王族ハーレム ~死んだはずの俺は目が覚めたら王女の膝で眠ってました~

@rin111

死んだはずの俺は美少女の膝の上でした

自殺の名所。樹海なんて別名もあっただろうか。

誰しも知っているだろう。多くの人間が現実に絶望して身を投げていたり、この世から立ち去ることを選んだ人間が多く訪れた場所のことだ。


そんな風に言われている山奥、夏休みも始まるという時期に俺はたった一人でぽつりと立ち尽くしていた。

別に今日ここで死んでしまうおうなどと思っているわけじゃない。

しかし俺はこの場所に惹かれるように山の奥へと入ってきてしまったのだ。


俺は学校ではあまり良いイメージを抱かれていない。こんなことを言っているが別になにをされているわけでもいない。

ただ周囲の視線が俺を見るときだけキツい目を向けてくるのだ。どんな局面、如何なる時でもそんな目線を向けられていてはたまったものではない。


こんな風に語っているがクラスの奴らが俺に近寄らなくなっていたのはなにも俺に責任がないと言っているわけじゃない。

前に何度か手をあげて殴りかかろうとしてくる奴らもいたぐらいなんだ。

だが手をあげてくるといってもそいつらは素人、格闘技を一通りやっていた俺は軽く受け流しているつもりだった。慣れない格闘技なんてやるもんじゃないと思ったなあの時は本当に。


軽く受け流しているつもりが相手の腕を掴んでアスファルトの上にかなりの力で叩きつけた。

時間は下校時刻、もちろん多くの生徒が見ていて先生なんかも俺に向かって駆け付ける。

これ以上抵抗することもないだろうと思い、俺は大人しく先生方についていき停学処分を言い渡されてしまった。


これからどうしようか。

そんなことを思いながら自殺名所をスマホで見て歩いていたらこの山に惹かれて歩いてきてしまったというわけだ。

「そういえばこのサイトに載ってた99って一体なんだんだろうな」

99人目の来場者ということだろうか。それになんで100じゃないのにご丁寧に金色に輝いている。自殺の名所の紹介でこの文字色ってどういう神経してるんだ。


時間は午後六時でそろそろ日が暮れてくる時間だろう。こんな山で一夜を過ごしたくないし遭難もしたくない。そう思い俺はすぐに来た道を引き返すことにした。


「来るときも思ったがここの吊り橋めちゃくちゃ怖いな」

下には川が流れている場所。その上に掛かる吊り橋は普通に生きていたら経験しない恐怖を覚えていた。

まだ明るい時間だが、日が落ちてきてからこんなところは通りたくない。なので俺は泣く泣く歩みを進める。

しかし行動が迂闊だった。俺の人生がここで終わるなんて、きっと誰も想像できなかっただろう。

なぜなら、俺が一番想像していなかったのだから……


気づいたときにはもう遅い。俺は吊り橋から足を踏み外して大きくバランスを崩してしまった。

最後に家族にでも電話できたらいいな。

そう思い最後に携帯を開いたときには、さっきのサイトに【あなたは異世界で生きることを選択しました】と表示されていた。

(後に携帯を開いたときぐらい、彼女に連絡できる人間でありたかったよ俺は)

彼女いない歴=年齢の俺は、連絡する相手が家族しかいない悲しみに涙が出そうだ。

冷静に自分のことを分析して、俺の意識は死を受け入れるようにゆっくりと遠くなっていった。




「……っ。意識が戻ったんですか……?」

可愛らしい声が、俺の耳へと落ちてくる。

なんだ、俺は死んだはずじゃなかったのか。

目を開けて声の主を辿ろうとすると、人形と見間違うぐらいキレイな女の子が俺のことを心配そうに覗きこんでいた。

それに頭の下がなんだかすごく柔らかくて、暖かいような気がする。

「これって所謂膝枕なんじゃないか!?」

俺がぽつりとそんなしょうもうないことを呟くと、女の子は近くの貴族と呼ぶのが相応しい容姿の女性に声をかける。


「おいお前、勇者様が目を覚ましたのだから早く食事を用意しなさい!」

するとしばらくすると、奥から「ただいま用意します!お嬢様!」と少し怯えたように返事が聞こえた。


「勇者様、驚かせてしまい申し訳ありません」

さっきの声色とは違う優しい声で、再度俺の顔を覗き込んでくる。

「そのことは大丈夫です、そんなことよりここは一体どこですか?」

そんなふとした疑問を問いかけると、女の子は驚いたように大きな目をさらに大きくして驚いていた。

俺はいま変なことを言ってしまったのかもしれない。


「覚えていらっしゃらないのですか? あなたは魔王を討伐した直後、まるで全てを使い切ってしまったように意識を失ってしまったのです」

そういって女の子は窓の外を見つめていた。

魔王を倒した? 一体なんのことを言っているんだ。

絶えない疑問を抱えつつ、俺は彼女の視線を追うように外の世界を見る。

街のようにも見えるが、建物が崩れている場所も多く見かける。

一体俺はこの世界を救った勇者だと言うのだろうか。


「人違いじゃないんですか? 俺にはそんな記憶全くなくて・・・・・・」

「人違いなんてことはありえません。私はきちんと勇者様をお見送りして、帰ってきたら婚約するという約束までしてしまったのですから」

結婚だってよ。一体どうなってるんだ。

今度は建物の中を見回す。周囲は普段見慣れないような西洋を彷彿とさせる建物の中だった。

それにやっぱり俺はこの可愛い女の子に膝枕をされているらしい。


「ごめんなさい、あなたの名前も魔王を倒したという記憶も全くありません」

ここは素直に白状しておこう。下手に嘘をついてこれから大事になっても大変だからな。

善意で言ったつもりの発言に、女の子は瞳に涙をためて貴族に対する声よりも大声で叫びだした。


「だれかお医者様を用意しなさい、勇者様が大変なことになってしまっています!!」

語彙力を失ったその叫び声は、この建物中に響いたのか各所から老若男女問わず返事が返ってくる。

(えーと。俺ってもしかしてまずいことを言っちゃったのかな)

そんな考えに行きつくころには、信じられない数の医者がこの部屋に入ってきた。


ここでいったん状況を整理してみよう。

不本意な死に方をした俺は、気が付いたら知らない美少女の膝の上で目が覚めた。

そして周りには医者がいて、今から身体の隅から隅まで見られてしまうのだろう。


ほっと小さな溜息と共に、言葉が口から零れ落ちる。

「これ以上大変なことにならないといいな」

本当に、ただそれだけを祈るばかりなのであった。

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