火星人の紙ひこうき

にさおかずてる

火星人の紙ひこうき

 ぼくたちの小学校には、いつも穏やかな風が吹いていました。高台のうえにあって、窓からの見晴らしがとてもいいのです。野原や林や川の流れ、そのさきには町も見えます。虫とりもできるし、町まで出かければ、買い物もできます。

 放課後のチャイムが鳴ると、ぼくたち四年三組の男子は、みんなで紙ひこうきを作ります。翼のかたちを工夫して、三角形や四角形、ハサミで切り込みを入れたりします。さらに、好きな模様を描いたり、色を塗ったり、マンガのイラストを描いたりします。

 ぼくは紙ひこうきの翼に、いつも火星人の絵を描いています。これは父さんに描き方を教えてもらいました。くねくねしたタコみたいな感じのやつですが、よくノートのすみにも、らくがきしています。

 「──昔はね、火星人がこんなふうだと、みんな思っていたんだよ」あのとき、父さんは、火星人の黄色い足を一本一本ていねいに描いていました。

 「父さんもそう思ってた?」

 「もちろんさ、火星人に捕まったら、手術台にしばりつけられて、あたまを真っ二つにされると思い込んでいた」

 「こわいね」

 「あいつら、人間の脳みそに興味があるんだよ」

 半年ほど前、父さんは仕事で海外に行ってしまいました。だから、ぼくはいま、母さんとふたりで暮らしています。父さんとはときどき電話で話すだけです。今はなんだかとても忙しいみたいです。

 さて、みんなの紙ひこうきができあがりました。昇降口で靴にはきかえていると、校庭のほうから、きゃっきゃっと遊んでいる声が聞こえてきました。ブランコやすべり台、ボールを蹴ったりしているのでしょう。

 とてもいい天気です。青空に白い雲が浮かび、山並みがはるか遠くにかすんで見えます。こういう日には、紙ひこうきは一段と遠くへ飛ぶものなので、ぼくたちの気分も高まりました。

 校舎から出て、階段の一番高いところまで来ました。

 「優勝賞品は、給食のデザートだ。勝った者が、全員のプリンを食べられる。勝負は一度きりだぞ。さあ、みんな、準備はいいか──?」クラス委員の田中くんがいいました。

 城くんは、金色の紙ひこうきを構えていました。金の折り紙はキラキラして、とにかく目立ちます。

 森田くんは、両手に一機ずつ持っています。右手には青い翼、左手には緑の翼の、双子の紙ひこうきだそうです。

 最後まで落ちずに、空中を飛んでいられたら勝ちです。ぼくはできるだけ肩の力を抜いて、火星人の紙ひこうきを準備しました。

 「さん、にぃ、いち──」みんなでかけ声をかけました。「それっ!」

 紙ひこうきがいっせいに飛び立ちます。風のなかで、上昇し、下降し、あるいは旋回しています。でも空中にいられるのは、ほんのわずかな時間だけです。一機さらにまた一機と落ちはじめました。双子の紙ひこうきがそろって落下し、金色の紙ひこうきは地面でキラキラと輝いています。

 最後の一機だけが、まだ空中を飛んでいました。ちょっとおかしな風が吹いていました。右に回ったかと思えば、今度は左に回りはじめ、いよいよ落ちるかと思えば、もういちど上昇していきます。

 いったい誰が飛ばしたものでしょうか?──なんと驚いたことに、ぼくの紙ひこうきでした。あしたは給食のプリンを一人占めできます!

