第34話 解決策
その日の授業中、一応は黒板を眺めているものの柚木は上の空で、今朝がた対峙した犯人のことを考えていた。
心春の反撃を受けたとはいえ、あそこまでの強行な手段に出るとは予想外だった。
小手に巻かれた鉄板のようなもの、もしかしたら胴や頭も何かして強化しているかもしれない。
おまけに相手は木刀。
汚い手も使うし、いうなら何でもありだ。
試合慣れしている柚木はどうしても戦いにくい。
なにより、これまでは相手に諦めさせるか、こっちから攻めてやっければと思っていたけど、どんどん危険になる振舞いに、違う解決策を考えなければいけないのかもしれない。
難しい顔をしていたのかもしれない。
前の席にいる悠斗から、『お昼に色々と話し合おうぜ』とタイミングよくメッセージが来た。
迎えた昼休み。
周りにも迷惑がかからないし、気持ち的にも楽だからと理由もあり、今日ははじめから学食ではなく、空き教室で食べることに決めていた。
図書館そばの空き教室、以前悠斗とは来たことがある。
普段は補習などで使われることもあるらしい。
いちおう、昼の時間だけ使わせてもらいたいと担任にも話を通しておいた。
鍵もちゃんと閉められ、食べている間は多少は警戒心をやわらげられそうで中に入ってほっとする。
「それじゃあ、食べながらちょっと話し合いたいことが……」
「その前に、渡すものあるんだよね……」
「縁でそんなご機嫌なんだ? なんだよ、渡すものって……?」
「ふふーん、はいお弁当」
「っ! えっ、なんで作って来てんの……俺、萌々が作ったの持ってきたんだけど……」
「護衛してもらってるんだから、このくらいは当然でしょ。朝から運動もしたし、2食くらい余裕で行けんじゃん」
「……ありがとう」
なんとなく恥ずかしくなり、視線を逸らしながら礼を言う。
「お、お、俺に!」
「はい……その、美味しくはないかもしれませんが……」
「光栄っす!」
みれば涼子も悠斗に弁当を手づくりしたようで、悠斗は恐縮しきりだ。
「そのひき肉の味つけ上手く出来たと、思う、ご飯進んじゃう、みたいな」
「いただきます……で、犯人のことなんだが、おれ、最初は心春を護衛することで最悪でも諦めさせればいいかなと思ってた。でも、それじゃあダメそうで、なら見つけて倒そうと思ってたんだけど……」
「まさか木刀まで持ち出すとはねえ、ていうかあんな襲撃は予想外だったよね」
「ああ……どんどん危険性を増してるし、倒したとしてもそれで終われるのかなって考えるとちょっとな。って、うまっ!」
「でしょ! 口に合って良かった」
「涼子さんのも美味しいよ。まあ、さらにエスカレートするかもだしな」
「ありがとう。警察に相談するにしても、ストーカー事件って難しそうですもんね……倉木君みたいには絶対にやってくれないと思いますし」
弁当に手を付けながら4人とも思案顔で唸っていた時、葵からのビデオ通話が入った。
表示された名に食いつく悠斗。
「葵さんじゃねーか!」
「それって、この前の動画の人」
「おう。ちょっと、悪い……出るわ。もしもし」
隣から心春と悠斗も覗き込むように画面を見つめる。
「ごきげんよう、倉木君。電話に出られたということはそっちもお昼のようですね。皆さんおそろい……なんだか雰囲気暗いですね」
「そうでもないよ……」
「あの、なんですかその顔? 今朝のメッセージには怪我をしたという情報はなかったと思いますが……」
「たいしたことはないから」
「そくもまあそれで、万全のコンディションでとか言えましたね。よわっ!」
「よ、用件はなんだよ?」
「例のストーカーのこと、剣道経験者に調べるように言ったのはあなたですよ」
「誰かわかったのか?」
悠斗と心春そして涼子も顔を近づけて、葵の言葉を待った。
「言ったじゃないですか、そのくらい調べるのは朝飯前だと。その人の面なら割れましたけど、倉木君、あなたどうやってそれを解決しようとしてるんですか?」
「そ、それを今考えてるんだよ」
「おそっ! 大方、自分が護衛してれば向こうが諦めてくれるとか、倒しさせすれば大丈夫と高をくくっていたのでしょ。お人好しのあなたらしい甘い考えです」
「……」
「こんな相手に情けなど無用かと。いい案が浮かんでいないなら、私に後処理まで任せてください」
「何かいい手があるのかよ……?」
「一番いいのは、そこの彼女に金輪際近づけないようにすること、そして当然ですが学校もやめてもらいます」
涼しく放つその言葉に、皆暫し言葉を失う。
「そりゃあそう出来ればいうことはないけど、出来るのかよ……?」
「そのくらい朝飯前です。私なら立場をフルに活用して存分に圧力をかけられますし。悪いことをしたのなら、報いは受けないとですしね。その為に必要なことも調査はすでに済ませてあります」
「こええ……」
「では、任せてくれるということでいいですね?」
「うん……あっ、だけど、ちゃんと最後まで見届けたい」
「まったくあなたらしいですね。では準備を整えますので、待っていてください」
「おう。なあ、巻き込んだのは俺だけどさ、なんでそこまでしてくれるんだよ?」
「それは……正式な試合じゃないとはいえ、あなたをそんなにした相手なのでしょ? 私も実際に見てみたいですしね」
「腕は確かだぞ」
「あら、心配は無用です。私は戦うことになっても絶対に負けないですから」
「おまえ……」
不安のない自信に満ち満ちた言葉に聞いているこっちの方があっけにとられる。
「大船に乗った気でいてください」
「おう」
「それでは、ごきげんよう皆さん」
葵がどうやって捕まえるのかはわからないが、大丈夫というなら多分もう大丈夫なのだろう。自信しかない彼女の言葉に通話を終え、ほっと息を吐く柚木だった。
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