終幕

SUKIYAKI

 自分に才能がなかったらどうしよう?


 6月13日。13歳の誕生日。六道十三日りくどうとみかは、誕生ケーキの前で、ずっと悩んでいた。今日は、まだ良い。13歳は。問題は来年である。14歳になると、才能のある人間には体の何処かに目印──『才能の花』が咲く。宇宙船の搭乗員クルーにそう教えてもらってから、彼はずっと戦々恐々としていた。


 だって、そうでしょ?


 子供は皆、『才能のある人間』に惹かれるものだ。十三日もそうだった。学問、芸術、スポーツ、それに魔法……様々な分野で突出的な活躍をし、己の才能を花開かせる人々は、羨望の的だった。


 将来は自分も何か、『才能のある人間』になりたい。

 多分漏れず、彼もそう思っていた。自分がポンコツに……お父さんみたいになったらどうしよう? あんな風にお母さんの尻に敷かれて……考えるだけで恐ろしいことだった。


「誕生日おめでとう、十三日」

「…………」


 だから、大好きなお母さんにそう声をかけられても、彼は俯いたままだった。近くにいたラマぴょんが、そんな彼を見て不思議そうに顔を舐めても、やはり悲しげに目を伏せ、ピクリともしない。


「どうしたの?」

「…………」

「何かあった? お母さんにも話せないこと?」

「…………」

「…………」

「……ぼくが」


 十三日はようやく重い口を開いた。


「ぼくに、何の才能もなかったらどうしよう!? 何の花も咲かなかったら、ぼくは……!」


 今にも泣き出しそうな十三日を、いつの間にか背後に回っていたお母さんが、ぎゅっと彼を抱きしめた。


「あらあら。泣くほどのことじゃないでしょう?」

「だって! だってぇ! お母さぁん!」

「大丈夫よ」


 ポロポロと頬を伝う涙を指で拭って、お母さんが優しくほほ笑んだ。


「才能とか能力とかじゃないの。お母さんは貴方が生まれて来てくれただけで、それだけですっごく嬉しいのよ」

「……ホント?」

「本当よ。生まれて来てくれてありがとう、十三日」

「……うん」


 お母さんに髪をクシャクシャに撫でられ、それで彼は少し元気になった。涙を拭い、改めて自分の席に坐り直す。丸い窓の外には、満天の星空が浮かんでいた。


「さ、お父さんを呼んで来ましょうか……」

「ねえ」


 目の前に置かれた誕生ケーキを見つめ、十三日はふと首を傾げた。


「ケーキ、切らないの?」


 そう尋ねられたお母さんは、エプロンを外しながら、いたずらっぽく笑った。


「愛は切れない、の♡」


《終幕》

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六六七七 てこ/ひかり @light317

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