第4話 寂れた町

「タツですか……」

「そう、タツって呼んで欲しい。だから、そうだね。ターニャがお姉さんでバランがお兄さんってことでいいよね」

「私が……坊ちゃんのお姉さん……」

「俺が、お兄さんですか。折角ならターニャの「それで行きましょう! ね、バラン兄さん」……えぇ~」

「じゃ、ターニャが姉でバランがおと「坊ちゃん!」……なに?」

「どうして私が姉なんでしょうか!」

「えっ……どうしてって、そうじゃないの? ねえ、バラン」

「それ「いいえ、納得出来ません!」……えぇと、坊ちゃん。ここは……」

「分かったよ。じゃあ、バランが兄でターニャがその妹で、俺がその下ってことでお願いね」

「「はい! 坊ちゃん」」

「だから……」

「「あ!」」


 実年齢からターニャを長女、バランをその弟という設定にしたかったのだが、ターニャからの無言の圧でドランとバランは嘆息しつつ、バランを兄にすることで機嫌を直してもらった。もっともバランはバランでターニャとは兄妹よりも恋人関係が望ましかった様だが、それもターニャから無視される形で止められてしまった。


 だが、それまで坊ちゃんと呼んでいたドランをいきなりタツと呼べと言われても、いざ口に出そうとすると坊ちゃんと呼んでしまうことに対しドランから指摘されてしまう。


「ですが、こう言ってはなんですが、こんな付け焼き刃じゃ結局、バレてしまいます」

「その時はその時よ。ねえ、タツ」

「うん、そうだな」

「タツ! そうではありません!」

「え?」

「ですから、今から私のことはターニャお姉さま……いえ、お姉ちゃんで」

「あ~そっか。それもそうだね。分かったよ。お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……いいですね。もう一度!」

「……」


 ドランはお姉ちゃんと呼ばれ恍惚とした表情を浮かべるターニャに少し危機感を覚えるが、今はそれよりも町に出ることが先だと見なかったことにした。


「あ、バラン。その前にさ。これ、どうにかならないかな」

「これって……ああ、確かに如何にも貴族然とした格好じゃ兄弟を装った意味がありませんね。ですが……」

「うん、だからね。俺と背格好が似ている子の服を借りてきて欲しいんだ」

「分かりました。では、少々お待ち下さい」

「うん、頼むね」


 ドランは貴族風の格好ではなく市井の者らしき格好をとバランに調達をお願いしターニャを見れば、ターニャはまだどこか遠くに行っているようで「お姉ちゃん……ふふふ……私がお姉ちゃん……」と呟きながら、クルクルと回っている。


「坊ちゃん、持って来ました……って、ターニャは一体どうしたんですか?」

「あ~いいよ。戻らないなら俺達だけで行こう」

「はぁ」


 放っておけば、その内収まるかなと思っていたが、結局バランが戻って来るまで回り続けていたのだが、ドランの言葉に我を取り戻すといきなり叫ぶ。


「ダメです! お姉ちゃんが一緒でないとダメです!」

「あ、戻って来た!」

「ターニャ……」


 戻って来たターニャに着替えてくるようにドランが言うと「分かりました! 目一杯おしゃれして来ますね!」と慌てて部屋を出て行こうとするターニャをドランとバランの二人で止める。


「え?」

「「え? じゃない!」」


 ターニャは自分を止めるドランとバランの二人を不思議そうに見るが、二人は揃って嘆息してから、ターニャに言い含めるように話し始める。


「あのね、ターニャ。俺達が普通の格好をして、ターニャだけが着飾れば、俺達はターニャの下男みたいに見えるんだけど、それじゃ意味がないよね」

「そうだぞ、ターニャ。そりゃ俺だっておしゃれなターニャは見たいが、それはそれで別の機会に「分かりました。では、着替えて参ります」……おい」

「なんですか。バランも早く着替えを済ませなさい」

「……分かったよ」

「じゃ、俺も着替えを済ませておくから」

「坊ちゃん! 着替えは私の「いいから、時間が勿体ないから」……分かりました。では、これは貸しですよ」

「……貸し?」

「そうです。私の楽しみを取ったのですから、これは『貸し』です」

「え?」

「では……」


 ドランはターニャから自分一人で着替えるのはターニャの楽しみを奪う行為だと言われてしまい愕然とするが、今は突っ込んだら負けだと思い口には出さずに二人が部屋から出るのを見送る。


 しばらくしてから普通の格好をしたターニャとバラン、それに町にいる少年の様な格好をしたドランが並ぶ。


「うん、これでどこからどう見ても兄弟だね」

「ええ、ホントに」

「私は出来ればタ「バラン、行きますよ」……分かりました」


 ドランはターニャ達に案内され部屋から出ると、そのまま表玄関の方へ行こうとしたところでターニャから止められる。


「え? こっちじゃないの?」

「そちらは屋敷の者、またはお客様が通られる玄関です。私達の様な仕える者達は裏の出入り口を利用しますので」

「あ! そうか。それもそうだね」

「では。それと裏門から出た瞬間から『タツ』とお呼びしますね。屋敷の中ではまだ誰の耳目があるか分かりませんから」

「うん、そうだね。それで頼むよ」

「「はい」」


 屋敷の裏門から出たドラン達だが、ターニャがドランの右手を握って離してくれない。


「ねえ、ターニャ」

「お姉ちゃんですよ。タツ」

「あ! お姉ちゃん、手を離してもらってもいいかな」

「……」

「お姉ちゃん?」

「うふふ、いいものですね。出来ればこのままどこかへ行ってしまいたいくらいです」

「ターニャ?」

「お姉ちゃん?」


 裏門から出た時から、ドランの手を離さないターニャにドランは離して欲しいとお願いするが、ターニャはそれをやんわりと拒否するどころか、このままどこかへ行きたいと言い出す。


 また、トリップしてしまったターニャに呆れながら、ドランとバランはゆっくりと歩き出す。


「ねえ、まだそんなに日が暮れていないのに人通りが淋しくない?」

「ええ。言われてみればそうですね」

「二人とも。これが普通の光景ですよ」

「「え?」」


 ターニャが言うには、町の通りは随分前から寂しくなっていると話し、どこも普段からこんなものだと言う。


「何か原因でもあるのかな?」

「原因ですか?」

「そう。人が買い物出来ない程の原因だよ。物の値段が高いとか、治安が悪いとかさ」

「それならば「よう、姉ちゃん」……こういうことですよ」

「さっきから何言ってんだ。いいから、こっち来いよ。俺達といいことしようぜ。なあ」

「あ~そういうこと」

「ほら、そんな弟の面倒なんて、そっちのボ~ッとしたのに任せちまいなよ」

「え? もしかして俺のこと?」

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異世界で任侠道を通します! @momo_gabu

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