旋回せんかいするように飛んでいる。




ビュオン!


ベリエッタがもどって来た。


全身からプスプスとけむりが出ている。


「ベリエッタさん!?」


フランがけ寄り、治癒ちゆを行う。


「すまない、助かる…。

 ダメだな。けんもあまり通らないようだ。」


ベリエッタが言う。


「むう…。やはりそうか…。」


ミリアがうなる。




ドラゴンは再びセレス達のほうへ向かって来ている。




ドラゴンがバサバサ…と強く羽ばたき、その高度を上げた。


「またほのおのブレスが来る!

 かべを作るぞ!」


ミリアが叫ぶ。




ボ ォ ン ッ !


ドラゴンの口から再び巨大きょだいな火球が放たれた。




紅蓮の壁クリムゾンウォール!」


紺碧の壁アズールウォール!」


風壁ウィンドウォール!」


ミリア、イガラシ、ティナが再びかべを作る。




バババァンッ!




ブオッ!とセレス達に再び強烈きょうれつな熱風がぶつかる。


火球の左右の部分が、先ほどと同じように森の燃えきた木々をたおした。




ドラゴンは再びセレス達を通りし、大きく左に旋回せんかいするように飛びはじめる。




ほのおのブレスを防がれたから、また直接攻撃こうげきをしようとやって来るだろう…。

 チャンスだ。

 今度は大砲たいほうむぞ。」


ミリアがセレス達をり返って言う。


大砲たいほう!?そんなものどこにあるんですか!?」


セレスは思わず大声でたずねる。


大砲たいほう大砲たいほうでも、水蒸気の大砲たいほうさ…。

 イガラシ殿どの、よろしくお願いします。

 セレス、ティナも協力してくれ。」


とミリアが言った。


「何をすればいいの!?」


今度はティナがたずねる。


「風を筒状つつじょうかせてくれ。

 竜巻トルネードでもいい。

 あまり大きいと威力いりょくが分散してしまうから、

 ドラゴンの頭が収まるぐらいの大きさだ。

 大砲たいほうつつの部分になるイメージだ。」


ミリアが答える。


「分かったわ!」


ティナが大きくうなずく。


「そしてイガラシ殿どのは、

 そのつつの中に水を出来るだけ多く集めてください。」


ミリアがイガラシのほうをり返る。


「分かっとるわい。任せておけ。」


イガラシがビンから水を次々とバシャバシャ地面に注ぎながら答える。


空気中や地面からも水を集めているのか、巨大きょだいな水球が出来上がりつつあった。


「そして私がその水を火で爆発的ばくはつてきに蒸発させる。」


ミリアが胸の前で両手をギュッ!とにぎりしめ、


「セレスは、目潰しフラッシュでドラゴンのすきを作り出す役だ。」


言いながらセレスをり返る。


「分かりました!」


セレスも大きくうなずいた。




ドラゴンが再びセレス達のほうへ向かって来た。




高度は上げず、低く飛んだままだ。


ミリアが言った通り、直接攻撃こうげきで来る気なのだろう。


「そら、来たぞ!

 チャンスはこの一回きりだと思え!」


ミリアがさけぶ。




竜巻トルネード!」


ブワワワッ!


ティナが空中にかせたような竜巻たつまきを巻き起こす。


紺碧の超球アズールヒュージスフィア!」


ズズズ…。


そこにイガラシが巨大きょだいな水球を送りむ。


ミリアがそこに両手のひらを向けて構える。


ドラゴンが間近にせまった。


セレスは左手をドラゴンにかざす。


目潰しフラッシュ!」


カッ!


セレスが左手から強烈きょうれつな光を放った。


「グギッ!?」


ドラゴンが首をやや後ろにそらして立ち上がるような姿勢になり、


バサッ!と強く羽ばたいて空中で急ブレーキをかけた。




「 紅 蓮 の 圧 縮 大 爆 発クリムゾンコンプレスドビッグバン ! ! ! 」


ミリアがさけんだ。


ゴ オ ッ !


目もくらむほど明るい火球が水球のすぐ後ろに出現する。


そして、その火球が膨張ぼうちょうしながら一瞬いっしゅんで水球を飲みむようにぶつかった。




ボ ガ ァ ン ッ ! ! !




激しい爆発音ばくはつおんひびく。




ズ シ ン ッ !




ドラゴンの上半身が後方へ大きく下がった。




「 ガ バ ァ ッ ! ? 」




ドラゴンが口から悲鳴のような声を出す。


命中したのだ。


ドラゴンの全身をおおっていたほのおが消える。


空中で回転するように姿勢をくずしたドラゴンは、背中のほうから地面に急降下する。




バキバキバキ…!




ズ ズ ゥ ン ッ … !




セレス達のいる場所のすぐ近くに、地響じひびきが起きるほど激しく落下した。




「やったか…?」


ミリアがつぶやくように言う。




「グルルルルォォォ…!」




生きている。




バキバキ…!ズズ…!ズズ…!


仰向あおむけにたおれていたドラゴンが、全身をよじるようにしてうつせになった。


間近で見るととんでもない身体の大きさだ。




ブシュブシュ…。




その首の付け根の辺りは、岩か何かに強打したのかわずかに出血しているが、

ピンピンしているようだ。




「…!

 ベリエッタさん!他人ごと瞬間しゅんかん移動はできますか!?」


セレスがさけんだ。


「一人ぐらいなら何とかなるが…、何をする気だ?」


ベリエッタがたずねる。


「あの首の付け根に出来た傷!

 あそこに攻撃こうげきします!

 背骨にダメージが入れば動きを止められるかもしれない!」


セレスが指差す。


「!

 分かった!」


ベリエッタが左手をドラゴンの上空にかざしながらセレスにけ寄り、

右手でそのかたつかんだ。


ビュオン!


ドラゴンの頭上にベリエッタとセレスが飛んだ。


その時だった。




「 ガ ロ ロ ロ ロ ア ア ァ ッ ! ! ! 」




ドラゴンが天に向かって大きくえた。


空気がビリビリとふるえる。


そして、セレス達と目が合う。




ガパッ…!


ドラゴンがその口を大きく開いた。




ベチャッ!


セレスとベリエッタはドラゴンの舌の上に落下した。

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