 しばらくよろこびに浸っていましたが、紙ひこうきはまだ落ちてきません。どうも様子がおかしくて、ふらふらしたかと思ったら、まるで電気が走ったみたいに急にしゃんとしたりして、もういちど浮かんでいくのです。それでもクラスメイトたちは感心したように、ぼくの紙ひこうきを見上げていました。

 「君の勝利だよ」食いしん坊の大山くんが悲しそうにいいました。

 「どうやって折ったんだい?」

 クラスメイトたちに熱心にたずねられて、ぼくは困ってしまいました。だって、いつもどおりに作っただけで、特別なことはなんにもしていません。

 「まるでパイロットが乗っていて、ほんとうに操縦しているみたいだね」

 たしかにそんなふうにも見えました。急上昇してから一回転したり、八の字を描いたりして、まるで自由自在でした。それでいて、ぼくたちに誘いかけるようにも飛んでいました。こちらに近づいてきては、また離れていくというのを、何回もくりかえしています。

 「──あっ、校門のほうへ向かっていくみたいだぞ」

 校庭から紙ひこうきが出ていこうとしていました。ぼくらは顔を見合わせると、うなずきあいました。

 「──紙ひこうきを追いかけよう!」

 ぼくたちは勢いよく駆けだしました。みんな自分の紙ひこうきを急いで拾っています。ぼくの紙ひこうきは、ちょうど校門から出ていくところでした。全速力で校門を飛び出します。

 青空のもと、紙ひこうきが気持ち良さそうにどんどん飛んでいきます。みんなで空を見上げながら、なだらかな坂をかけおりました。紙ひこうきを追いかけたまま、野原のなかへと入っていきます。

 「あっ、とのさまバッタだ!」原くんが捕まえにいこうとしたので、みんなが止めました。「そんなことしているひまはないぞ!」

 「そこ!オニヤンマだ!」またしても原くんが捕まえにいこうとして、あわててみんなが言いました。「虫とりあみがないだろ!」

 「あれ見て!」原くんが指さしました。

 「今度はなんだ?」

 「でっかいスズメバチがいる!」

 「逃げろー!」

 土手に着くと、川のうえを紙ひこうきがすいーっと越えていきました。水は浅くて、流れもゆっくりでしたが、川幅は一メートルくらいありました。

 「それいけー!」ひとりまたひとりと助走をつけて、ぴょーんと川を飛びこえて向こう岸へ着地していきます。

 最後は、大山くんの番です。運動が苦手で、逆上がりも成功したことがありません。ドタドタと走っていき、思いきってジャンプしましたが、バシャっと水しぶきを上げて、川のなかに着地しました。

 「ははは!早く来いよー!」

 とてもいい天気でした。空から日ざしがさんさんと降りそそぎ、紙ひこうきはすいすい飛んでいきます。

 町のほうへ近づいていくと、まばらだった家がしだいに増えてきました。となりのクラスの吉田くんと加藤くんがチャンバラごっこしていました。

 「おーい、三組の男子たち、何してるんだ?」

 「教えてやるから、いっしょに来いよ!」

 ふたりは木の棒を投げ捨てて、ぼくらのあとについてきました。

 公園のベンチで、城くんの妹さんがあやとりをしていました。

 「お兄ちゃん、どこ行くの?」

 「風の吹くところへさ。今日はちょっとおそくなるからって、母さんに伝えておいてくれよ」

 紙ひこうきが、よその家の塀のうえを越えていきました。

 「ちょっとだけ入らせてもらおう」

 「叱られるかもしれないよ?」

 「そうなったら謝ればいいさ」

 ぼくたちは塀にのぼって、家の敷地に入っていきました。紙ひこうきは庭木のうえをゆっくり飛んでいくところでした。あわてて追いかけようとして、島田くんが植木鉢をガシャンと倒してしまいました。犬小屋で柴犬がこちらに向かってわんわん吠えました。

 「こらー!」盆栽のまえでハサミをにぎっていたおじいさんがどなりました。

 「──どうしてくれるんだ!?切りすぎてしまったじゃないか!」

 「やばいぞ、逃げろ!」

 塀を越えると、またとなりの敷地へというように、家の庭を通り抜けていきました。物干し竿にかけられたシーツの下をぼくたちがくぐり抜けると、エプロン姿のおねえさんが「あらまあ」とあっけに取られました。

