第3話 夜見さんの正体は……(後編)

『そして、ついに今回、雨の日も風の日も台風の日や体調の優れない日だって欠かすことなく参拝と奉納を続けて、五〇〇〇ポイントの許嫁コースを達成した人が登場しました。それがこちら――」


 画面に四角い枠が出てきてそこに映ったのは俺のじいさんだった。

 あのじじいなにやってんだ。


『こちらの方が今回、連続五〇〇〇日の参拝と奉納を達成して許嫁コースを希望とのことですが、ご本人に詳しくお話を聞くと、自分はもう結婚しているので、孫に最高の許嫁をとのことです』


 あのじいさん何やってくれてんだよ。たしかに俺が幼いころから毎日お参りしてたのは知ってたし、俺も一緒にお参りしたことだって何度もある。でも、まさか、あれでポイントが溜まるなんて思ってもみなかった。そんなスーパーやドラッグストアのポイントカードみたいなことがあるのか。しかも、連続五〇〇〇日って十三年以上じゃねーか。


『許嫁の権利を他人譲るという前代未聞の希望でしたが、そこは心の広い神様がOKということで、神使のキツネたちを中心に話が進み、日本中のキツネ娘の中からお孫さんにピッタリの子が選ばれました』


 ん? キツネ娘ってなに? 神様まで出てきて話が壮大になってきた。

 それに許嫁の選択肢がキツネ娘だけって狭くない?


『それではついに運命のご対面!!』


 キツネ娘のキャラがそう言ったところでこの動画は終わった。これが説明ということだけど話が突拍子もなくてさっぱり理解できない。ってかこのどっきり手が込みすぎ。


「夜見さん、この動画だといまいちよくわから……」


 画面から視線を上げて再び横にいる夜見さんに話しかけようとしたところで俺は言葉を失ってしまった。だって、そこにいたのはさっきまでの彼女ではなかったから。


 夜見さんの頭からはしゅっとキツネ耳が出てきて。お尻の上の辺りからはモフモフとした髪色と同じ毛の生えた尻尾が出てきた。


 このあたりでこれはテレビのドッキリ企画等でないことを理解し始めた。もう、テレビ番組でできるレベルの演出じゃない。ということは夜見さんは本当に人ではなくてキツネ娘ということなのか。


「陽さん、どうやろ? 驚いた? それとも怖い?」


 夜見さんは眉毛が八の字になって不安そうな表情を浮かべている。


「驚きはしたけど、怖くはないよ」


 正直、とてつもなく驚いている。なんなら大沼荘にトラックが突っ込んでいる光景を目にした時より驚いている。でも不思議と怖いという気持ちは湧いてこなかった。もし、夜見さんが悪いキツネ娘ならこの部屋に招いたところで襲われて殺されていただろう。わざわざ今まで待つ理由はない。


 夜見さんの顔から不安の色が消えて一気にニコリとした笑顔が花開いた。


「おおきにありがとう。この姿見て驚くんは当たり前です。でも、怖がられたり嫌われたりしたらどないしよと思てたんです」


 ヤバい、夜見さんのキツネ娘姿を無茶苦茶可愛いと思ってしまった。もともと、夜見さんはすごく可愛いのだが、ピンとして艶やかで柔らかな毛がはえている耳とモフモフの尻尾で愛くるしさが大幅にUP。これだけ可愛いとお茶でも飲みながら何時間でも見ていたいと思ってしまう。


 あれ? 俺ってケモ耳属性あったっけ?


 でも、それと夜見さんを許嫁として受け入れるかは別の話だ。


 俺はつい数時間前に彼女に振られたばかりで、いくら夜見さんが許嫁だといわれても困ってしまう。俺はまだ元カノへの未練が断ち切れたわけじゃない。


 いや、俺の中には夜見さんが何らかの方法で元カノに俺を振るように仕向けたのではないかという疑念さえある。そうでなければ、元カノに振られて、下宿先にトラックが突っ込み、高級物件に引っ越したと同時に許嫁が現れるなんていうライトノベルみたいなことが起こるはずがない。


「ねえ、夜見さん、今日起こっていることはどこからが夜見さんが仕掛けたことなの? まさか俺が振られたことにも夜見さんが関わっているわけじゃないよね。さすがに御利益を達成するためにそんなことまでしたならちょっとおかしいと思うんだけど」


 あまりきつく責めるような言い方にならないように気を付けながら問いかけると、夜見さんは落ち着いた様子で答えてくれた。


「それは違います。陽さんのおじいさんが許嫁コースを選択された時にはすでに陽さんは彼女さんとお付き合いをされてました。そないなると、神さんといえど陽さんの不利益になるようなことは出来ません。そやさかい、うちは陽さんのクラスメイトという距離に置かれていたんです。そこで陽さんを見守りなさいってことでした」


 元カノと付き合いだしたのは三カ月くらい前、夜見さんと同じクラスになったのは二年生になってからだから先月から。でも、これでは夜見さんが彼女に何か働きかけたことを否定するだけの証拠にはならない。俺はスマホを取り出して今回の出来事の原因ともいえるじいさんに電話をしてみることにした。


 通話アプリの電話帳からじいさんの連絡先を見つけてタップすると三コールもしないうちにじいさんは電話に出た。


「もしもし、俺だけど」

『あっ、そういう詐欺は間に合っておりますので』

「そっちもスマホなんだから名前が表示されてんだろ。俺だよ。陽だよ」

『最初からちゃんと名前を言えばいいのに。それで今日はどした』

「どした、じゃない。今、俺のところにじいさんが許嫁コースを達成したとかでクラスメイトの夜見さんが来ているんだけど、どういうこと」

『夜見さんってことは、美月ちゃんが来てくれたのか』

「美月ちゃんって、じいさんと夜見さんは知り合いなのか」

『まあ、少しな。美月ちゃんなら何の心配もない。お前さんが昔から奥手だったからじーちゃん心配して十三年以上も頑張ったよ』

「ちょっと、待てよ。俺はそんなこと頼んでないし」

『どーせ、彼女はおらんのだろ。それなら問題ない。わし、そろそろ婆さんと北白川のラジウム温泉に行く時間だから切るぞ。あとは若い二人で頑張ってくれ』


 一方的に話を畳まれて、通話は終了した。

 とりあえず、御利益っていうのは本当らしい。たった数時間で十五年以上生きてきた中の常識がひっくり返され、全くの未知の展開が続いている。


 俺がおかしいのか。周りがおかしいのか。


 額に手をやって状況を飲み込もうとしている俺に夜見さんが神妙な顔つきで話し出した。


「さっきの説明やとうちが陽さんが振られたことに関わっていないということの説明としては不十分かと思います。……あの、実は陽さんと彼女さんがうまくいっているかということを調べていたんです。その途中でわかったことなんですが、元カノさんは浮気してはったんです」


 えっ!? 浮気……。

 

 夜見さんは非常に申し訳ないという様子で旅行鞄から一冊のファイルを取り出すと俺に渡した。


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 リメイク作品ですが途中からは独自ルートにしたいと思っていますので、過去に読んだことがある方もお楽しみに!

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次回更新は12月4日午前6時の予定です。

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