第8話
火曜日が終わった。
噂が広まった俺のもとに集まった多くの女子を丁寧に対応しつつ、一人一人ターゲット候補から消す作業に追われていたら一日が終わっていたのだ。
だが他に何もしなかったわけではない。その作業以外の時間は、全て優子にあてていた。
「一緒に登校しよう、優子」
「う、わかったよ」
と朝は一緒に登校し、
「昼食食べに行こう、優子」
「……おぅ」
と昼休みを共に過ごし、
「猫太郎、見に行こうよ」
「うん」
放課後も一緒にいた。
それから夕食も2人で食べて、お風呂を代わり代わり入って今にいたる。
机に向かって勉強している優子を眺める。
ことあるごとに優子と過ごすうちに、だんだんと優子のトゲがとれてきたように思う。
それに……。
「優子」
近づいてイヤフォンをつけて勉強している優子の耳に、ふっ、と息を吹きかける。
「ひゃん、にゃ、にゃにすんだよぉ」
優子の顔が真っ赤になった。
今まではやめろだとか気持ち悪いとか言っていたが、それがこなくなった。
それに黙ってやると、こっちの顔をじろじろ見て、俺が何を考えてるのか汲み取ろうとしてくる。
それは今日一日、俺のことを考えるように仕向けた成果だった。
「な、なんで、こんなことしたんだよ?」
「さあ?」
「っ〜!」
もどかしそうで、俺が離れても優子はこちらをチラチラとみてくる。
俺のことを考えさせることには成功したな。
次は、フット・イン・ザ・ドア。
しばらく時間を置いてから、
「優子、ジュースを冷蔵庫から出してきてくれないかな?」
そう言うと、
「はいはい、わかったよ」
二つ返事で、優子は立ち上がった。
「ありがとう」
と背に声をかける。
このくらいの要求なら、簡単に呑むようになった。
既に、俺の要求をのむ立場を無意識に好んでいる。ならば、明日には目的の要求を呑ませられるだろう。
ということで、水曜日。
火曜日と同じような時間を過ごして、夜。
消灯して2人ベッドに潜り込んだとき、俺はボソリと言った。
「優子」
「何だよ、もう寝るだろ」
「どうして私が優子に構うかわかる?」
しばらくの無言。そして小さな声で優子は呟いた。
「聞きたい……。どうして私なんかに構ってくれるの? 突き放すようなこと言っても、全然離れてくれないし。ねえ、どうして?」
「じゃあさ、女の子のこと、好きになってよ」
「ちょ、ええ!? 何て言った!?」
俺は狸寝入りを決め込む。
するとしばらくして優子が布団の上で足をバタバタしはじめた。
それでも何もしない。
優子はどうして俺がそんなことを言ったのかを考える。私を好きなのかも、という思いが膨らむ。そしてそれは恋心を育む。一貫性の心理と相まって、女の子を恋愛対象にしてしまう。
明日には、そうなったかどうかわかるだろう。
俺はそのまま眠った。
そして朝起きる。
先に起きていた優子に「おはよう」と告げる。
びく、とした優子に視線をそらされる。
眠気まなこでもわかるほど顔は真っ赤。
予想通り、成功だ。
第一段階の成功を確信して、俺は次のフェーズに移すことに決めた。
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