 垣根を跳びこえたさきに、鶏小屋がありました。放し飼いのニワトリたちがばさばさと跳びはねました。「うわっ!?こいつら、口ばしで突いてくるぞ」「痛ててっ!」

 電線にスズメがチュンチュン並ぶ住宅地です。せまい道には、蒸し暑い空気がこもっていました。まったく風は吹いていないようでしたが、紙ひこうきは飛びつづけています。

 「うわーん」と泣く声がしました。お母さんが、五つくらいの男の子をなだめています。「ね?また買ってあげるから──」どうやら、くるまのおもちゃのタイヤが外れてしまったようです。

 「ぼうや、これ、キラキラしてきれいだろう?」城くんが金色の紙ひこうきを見せました。

 「わあ」男の子は泣きやみました。

 「あげるよ」城くんはくるまのおもちゃのうえに、そっと金の紙ひこうきをのせました。

 「ありがとう、お兄ちゃん」男の子が手を振りました。

 それからも火星人の紙ひこうきは飛びつづけて、みんなでぜぇぜぇと走っていきました。

 「冷たいサイダー飲みたいなぁ」

 「それよりプールで泳ぎたい」そんなことを言いながらも、休むひまはありません。

 「みんながんばれ!」校内マラソン大会で学年三位の早川くんが、みんなを活気づけようとしました。「紙ひこうきに置いていかれるぞ!」

 駄菓子屋のまえです。汗をふきながら、大山くんがアイスの冷凍庫にふらふらと寄っていっていきました。

 「いらっしゃい」駄菓子屋のおばちゃんが言いました。

 「おばちゃん、このスイカのアイスちょうだい」百円玉をわたして、大山くんはアイスをもらいました。

 「お、おれもアイス買おうっと」宮本くんがふらふらと行ってしまうと、「ぼくも」と鈴木くんもついていきました。

 「なにしてるんだ?置いてくぞ!」クラス委員の田中くんが大声を出しました。

 「そうしてくれよ」大山くんは、アイスをおいしそうにかじっています。

 「おれたちもここに残る」宮本くんと鈴木くんは、アイスの冷凍庫をのぞきこんでいました。「あとのことはまかせた」

 「……まったくこれだからなあ」クラス委員の田中くんは、やれやれと首をふりました。

 どこかの家の窓からピアノの音が聴こえてきました。演奏はまちがえるといったん止まり、やり直してもまたつっかえるので、なかなか曲が進みません。

 「このメロディ、どこかで聴いたことあるなあ……」

 すると、細谷くんが、曲のつづきをフンフーンと口ずさみはじめました。

 「おい、細谷、この曲知ってるのか?」森田くんがたずねました。

 「ぼくはピアノを習っているんだ。これはバッハのメヌエットさ」

 「今度、この曲を弾いてくれよ」

 「──あっ、紙ひこうきが行ってしまうよ!」細谷くんがあわてて空中を指さしました。

 そのあとも紙ひこうきに路地をあちこち走らされて、ぼくたちはへとへとになってしまいました。

 「く、苦しい……」マラソンの早川くんも、さすがに息を切らしています。

 「運動会の練習かい?」買いもの袋をかかえたおじさんが、声をかけました。

 「……だいたいそんな感じです」

 町も、家々も、電柱も、だんだん夕日に染まってきて、ぼくたちの影も伸びてきました。そろそろ家に帰らなくてはいけません。でもここまで来たのだから、最後まで追いかけなくてはと、みんな思っていました。

 踏切のうえを、紙ひこうきが飛んでいったとき、警報器が鳴って、ぼくたちのまえで遮断機が下りました。もちろん電車が通過するまで先へは進めません。そろって足踏みしていると、「──そこでジュースが買えるよ!」という佐々木くんの声が聞こえました。

 数台並んでいた自販機へ駆けていき、みんなで飲みものを買って、急いで水分を補給しました。なにしろ、とてものどがかわいていたのです。

 ようやくガタンガタンと電車が通り抜けていき、遮断機が上がりました。踏切の向こう側で、紙ひこうきはくるくると旋回していました。ぼくらが線路を渡ると、紙ひこうきはすぐにまた前方へ飛びはじめました。

