第28話 観光案内

 サロンへ向かうと、そこではおじい様とおばあ様、そしてアルトが待っていた。たぶん、フォルタン侯爵のご令嬢にあいさつするつもりだったんだろうな。


 うん、これはまずいね。とてもまずい。おじい様とおばあ様はフルール様のことを知っているはずだ。だって前マルモンテル伯爵夫妻だもんね。王城へは何度も行ったことがあるだろうし、当然、お姫様の顔も知っている。さすがにアルトは知らないだろう。


「アア……ア……」


 大丈夫かな? おじい様が強敵との圧倒的な力の差を見せつけられて、絶望した戦士みたいな声を出しているけど。おばあ様は……さすがはおばあ様。なんともないぜ。顔色一つ変えずにほほ笑んでいる。そしてチラリとお父様を見た。

 小さくうなずくお父様。すべてを理解するおばあ様。マジパネエッス。


「ようこそ、マルモンテル伯爵家へ。フォルタン侯爵家のご令嬢だけじゃなく、他にもお友達が来てくれたみたいね。みなさん、ジルベールのお友達になってくれて、ありがとう」

「は、初めてお目にかかりますわ。フォルタン侯爵家のリーズです。お見知りおき下さい」


 リーズ様を皮切りに、フルール様とクリスがあいさつをする。フルール様はもちろん”ヴァロー伯爵”と名乗った。それに続いて引きつった笑顔を浮かべるおじい様と、いつもの笑顔のおばあ様があいさつをする。


 とりあえずはこれでよし、なのかな? あとは弟のアルトを紹介したら終わりである。

 おやおや~? アルトくんの目がフルール様にくぎづけになっているぞ~? もしかして一目ぼれしちゃったのかな。

 無知とは恐ろしいものである。アルトはすごいなー。ボクにはとてもできない。


 あいさつを済ませると、お父様とお母様、そしておじい様とおばあ様は退出した。かなり渋っていたが、最後はロズウェル事件で連れて行かれる宇宙人のように、アルトも両親によって連れて行かれた。


 みんなが出て行ったのを確認すると、使用人たちも出て行くように指示した。これでシロちゃんが姿を見せても大丈夫だ。ようやく何があったのかを聞くことができそうだ。


「シロちゃん、もう姿を見せても大丈夫だよ」

『ボクもみんなにあいさつしたかったでち』

「ごめんね。シロちゃんの存在がみんなに公表されたら、そのときに改めてあいさつをしようね」

『分かったでち』


 そうは言ったものの、そんな日が来なければいいなと思うボクであった。そんなことしたら、絶対にウワサになる。あっという間にその話が領内に広がることだろう。色眼鏡で見られるのはなんか嫌だ。


「あの、どうしてここに? ボクの手紙が届かなかった?」

「いえ、届きましたわ。それでフルールとクリスにも連絡を入れたのですが――」

「リーズったらズルイのよ。自分だけジルのところに行こうとしてさ」

「フルールお姉様からその話を聞いたときは驚きましたわ」

「それは、その……」


 タジタジになるリーズ様。そんな風になるなら、抜け駆けなんてしなければよかったのに。……なんだろう。なんだかボク、争奪戦に巻き込まれてない? みんな仲良くね。

 それにしても……フルール様はリーズ様の家を監視させていたな? さすがは王家。抜かりなし。敵には回したくないな。


「そうだったんだね。みんなが来てくれてうれしいよ。ちょっと寂しく思っていたからね。おじい様の危篤はウソだったみたいだし」

「そのようですわね。一応、私たち、お見舞いの品を持って来たのですけれども……」


 困り顔になる三人。どうやら本気で心配してくれていたようである。それならそれを有効活用した方がいいな。因果応報である。おじい様とはいえ、容赦はしない。


「それならそれをおじい様に渡してあげてよ。これで少しは懲りてくれると思うからさ」

「そうね。そうしましょうかしら?」

「それならみんなで行きましょうよ」

「そうですね。みんなで渡してあげましょう」


 ちょっと悪そうな顔をするフルール様。それに乗っかるクリス。お姫様のお見舞いを受ければ、さすがに反省するだろう。これにはおばあ様もニッコリしてくれるはずだ。




 翌日、ボクは領内の観光案内を買って出た。アルトも行きたがったが、シロちゃんがいるため、申し訳ないけど我慢してもらった。使う馬車はリーズ様の馬車だ。護衛についている人が以前にみんなでデートへ出かけたときのメンバーだったので、シロちゃんが姿を現しても問題ない。


「今日はみんなをマルモンテル伯爵領自慢の自然公園へ案内するね」

「聞いたことがありますわ。確か、国内最大級の広さを持っているのですよね?」

「リーズはよく知っているね。そのまま大自然とつながっているんだよ。そのうちの一部に遊歩道をつけたり、買い物や食事ができる場所を作ったりしているんだ」


 マルモンテル伯爵領にはたくさんの自然が残っている。それをうまく利用して観光地にしているのだ。王都よりも少し北に位置しているため、避暑地として利用する貴族も多い。


「ステキですわね。ますます楽しみになってきましたわ」

「まずは森林浴をして、それから滝を見に行こうと思っているよ」

「滝も見られるのですね。一度、本物の滝を見たいと思っていましたわ」


 よしよし、どうやら観光案内を選んだのは正解だったみたいだ。ここならみんなとゆっくりと話せるし、場所も広いので、シロちゃんが姿を見せても騒がれることはないだろう。もし姿を見られても、みんな何かの見間違いだと思ってくれるはずだ。


 自然公園の中をみんなで歩く。王都近郊にももちろん多くの自然がある。だが、マルモンテル伯爵領の自然は、何というか緑が濃いような気がする。

 そのことについては昔から色んな意見があるようで、土壌の栄養が豊富だとか、土に含まれる魔力が多いとか、空気中に含まれる魔力の濃度がどうのこうのとか言われている。


 しかしこれまでの間、有力な説は出ていない。今では三大不思議の一つになっている。そのことも、観光客が訪れる要因の一つになっていた。


 だが、よいことばかりでもない。数年に一度の間隔で、他よりも強力な魔物が現れるのだ。その原因を、専門家たちは魔力の濃度の濃さだと主張している。もちろんそれを証明するものはない。


 今年はその周期に入っていたようで、すでに強い魔物が討伐されていた。

 これで数年間は安心して自然公園を訪れることができるぞ。突如二体目が現れるような、想定外の事故でもない限り!

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