輸液の効果が出てきました!看護の指導も頑張っています!

 アロンソの傷口の洗浄と、輸液の投与を終えたヘレンは、記録のあと死んだように眠った。


「ふかふか……すべすべ……」


 ヘレンが寝ぼけながらシーツを撫でていると……。


「ヘレン様!ヘレン様よろしいでしょうか!」


 バァンとドアを開けて侍女が入ってきた。


「はい!急患ですね!……スゥ…………」


 ヘレンは用意された客間で、布団の誘惑に負けている。


「ヘレン様!起きてください!アロンソ様の輸液?が終わりました!」

「はっ!輸液が終わった!?分かりました!すぐに次を注ぎます!」


 飛び起きてまっすぐにアロンソの部屋へ走る。着替えなど持たないヘレンは、普段着のボロい服で寝ていたので移動が早い。


「戻りました!輸液追加します!」


 ヘレンは手を洗い、お酒で手指消毒をする。そして輸液入れのガラス瓶にかぶせたおおいを取った。


「わあ、空っぽ!いつ終わりました?」


 水滴も残らないほど乾いた瓶に、ヘレンはさすがにあきれた。アロンソの腕に刺してある針と腸詰めの腸を外す。


 ──腸のほうは輸液が満ちてる。


 すぐに輸液を注ぎ足す。

 流れる量を確認してからまた、アロンソに刺さった針につなぎ直した。


「えっと、気がついたらなくなっていました」


 ──輸液の確認をしないなんてありえない!中身を確認してって言わなかったっけ?


「これが無くなるとアロンソさんの病気が悪化します。気をつけて見ていてください」


 ヘレンはため息を吐かないように気をつけて、侍女に注意した。


「申し訳ありません」


 侍女が申し訳なさそうに謝る。


 ──相手は初心者、相手は初心者。


「いえ、係を決めて動くとやりやすいわ。

 アロンソさんのお世話をしつつ、輸液の確認をする人、トイレを確認する人、記録をする人と分かれるといいかも」

「さようでございますね。私が指示を出しましょう」


 使用人頭が頷いた。


 ──こういうときの上下関係最高!私楽チン!


「そうだ、おしっこは出た?」

「はい。ただ、あんなにお水を入れているのに量が少ないんです」


 大き目の花瓶のような尿瓶しびんをちらりと見て、お世話をした侍女が不安げに報告した。


「大丈夫。体の中のお水が足りてなかったみたいなの。このまま輸液を続ければ、いつも通りのおしっこが出るわ」


 ヘレンはアロンソの容態をチェックし始める。すると周りで働いている使用人が一斉にこちらを向いた。


 ──なんか、周りの人が様子をうかがってる……。全部言葉に出したほうがいいかも?


「こんにちは。アロンソさん、気分はどうですか?」


 ヘレンはアロンソに声をかける。アロンソはうっすらと目を開けているようだが、焦点があっていない。


「アロンソさん、うなづきましたね。お熱は……やっぱり高いですね」


 ──アロンソさんの体は、使用人が拭いたと言っていたわね。


「顔色は昨日と変わらないかな。アロンソさん、腕を触ります。脈を測りますね」


 ヘレンは腕をとった。


「脈は速いですね。昨日より微妙に遅くなったかな?これからですね。さて、血圧をみます」


 昨日と同じように首、手首、足のつけねを測る。


「お!少し脈が分かりましたよ!輸液の効果ですね。輸液はこのペースで続けてみましょうか。最後は傷口をみます」


 アロンソの体が、ビクンとはねた。


 ──お、反応がある。無意識?


「あはは。棒はもう入れませんよ。傷口を見るだけです」


 使用人がやってきて布団をはがした。

 少しめくると軟膏が塗られた傷口がみえる。


「やっぱり使用人がいると小綺麗に保てるわね。

 うーん。縫合したほうがいいのかな?このまま治りそうだけど……ドクターが欲しい。

 アロンソさん、ありがとうございます。ゆっくり寝てくださいね」


 こうしてヘレンのバイタルチェックは終わった。


「ヘレン様、よろしいですか?」


 使用人頭がヘレンに話しかける。


「はい!何でしょう!」

「アロンソ様は私が話しかけると少し微笑まれます」

「わ!ぜひ記録してください。親しい人かどうか分かってるんですね。

 まったく意識がないわけじゃないのは良いことです!これからもアロンソさんに話しかけてください」

「それと、アロンソ様のお首や手首を触っていらっしゃいましたが、あれは……?」

「あれは血の巡りの強さを見ています。血圧と言うんですが、心臓がグッと血を流したりブワッと元に戻ったりする動きの確認です」

「はあ……」

「自分でも分かりますよ。手首の親指側に人差し指、中指、薬指を当ててください。トクトクと動きを感じると思います」

「おお……」


 使用人たちはそれぞれ自分の脈を取っていた。


「走るとトクトクが速くなります。病気になると弱かったり、強かったり、いつもと違うので分かります。

 ちょこちょこ触って確認するといいです」

「アロンソ様は……」

「アロンソさんはとても弱いです。つまり、心臓が弱くなっているか、血の量が少なくなっているか、です。

 私の経験上、血の量が少なくなっているかな?と思ったので、まずは輸液で血の量を増やしています」

「なるほど、ヘレン様はよくご存じですね。教会でこのような?」

「いえ、教会に入る前です。他に質問はありますか?」


 ──さすがに前世とは言えないわ。


 使用人頭が話しかけようとした途端、ヘレンのお腹がなった。周りの空気がふわっと緩む。


「嫌いな食べ物はありますか?」


 使用人頭がふっと口元を緩める。


「なんでも頂きます!」


 ヘレンは食い気味に答えた。

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