 そのまま駅の近くまで来てしまいました。人通りも多くなってきて、楽しそうな高校生たちのグループや、ネクタイをゆるめようとするサラリーマン、おしゃれな服のプードルを抱いたお姉さんなど、さまざまな人がいました。

 商店街のアーケードのなかへと入っていきました。夕飯の買いもの客でにぎわっているうえのほうを、紙ひこうきがゆうゆうと飛んでいきます。

 ホットドッグ屋の前に列ができていて、熱々のソーセージにかぶりついている人たちがいました。とてもいい匂いがただよってきて、口のなかによだれが出てきました。給食のあとからなにも食べていませんが、いまは耐えるしかありません!

 婦人用バッグのワゴンセールに人だかりができていました。目立つ文字で『半額セール!』と貼られてあり、押し合いへし合いの争奪戦がくり広げられていました。早い者勝ちのようで、お客さんがまるで鬼みたいな顔つきで、バッグの持ち手を引っぱりあっています。ぼくたちは巻き込まれないように、ワゴン台をぐるりと回りこみました。

 ゲームセンターの入り口で、リュックのお兄さんがクレーンゲームをしています。鉄のアームがゆらゆらとおりていき、アザラシのぬいぐるみをうまく引っかけました。そのまま持ちあげられそうでしたが、最後につるんと滑ってしまい、アザラシはころんと落ちてしまいました。

 「あーざんねん!」

 商店街のアーケードを抜けたところで、紙ひこうきの姿が見えなくなってしまいました。「どこだどこだ?」きょろきょろとあちこちを見回すと、森田くんがさけびました。「──あそこだ!」紙ひこうきはわき道の方へ入っていき、ぼくたちもそのあとに続きました。

 どことなく陰気な裏通りでした。古そうなビルが立ちならび、新聞や吸い殻が投げ捨てられています。黒い猫が丸くなっていましたが、ぼくたちが近づくと、ビルのすきまへ逃げこんでしまいました。

 あやしげな店らしきものもあります。秘密めいた入り口から、葉巻きとサングラスのかっぷくのいい男性が、若い女性と腕を組みながら出てきて、どこかへ去っていきました。

 そのとき紙ひこうきが、いきなり弧を描いて、まるで吸い込まれるようにして、開いた窓のなかへと入っていきました。そこは四階建てのビルで、黒いベンツが駐車してあり、ぼくたちの困惑した顔が、その車体に映っていました。雑居ビルには案内看板が出ていました。一階はアンティークショップ、二階は麻雀クラブ、三階は仏具店です。

 「あれ、四階だけ真っ白だぞ。」

 「それって、誰もいないってこと?」

 「それなら窓は閉められているはずだよ」

 「行ってみれば分かるさ」

 ビルの入り口に向かうと、暗い階段からだれかが降りてきました。ぼくたちが端に寄って待っていると、派手なアロハシャツの男が、タバコに火をつけながら出てきて、ぼくたちにちらっと目をくれると、地面にぺっと唾を吐いて去っていきました。

 つぎに階段を降りてきたのは、袈裟を着ているお坊さんです。大きな風呂敷き包みを抱えています。そのままベンツに乗り込むと、豪快なエンジン音とともにベンツで走り去りました。

 三人目は、きっちりと七三分けにした四角い眼鏡のサラリーマン風の男性でした。ぼくたちにはまったく関心がないかのように、がらがらと大きなスーツケースを押していきました。

