第39話(終)俺も大好きですよ。相棒

「だあああああっ! 遅刻だ!」

 ブレザー制服を着込んだイクトはリコを背負って走る。

 セーラー服の上に白衣を着込んだリコは今なお惰眠を貪っている。

 イクトが背負って走り続ける苦労に目覚めることなく、憎たらしい笑顔で夢心地だ。

「この実験バカ! 徹夜厳禁だって何度言えばわかるんだ! 今日の放課後は定期勉強会だろうが!」

 叱りつけようとリコは目覚めず。

 イクトとリコは惑星ノイから帰還を果たす。

 惑星ノイは戦後復興が進められることが決まり、メタクレイドルから続々と人々が帰還している。

 それにより立ち去った者と残された者とで軋轢が生じていた。

 仲介役として一人の僧侶が名乗りを上げ、間を取り持っているそうだ。

 また、現実世界で好き勝手暴れ回った集団は、連合政府が放置していたこともあってか、罪に問われることはなかったが、こっぴどく油を絞られたと聞く。

「もう関係ないしな」

 息を切らすことなくイクトは走る。もうあちら側の問題。時間がゆっくりと解決してくれるだろう。

 イクトたちが帰還すれば時間的に配信最中、黒い穴に吸い込まれた直後ときた。

 少々混乱もあったが、しょうもないリコのイタズラとして誤魔化した。

 無論、ただで帰還するはずがない。できるはずもない。

 色々と惑星ノイから、持ち帰ったり、連れ帰ったりしていた。

 当然のこと一悶着あったりする。

 発端は<ラン>や<グラニ>開発チームが記録した映像データである。

 連合政府はその映像を閲覧したことで天竹イクトを惑星ノイの英雄に祭り上げようとした。

 孤軍奮闘にて惑星ノイを守った英雄と。

 要はプロパガンダである。

『あぁ? 世界救った英雄にしてやるし報奨金はたんまりやるからMAは返せだ? とっとと逃げた奴らが後からしゃしゃり出てくんじゃねえ!』

 MAは連合政府の予算により製造された車両である。

 故にMAの所有権は連合政府に帰属する。

 そうは問屋は降ろさぬとイクトは砲口突きつけて連合政府関係者を黙らせた。

 各異世界より無断で人々を連れ去ったこと、<アマルマナス>の撃退(大人の都合)を盾にあれこれ要求を認めさせる。


 一つ、MA01<グラニ>及びMA01U<アームドグラニ>、バディポット<ラン>は<アマルマナス>撃退の褒賞として無償譲渡すること。


 二つ、鷲崎リコが開発した技術に関する全てを平行世界において使用を認可すること。


 三つ、メタクレイドル転移時に家族を放逐した者に対して厳重な処罰を与えること。


 四つ、現MA所有者に関してはその所有を認可すること。


 五つ、異世界人を二度と惑星ノイに連れてくるんじゃねえ! 次やったら連合政府本部に鮫ぶち込むぞ!


 最後に至ればほぼ恫喝である。

 イクト自身、世界を救った英雄の自覚はないし喧伝する気もない。

 人探しが巡り巡って世界を救っただけの結果論だ。

 世界を救った英雄が恫喝などと、多少の批判はあったが連合政府からすれば呑まねばならぬ事情があった。

<アマルマナス>の大攻勢にて連合軍戦力はほぼ壊滅状態。

 残存戦力で既存兵器を凌駕するMAの相手などできるはずもなく、今度は人間の手で惑星ノイが危機に晒される。

 条件次第で懐柔が可能なこともあってか、連合政府は要求を呑まざるを得なかったのである。

 加えてイクトの背後で嗤う巨大鮫の存在も大きかった。

 たかが別世界の人間、一人消したところで――なんていう後ろ暗い話、計画だけで終わる。

 そうしてリコの開発した逆転移装置にて、異世界人全員が本来の世界に帰還するのであった。


『ボクは止めたんだけどね』

 マルチヘリコプターでプカプカ浮かぶ<ラン>が並走しながら言い訳臭く言う。

 反重力システムは地球ではオーバーテクノロジーであるため、空力飛行で誤魔化していた。

 一応はリコの開発したAIロボットという体裁とし、リコだからと疑いもなく周囲は信じてくれた。

 天才の後付けは便利である。

 ついでに持ち帰った<グラニ>や<アームドグラニ>はリコの手で作られた亜空間格納庫に収納されている。

 平和な世界に戦車など物騒であるが、共に旅をしてきた相棒であり愛着がある。

 また<アマルマナス>のような外敵の襲来に備えでもあった。

『はぁん、よくいうさ。あんただってノリノリで参加していたくせして』

 イクトの左腕につけたスマートウォッチからイナバクの声がした。

 本体はここより深い海溝に潜み、<アマルマナス>特有の素粒子で通話しているのだ。

「おいおい、知ってるなら止めてくれよ。なんのためについてきたんだ?」

『地球の海を泳いでみたいからに決まってんだろ? 安心しなさい。人なんて食わないって約束はちゃんと守るし、しゃっしゃしゃ』

 律儀な性格で涙が出そうだ。

 実際、イクトから出ているのは走ったことで出た汗であった。

「これはある意味、大円団なのかね?」

 自問するが自答に納得させるしかないイクト。

 リコの父親タダシも共に帰還し家族と再会した。

 一時は世間より騒がれるも、新たなニュースが流れれば自然と忘れ去られ、職場復帰している。

「んにゃ~モルくん、大好きだよ~」

 必死で走っているイクトの背後でリコが呑気に寝言を発している。

 叩き起こしたいが、寝起きの癇癪で騒がれるのは面倒なのでそのまま寝かす。

 ただし学校にたどり着き次第、容赦なく叩き起こす。

 寝起きのジャイアントスイングは寝ぼけた脳にバッチリのはずだ。

「はいはい、俺も大好きですよ。相棒」

 適当にイクトが空返事した瞬間、背後からボンと爆発したような音がした。

 心なしか背中が夏の日差しを受けたかのように熱い。

「うみゅ、ぐぐぐっ!」

 背後を振り返ろうと何もなく、気のせいだとイクトは走り続ける。


 このまま背負い背負われ、隣り合いながら二人は進み続けるだろう。

 もっとも、これが愛なのか、恋なのか、青い者たちには分からないかもしれない

 分からずともいい。気づかないままでもいい。

 それ故、前に進んで行く。

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天星勇戦記メテオアタッカー こうけん @koken

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