決戦!ドリーナ峠

 街道を抜けるのに苦戦中のリュドミュラ。弓矢隊を指揮するガーラ少佐を呼び、言いつける。


「こっちはゆっくり行くからさ、お前たちが先に行きな」


「先に行ってどうしろと」


「頭悪いね!向こうはドリーナ峠に前線をおき待ち構えているはずさ。一人でもその兵をやっつけてくるんだよ!」


「し、しかし我が弓矢隊は先の塹壕戦であと千人ほどしか残っておらず、向こうはまだ二万の軍勢がいると予想されます。これはもう、無謀を通り越して狂気の沙汰かと……」


 激怒するリュドミュラ。


「私が狂ってるとでも言うのかい!」


「いえ、決してそのような」


「大将の言うことは絶対だよ。先に行きな」


「は!」


 納得しないまま戻るガーラ少佐。自分の弓矢隊の軍曹たちを呼びつける。


「あの塹壕戦でも大量の犠牲者を出した。作戦が無茶苦茶だ」


「どうするおつもりで」


「リュドミュラを殺る」


「そ、それは少し飛躍しすぎかと」


「いや、我らが生き延びるのはこの手しかない。あの女が安心しきっているところを後ろから一斉に射殺すのだ!でないと二万の敵の中に飛び込むことになる。全滅は必至よ。リュドミュラを殺し、その後、敵に白旗をあげ亡命する」


「分かりました。部下に伝えておきます」


 一同は解散した。


 十分後、弓矢隊が進軍してきた。


 ヒュン、ヒュン……


 リュドミュラの背後に数十発の矢が迫る!


 しかし……


 フォン、フォン……


 矢はリュドミュラには当たらず、あらぬ方向へ飛んでいく。


「私を殺そうとしたねー!ガーラ!」


 リュドミュラが振り向き、弓矢隊の中に割って入りガーラ少佐を見つける。


「フレア!」


「ひー!」


 黒焦げになりガーラは絶命した。


 それを見ていた弓矢隊の大部分の兵士が散り散りになり逃げ出した。


「ふん。あてにならない連中だね!」


 リュドミュラはまた前を向いた。




 サキヤがバームと合流した。サキヤは敬礼をするとバームに聞く。


「戦況はどうなっておりますか?ドリアーナ中尉」


「まだ持久戦だな。クロード少尉。いやサキヤ、二日間寝てないんだよ。俺は寝る。ここの指揮はお前が執ってくれ」


 バームがウインクをしてその場を離れる。


「は!」


 前線の指揮を執るのは初めてのサキヤ。緊張で足が震えてくる。


 しかし現場の指揮をするのが少尉の仕事。岩に座り込み、時を待つ。




「それ!」


 岩が一つ消える。先頭の大砲台がゴロゴロと前に進む。これの繰り返し。


 日が暮れる。リュドミュラが駐屯地に戻ってきた。


 テーブルの前に座り、出された夕食を食べる。


(大将なんか引き受けなけりゃよかった……)


 後悔してももう遅い。


 その日は早く寝た。


 次の日斥候を出し、この先の街道の様子を調べさせる。


「あと一キロメートルで平坦な道になっております!」


「よし。もう一息だね。気張っていくよ!」


 リュドミュラは不屈の闘志で悪路にあえいでいる大砲隊を励ます。


「もうちょっとだよ!」


「負けるんじゃないよ!」


 丸一日かけてあと百メートルでドリーナ峠のところまできて日が暮れた。


(明日が決戦だね)




 サキヤは昨日三時間しか寝ていない。そこへ救いの神が。


「サキヤ、昨日は寝てないだろう。指揮を替わろう」


 ジャンが駆けつけてくれたのである。


 サキヤはキャンプに行きベッドに倒れこんだ。


 ジャンが他の少尉や中尉と協議をする。そして命令を出す。


「敵はたかだか一万、こちらは二万だ。押し込むぞ!」


「おー!」


 総勢二万の軍勢がドリーナ峠を越えて敵陣営に突進する。不意をつかれたドーネリア側はパニックになり総崩れとなる。しかし!


 ドーン!ドーン!


 リュドミュラの命令で敵味方の区別なく、大砲を撃ち始めた。


 吹き飛ぶ両軍の兵士たち。


「退けー、退けー!」


 退却するオーキメント軍の兵士たち。ドリーナ峠でまた進軍を待つことに。


「くそ!見境ないな」


 ジャンが吐き捨てるように言う。


 眼前の大きな岩がフッと消えた。あらわになるドーネリアの大砲隊。オーキメント側が一斉に砲撃を開始する。


 ドカーン!


 先頭の砲台に命中し、大砲がぐにゃりと曲がる。


 リュドミュラが二台目を前に出す。


「崖上の砲台を狙うんだよ!」


 ドスーン!


 このようなやりとりが夕暮れまで続き、ついにオーキメント側の砲台は全て破壊されてしまった。


「やったぁ!」


 無邪気にはしゃぐリュドミュラ。


 進撃してくるドーネリア軍。オーキメント側は弓矢で砲手を狙うも、日がくれてなかなか当たらず、ついにドリーナ峠を越えさせてしまった。


「サキヤ、起きろ!退却だ」


 バスーン!


 キャンプに一発撃ち込まれサキヤは飛び起きた。バームに戦況を聞く。


「やられたんだよ。ドリーナ峠を突破された。もう逃げるしかない」


「そ、そんな……」


「急ぐぞ!」


 敵の砲撃の中、サキヤとバームはほうほうの体で前線を後にした。




 リーガルは廃墟と化したガレリアの街を見ている。


「災いとは跳ね返ってくるもんだな」


「どうなされました。リーガル様らしくもない」


 とニムズ。


「なに、たわごとよ」


「街はどうするおつもりで」


「バルサ!」


 すると横の建物が時間を巻き戻すように元に戻る。


「時を戻す魔法よ」


「これを一軒づつやっていくおつもりで?」


「ばかを言うな。一年かかるわ。復興は民が勝手にやるだろう。俺が考えているのはな、誰がやったかということよ。この砲撃は明らかに魔導弾だ。となると、砲手は間違いなくメールド流の魔導師。考えられるのは、キリウムの弟子の報復の可能性が高いだろう。それを探る方法は……」


「分かるのですか」


「あの城の裏の小山、少なくとも一発以上はあそこから撃たれている。いくぞ」


「は!」




「なるほど、街がよく見えるわ。城はここからやられている」


「なるほど」


「バルサ、ウィディーレ!」


 しばらくすると浮かび上がってきたボレロの姿。


「顔は覚えたぞ。ふん、風采の上がらないただの中年男ではないか」


「ふふふ、確かに」


 リーガルはギロリとボレロの幻影を見ながら思いを巡らせている。


「さて、どうするか……」




 難民や軍人が、ボートランド州の州都クレイルに続々と入り込む。リュドミュラはそこまで追わずに、途中にあるボートランド城を砲台で囲む。


 あわてて出てきたのは城主ネイル長官である。


「これはこれは、ようこそ。して、何のご用で」


「見たらわかるだろ。城を開けな」


「はいー!」


 ネイルとその部下は、クレイルに向かって一目散に逃げ出した。


 リュドミュラと将校たちがボートランド城に入城する。城主の椅子に座り、「ふう」と一息つくリュドミュラ。こうしてドーネリアによるオーキメントの制圧は成し遂げられた。



 大戦編、了




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