 「ちょっと変な人ばかり出入りしてるようじゃない?」

 「そうでもないさ。案外いい人だったかもしれないよ」

 「ねえ、知らない場所には近づいちゃダメだと思うけど……」

 「ここまで来たんだ。とりあえず行ってみようよ」

 クラス委員の田中くんが先頭に立って、おそるおそる階段を上がっていきました。一段あがるたびに、みんなの靴音が響きます。ひんやりした空気に汗が冷えてきました。

 ──二階──三階──四階です。ドアをノックしても、返事がありません。押してみると、鍵はかかっていませんでした。

 ドアの向こうに、廊下が続いていて、奥にがらんとした空間がありました。そろそろと歩いていくと、ぼくの紙ひこうきが、窓のそばに落ちていました。

 「あった!」喜んで拾いにいこうとしましたが、ぼくは思わず立ち止まってしまいました。机と椅子があったのですが、そこに碁盤をあいだにして向き合う姿が見えたのです。

 「──か、火星人!!」タコのような頭に、大きな目がふたつ、丸い口があり、細長い足が何本も生えています。

 体の色は黄色っぽくて、クラゲのように透けている内臓が、どくんどくんと脈打っていました。

 とても驚いたのですが、火星人の向かいに座っている人を見て、ぼくはもっとびっくりしてしまいました。

 な、なんと、ぼくの父さんです。見慣れない感じなのは、顔色がわるく、目の下にクマがあり、ワイシャツがよれよれだからでしょうか。でも、たしかに父さんでした。

 「──父さん!」ぼくは思わず声を大きくしました。「なぜ火星人と囲碁なんかしているの!?」

 みんなも驚いたようでした。「えっ、ほんとに!?」「あの人、君のお父さんなのかい?」

 父さんは碁盤を見つめています。返事をしてくれないし、こちらを見ようともしません。ぼくが泣きそうになっていると、父さんは咳払いをしてから、碁石をひとつ動かしました。

 「ねえ、ぼくだよ、父さん!」

 火星人がくねくねと動きだしました。足の一本ごとに白い碁石を一つずつつかんで、いくつも持ち上げました。それから碁盤にぱちんと置きました。

 「あっ!?」今まさに火星人が一度にたくさん打つというルール違反をしたのに、父さんは黙ったままでした。ずっと碁盤を見たままで、次の一手を考えているようなのです。

 どうやら火星人はインチキな碁をするために、父さんを捕まえたようです。きっとルールを守らなくても、必ず勝てるゲームがしたいのでしょう。なんて卑怯なやつでしょうか!

 「父さん、ぼくといっしょにここから逃げよう──」

 「──おい、あいつ、何かする気だぞ!」

 窓のちかくで、火星人はかがみこむと、ぼくの紙ひこうきをそっと拾い上げました。そして翼に描かれた火星人の絵をじーっと見つめています。そのあと、ぼくたちのほうに顔を向けました。 

 「──うわっ、こっちに来るぞ!」

 あわてて逃げようとしましたが、宇宙人はキンキンした声を発しました。それを聞いてしまうと、ぼくたちはまったく動けなくなりました。まるで見えない柱にくくりつけられたように、全員逃げることができませんでした。

 「──か、からだが動かないぞ!」

 火星人がくねくねと足を動かしながら、ゆっくり近づいてきました。ぼくたちよりも、ずっと大きくて、なんだかおそろしい感じがしました。

 「に、人間の脳みそを調べたいんだよ、きっと……」

 「まさか、そんな」

 「嘘だと言ってくれよ」

 「ぼくたちは手術台のうえで頭を真っ二つにされてしまうんだ!」

 そのとき、火星人の足が、森田くんのおでこに触りました。すると、雷に打たれたみたいに、森田くんがビリっと一瞬震えて、そのまま倒れました。「も、森田くん!」

 そのあと田中くんも、城くんも、原くんも、島田くんも、次々に友だちが倒れていき、最後にぼくの番がやってきました。頭のなかでバチッと電気が走り、耳の奥でキーンという高音が鳴り、すぐに意識を失ってしまいました。


………………

…………

……


 「おい、起きろ」だれかが体を揺すぶっています。

 「う、うーん……」と気がつくと、夕焼けの校庭にいました。田中くんも、城くんも、みんな眠っていたようです。ぼくを起こしたのは、島田くんでした。紙ひこうきを飛ばした階段のところでした。

 「なぜこんなところで寝ていたんだろう?」

 ぼくの紙ひこうきが落ちていました。何か大事なことを忘れているような気がします。思い出そうとしましたが、頭がずきずきするので、すぐにやめてしまいました。

 「──さあ帰ろうか」

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