第6話 公爵は病んでいる
今日は、殿下に呼ばれており、リュディガー様は城へと仕事に行く。
やっと一人になれると安堵した。このまま逃げるという手もある。ドレスなどは大荷物になるから、宝石を売ればいい。そうすれば、路銀には困らないはずだ。
料理も着替えもできるから、お金さえあれば一人でも生きていける。
頑張るぞー! と心の中で決意して叫ぶ。
その嬉しそうな表情をリュディガー様は決して見逃さなかった。
「随分嬉しそうだね?」
「きっと、今日は動悸のないお昼寝ができそうだからですわ」
昼のまどろむようなゆったりとした時間でさえ、リュディガー様が抱き寄せてくるから、私はこの数日間で寿命が足りないかもと思い始めていたのだ。
断罪イベントは、リュディガー様が勝手に終わらせていたけど、そのリュディガー様のせいで、私の心臓は破裂寸前なのですよと言いたい。
「クリスティーナ」
嬉しそうな表情に怒ったのか、リュディガー様が耳元で囁いてくる。
「耳元で話しかけてこないでください」
「俺の声は嫌いなのか? そうは見えないけど?」
そうです。リュディガー様は、声もいいのです。低く男らしい柔らかな声で囁かれると、どんな令嬢もコロリと落ちそうだと思える。流されないようにと、ムッとした顔で彼を見上げる。
「何ですか? 改まって……」
「実は、今日は仕事に行くのだが……」
「知ってますよ。どうぞごゆっくり頑張ってくださいね。応援しています」
何なら、10年ぐらい仕事から帰ってこなくてもかまいません。むしろバンザイ。
「その仕事をゆっくりとするために、昼食がいるんだ。届けてくれるね?」
「昼食を……?」
「そうだが?」
「それは、使用人にお頼みくださいね」
私は、脱走計画を練らなくてはいけないのですよ。
「その使用人はクリスのために、全員に暇を与えてしまったからな……」
困ったように悩まし気に言うけど、暇を出したのはリュディガー様ですよね!?
私のせいではないですよ!
くっ……この男は!
「でも、御者もいませんし……私は、か弱いので城まで歩けませんわ」
「では、昼前には馬車を手配しておこう。それでは頼む。馬車が来れば必ず、すぐに来るように」
ダメだ。なにをいってもリュディガー様が先回りするし、何でも対応してしまう。困る様子もうっとうしく思われる様子すら、微塵も感じられない。
「あぁそれと……他の男のところに行けば、どんな手を使ってでも取り戻しに行くから」
私の断罪とは別の断罪イベントが起こりそう。それは、ヒロイン関係ない断罪イベントですよね。そんなものを彷彿させないで欲しい。小説にないイベントフラグを立てないでください。
私は穏やかに暮らしたいのだ。そして、ヒロインよ。早く牢屋から出て来て下さい。
牢屋にいる場合ではありませんよ。
魅了の魔法が解けてから、一度もお会いしていませんよ。逮捕されたから、会えないのはわかるけど。
ヒロインパワーで、この病んでいる公爵様を落として欲しかった。
「クリスティーナ」
「はい」
「好きだよ」
こういうところがずるい。何の迷いもなく伝えて来るのだ。照れることのないリュディガー様と違って私だけが動悸がしているのが少し悔しい。
「返事は?」
「……結婚式にお伝えします」
「それは、楽しみだ」
背の高いリュディガー様が腰をかがめて、私の頬に唇を落とす。それに照れながらも動けずにいた。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
下記にネタバレを少しどうぞ。
(ネタバレ)
意地悪悪役令嬢だったので、断罪を避ける為にヒロインに近づかず、婚約破棄をそれまでにしてやる!と必死になっていたのに、クリスに意地悪されず不憫なヒロインになれなくて、悪役令嬢に意地悪をされたと悲劇のヒロインぶりをしようとして、しまいには公爵の逆鱗に触れた、という設定でした。
公爵は、ヒロインが二度と舞い戻って来ないように証拠集めの為に近づき、その間クリスが離れないようにどうしようかと、考えている時にクリスの逃亡計画書を発見して、完璧な魅了の魔法をかけた。という話です。
悪役令嬢に魅了の魔法をかけないでください! 断罪イベントを知らずに終わらせた公爵様は、悪役令嬢をとらえて離さない! 屋月 トム伽 @yazukitomuka
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