トイレができました!次は手洗いです!

「あぁ!?」


 ヘレンはポーロと名乗る男にガンを飛ばした。


「お!はじまるか!?」

「ヘレンやれ!殴れ!」


 小競り合いの気配に、ヤンとヴォルフは色めき立つ。


「あんた誰よ?」

「ポーロって名乗っただろ?元神官だ」

「神官も聖女も多くて覚えてない!」


 ──国中の加護持ちが大集合だったんだから!


「まあ、仕方ないか。お前は有名だったからな。問題ばっかり起こすヘボ聖女のヘレンって」

「問題?何気ない日常にささやかな刺激をプレゼントしてただけよ?」

「聖書を読む時間に官能小説を読んだり、神官の真っ白な法衣に真っ赤なバラを刺繍するのがささやかなプレゼントなのか?」

「そうよ!……って、ヤン!ヴォルフさん!うわ、ショボって顔しないでよ!

 ポーロ、とにかく穴を掘って!」

「どのくらいの大きさ?」

「幅は人がまたがるくらい。おばあさんでも大丈夫な狭さにしてね。

 深さは深いほどありがたいわ。

 森側に筒を立てるから、そこだけもっと深く掘って欲しい」

「簡単だな」


 ハッと鼻で笑って、ポーロは地面に手を向ける。


 ボコォッ!


「わ!一発!」


 注文通りの穴が出来て、ヘレンは感動した。


「当たり前だろ。僕は上級神官だったんだ」

「あらエリート」

「なんだ?上級って」


 ヤンが話に入ってきた。


「加護によってランクがつくの。お肉みたいに」

「へー」


 ヤンは自分で聞いたくせに興味がなかったようだ。


 ──こいつ……!


「ポーロ、あと5つ掘れ」


 ヴォルフは、侵入者が来そうなところを選んで穴を開けるように指示する。


「了解です」


 ボコォッ!ボコォッ!ボコォッ!ボコォッ!ボコォッ!


 草むらと行っても背が高い植物だらけなので、一応目隠しされた穴が合計6個出来た。


「よし!筒用の穴に炭を入れて、筒を差して!」


 川で拾ったり、その辺にあった廃材の筒を、一つ一つ差していく。


「何で筒を差す?」

『空気が入ることでウンチを分解する微生物が活性化するよ!』

「お前の加護?」


 ポーロがジーニを指さした。


「何か文句ある?」

「こういうところじゃ役に立つのか」

「そう!そうなの!」

「ヤベッ」


 ヘレンは目を輝かせた。同時に、ポーロは話が長くなる気配を感じた。


「ヘレン!次はどうすればいい?」


 運良くヴォルフがヘレンを呼ぶ。


 次はお湯を作ったときにできた炭と、葉っぱや草をいれます!

「これで終わりか?」


 草を入れ終えたヤンがたずねる。


「そう。あとはトイレを使ったあとに葉っぱをかけていくと土に還るわ」

「スラムの奴らがキチンと使うかどうかだな」


 ポーロが不安を口にする。


「使わないと殺すって言えば使うだろ」


 ヴォルフは何でもないように答えた。


 ──でた!暴力による独裁。


 その後、ヤンが人を連れてきては、ヘレンが説明していった。


「なんで、こんなメンドウなことを……」

「ヴォルフさんの指示です」

「……ボスならしょうがないな」


 ──このやり取りばっかりだわ。今まで道でトイレしてたから、めんどくさく感じるのかしら。


 それでも、人づてにトイレのことは広まっていった。

 そして、その日のうちに、全員が一回はトイレを使用したのだった。


 ──トイレを使い続けてくれるか、が今後の課題ね。


「次は石鹸が欲しいわね。手を洗わせたいわ」

『石鹸は灰と油で出来るよ!』

「ジーニ君、ありがとう。油はルードから貰えばいいか」





「無理だな。油脂は売りものだ」

「あぁ〜。やっぱり……」


 ヘレンはガックリと肩を落とした。


 ──ダメ元だったけどダメだったかぁ。


『食材やランプの燃料になるよ!』

「売れ残りの肉以外はやれねぇよ」


 ルードがそもそものルールを伝え直す。腹痛事件の炭はイレギュラーだったのだ。


「知ってた。そうですよね……。でも洗濯したかったなぁ」

『灰を水に溶かしても洗剤として使えるよ!』


 ジーニ君が新たな可能性を出してくれる。


「それだ!灰は捨てるよね!」


 転んでもタダでは起きないヘレンである。


「あぁ。俺も洗濯に使ってる」

「さすが潔癖症!そういうところは信頼できるわ!」

「褒めてないのは何となくわかるぜ」


 ルードが舌打ちをした。


「ちなみにジーニ君、どうやって灰を使うの?」

『ふるった灰を、布に入れてお湯で煮るよ!その後に布ですと灰汁あくができるよ!』

灰汁あくにそんな使い方が……。でもし布が無いわ。

 この間亡くなった人の服は他の人が着てるし……」


 ヘレンが寝ている間の出来事だった。亡き骸もさっさと片付けたとのこと。

 やぶ蛇なのでヘレンはそれ以上、考えるのをやめた。


「ヴォルフさんに頼むかな」




「クソッ!川で拾うしかないのね!」


 あらゆるゴミが漂着する川辺でヘレンはゴミ拾いに精を出した。


 ──自分のものは自分で探せ、って!そうですけど!……そうですけど!


「陶器の破片、布と言えない布の破片、なにかの骨、そんなのばっかり!」

「なにしてるの?」

「ポーロ!布を探してるの!」


 河原にやってきたのはポーロだ。


「実はかくかくしかじかで」

「トイレのところにある木の実は泡立つぞ」

「なんと!」


 ヘレンは先に植物を試すことにした。

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