第24話:ギャルはテンション上げ上げ

 仁志名にしな天国あまくにさんと三人で、時計の塔があるガーデンまで来た。

 はるるとくるるは、お喋りしながら俺たちを待ってくれていた。


「おおーっ、おかえり日賀君っ!!」


 俺たちの姿に気づくなり、はるるが満面の笑みで大きく手を振っている。相変わらず可愛い。


 金髪のウィッグに青を基調としたロングドレスの爽やかなコスチューム。

 DALダルのメインヒロイン、精霊のジャンヌが俺に向かって手を振るなんて、なんとも言えずシュールな光景だな。


 その横にはくるる。所々血を思わせる真紅のデザインが施された真っ黒なドレスの陰陽寺おんみょうじ歌憐かれん

 冷たく美しい、物憂げな表情で俺たちを見つめている。


 うーむ、こちらもシュールな光景だ。


「こちら双子レイヤーのくるるとはるる」


 仁志名と天国あまくにさんに二人を紹介した。


「うっわぁ! ジャンヌと陰陽寺おんみょうじ歌憐かれんだ! すごぉーい! かっけぇー!」

「だろ?」


 仁志名はテンション上げ上げだ。

 こら、ペタペタと二人の衣装を触るな。

 子供かよ。


「はるるです! ゆずゆず、すっごく美人んんんーっ!!」

「いやいやはるるこそ、めっちゃかわゆいーっっっ!!!!」


 極めて明るい性格の女子二人がキャッキャと騒いでる。

 まるで太陽が同時に二個あるみたいだ。

 隠な俺には眩しすぎて焼け死にそう。


「くるるもよろしくっ!! 陰陽寺おんみょうじ歌憐かれん、カッけぇぇーっ!」


 仁志名は今度はくるるに向かって、両手で握手した。そして手を上下にブンブン振っている。


 くるるは上半身引き気味でドギマギしている。

 両手を思い切り振られて足元がふらついてるけど、大丈夫か?


 コミュ障の彼女にとっては陽キャの圧が耐えられないのだろう。俺だってコミュ障だからわかる。

 うん、よくわかるぞ。


「仁志名、それくらいにしとけ。くるるが壊れてしまう」

「へ? あ、ごめーんっ!」

「いえ、だ、大丈夫」


 焦った顔が全然大丈夫じゃない。

 ふらついてるよ、くるる。


 元々繊細な感じの女の子だからな。

 無理しちゃダメだ。


「あ……あなたがアドバイスを受けたいというゆずゆず?」

「うん、そーっ!」

「ううっ、美人……だね」

「ありがとーっっっ! 今日はダークな演技のアドバイスよろっ!」


 仁志川がぺこりと頭を下げた。


 そこでくるるがくるっと顔を横に向けて俺を見た。

 キッと厳しい目で睨まれた。

 俺、なにか悪いことしたかな?

 心当たりはないぞ。


「ゆずゆずって、arata様と仲がいいんだよね?」

「あらた様……? あ、日賀っぴのことね!」


 くるるはコクコクとうなずく。


「うん、仲いいよーっ!」

「羨ましい……」

「え?」


 くるるの意外な言葉に、仁志名はくるんと目を見開いた。

 いきなりそんなセリフを聞いたら、そりゃびっくりするよな。


「あのさ仁志名。くるるはarataの写真を崇拝してくれてるんだって」

「へぇーっ! やったじゃん日賀っぴ!!」

「おおぅ……」


 バシンと背中を叩かれた。痛い。

 痛いけど、仁志名が自分のことのように喜んでくれるのが嬉しい。


「そう。だからゆずゆず。私にもarata様を貸して欲しい」


 くるるが両手で、カメラのシャッターを切る手振りをした。

 つまりくるるも、俺に写真を撮ってほしいってことか。


「やだ。貸さない」


 ──は? なんで?


 仁志名が唇を尖らせて言った言葉に、俺は固まった。

 くるるも固い顔つきで、ピキーンとフリーズしてる。


 そんな意地悪を言うヤツじゃないのに。

 いったいどうしたんだろう。


「なぁーんてね。ちょっと日賀っぴを独占? みたいに言ってみましたぁー、あはは」

「は?」

「そもそも日賀っぴがくるるの写真を撮るかどうかは、日賀っぴが決めることだもんねー。あたしが貸すとか貸さないって話じゃないし」

「まあ確かに」

「でもでもっ! 今日はくるるにアドバイスをもらうんだよ。だからっ! ね、お願い日賀っぴ。くるるのお願いを聞いてくれたら、あたしも嬉しいなー」


 なんですかその明るい笑顔は。

 そして人に優しい発言は。


 いやだから。

 二の腕を人差し指でツンツンつつくのはやめてくれ。

 そんなことされたら、『うん』と返事する一択しかないでしょ。


 くるるも緊張した面持ちで俺を見てるし。

 きっと俺がうんと言うのを期待してるんだろう。


「わかった。喜んで撮影するよ。俺なんかでいいならね」

「arata様がいい」


 くるる。クールな顔でそんな可愛いことを言わないでくれよ。

 思わず頬が緩んでしまう。背筋がむず痒い。


 ──って、デレデレしてたら仁志名に睨まれた。


 でへへと笑っていたのが気持ち悪かったんだろう。

 やば。慌てて顔を引き締めた。


「よかったねくるる! 日賀くん、やっさしいー!」


 はるるが過剰に褒めてくれて、さらに背中がむず痒くなる。


「いや別にそれほどでも」

「アニメ〜だカフェで一緒にご飯食べた時から、日賀君って優しい人だなぁって思ってたんだよ!」


 はるるの言葉に、なぜか仁志名の顔がピキーンと凍りついた。


「アニメ〜だカフェで一緒にご飯? なにそれ?」


 うわ。鋭い目つきで睨まれてる。怖っ!


 そう言えば双子姉妹とランチしたことは、仁志名には内緒にしてるんだった。


 なんかすっごくヤバい状況なのでは?

 俺は背筋が凍りついた。

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