魔王が識りたかったもの

香月 樹

序章

#1 『はじまり』

「魔王様はいつの頃からか、人間に興味を持つようになりました。

人間を殺す事に躊躇ためらいを覚えはじめ、禁令まで出したのです。」


周りを剥き出しの岩肌で囲まれた拓けた岩場で、白髪の老人は語り始めた。


黒い燕尾服を身に纏い、右手を腰の後ろに据え、左手は腹の前に据えている。

そして白い手袋をした左手には、右手の手袋を携えている。


その身なりや立ち振る舞いからは品の良さが窺え、高貴な家の執事だと思われる。

ピンと伸ばした背筋は、老人とは思えない屈強なイメージさえ与える。


目にはにび色の丸渕眼鏡をかけ、

その奥からはこの世の全てを憎むかのような鋭い眼光を覗かせる。


時折光が当たると銀色に輝くフレームのせいか、眼光はより鋭く感じられる。


魔族の目は赤く、それまでに倒して来た敵の流した血がその目を赤くしていると言われており、

そのため、倒した敵が多いほど目の赤色は濃くなり闇色に近くなる。


闇色に近い目を持つ魔族ほど、魔力が大きいという事が目を見ればわかるのだ。

この老人の目も黒に近いほど濃い赤をしている事から、相当強大な魔力を持つ魔族だとわかる。


「私などからしますと、僅か百年程度の寿命にも関わらず、わらわらと数だけは多い。

目の前を飛ぶと煩わしいだけの虫のような些末さまつな生き物にしか思えませんが。」


鋭い眼光からは冷ややかささえ感じられた。


「そう思いませんか?」


老人は、視線の先にいた人族の子供にそう問いかけた。

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