寿司は嫌いだけど、寿司屋は好きなんだ

黒羽椿

寿司は嫌いだけど、寿司屋は好きなんだ

 「寿司は嫌いなんだけど、寿司屋は好きなんだよねー」


 僕がこういうと、友達は一様にキョトンとした顔をする。お前何言ってんだ? と言わんばかりの表情を毎回されるので、それが面白くてこの発言を寿司屋に行くたびに言っているのだが、どうやらそれは変らしい。


 ここで言う寿司屋とは、お皿が回っている方のことである。僕は生ものが嫌いで、刺身や寿司はしょうゆでベタベタにしないと食べられない。日本人の癖に、祖国の代表的な食べ物を食べられないだなんて、おかしな話だ。


 寿司が嫌いなのに、寿司屋は好き。一見矛盾しているように思えるが、そんなことは無い。最近の寿司屋、というか回転寿司は進化していて、定番のタマゴから唐揚げ、果てはカルビ寿司なんてものも存在している。その中でも特に僕が好きなのは、うどんやラーメンだ。


 サービスエリアのフードコートみたいなクオリティの、あのチープさがたまらない。これは共感できる人も多いのではないだろうか? それに加えて、僕は寿司屋という寿司をメインにした場所で啜るうどんやラーメンに、途方もない付加価値を感じるのだ。これを言うと、また困惑したような表情をされるので、大いに気に入っている。


 僕は、人と違うことをするのが好きだ。所謂中二病、という奴かもしれない。いや、多分そうだ。そして中学生を越えてもなお、類似した症状を今現在も抱えている辺り、不治の病と化してしまった。


 だって、仕方無いだろう。自分の血液型がAB型なのを知ったら、誰だって自分を特別視してしまうはずだ。小さい頃は、天然だとか頭お花畑だとか揶揄されていたし、よく変わってるねと言われることも多かったのだから。


 それが、皮肉を込めたものだったのかは分からない。けれども、僕の人格形成を手伝ったのは確かである。だから、生ものが食べられないくせに、寿司屋が好きだなんて宣うようになってしまった。ただ、別に虚言を吐いている訳では無いということを大前提にしてほしい。そういう行為を好むのは事実なのだが、決して狙っている訳では無いのだ。狙っている時もあるにはあるが。


 寿司以外のことで言うと、僕はオカルト的な事が好きだ。ホラー映画はかなり見ているし、好きな本を挙げると、大体ホラーかサスペンスが思い浮かぶ。これもまた、少なくとも僕の周りの人たちにとっては奇異に映るらしい。


 幽霊を見てみたいと思うし、少し路線は逸れるが都市伝説なども大好物である。肝試しをしたこともあるが、ビビってはいたものの、それより楽しくて仕方が無かった。一人で目的の場所まで行ってくるという内容で、全然怖がらない、むしろニヤニヤしながら帰ってきた僕を見て、キモっ、と言われた後ついでに頭おかしいと告げられたのを、今でも覚えている。


 その言葉に若干傷ついたものの、楽しかったので良しとした。場所は少し小高い所にある神社だったのだが、一人でいると風の音すら怖く聞こえて、めちゃんこに興奮した。帰ってくる途中も、人が隠れるような音がして、誰もいないのにそんな音がしたのが凄く怖くて、ワクワクした。


 しかし、そんなものでは物足りない。何時かは、入っても問題ない心霊スポットに行って、幽霊が現れてくれるのなら御の字だし、存分に呪ってみて欲しい。これを話すと、また不思議がられる。そこに喜びを覚えるのだから、もはや末期だ。救いようがない。


 やりたいことが多くて、生きているうちに全て叶えることが出来るか分からない。先に挙げた心霊スポットもそうだが、他にもバンジージャンプもしてみたい。後は、百万円の札束で人をビンタしてみたい。それと、完全没入型のVRも体験してみたい。


 人生を語れるほど長く生きていないけれど、これだけは言える。新しいことをしなくなった時に、僕は普通に成り下がると。なんでそんなことするの? ということをして、失敗することが分かっていてもそれを続ける。こうしていないと、退屈で退屈で死んでしまう。


 多分、僕は多動症だ。ジッとしていられないし、したいと思ったことをよく考えずに実行し始める。それを行動力があると言い換えるか、ただの馬鹿と言うかは表現しだいだ。この性格のせいで痛い目に何度も合ったし、予測をしろと家族にも何度も言われた。


 それでも、愚かでも考え無しでも、これが僕の性質である。どうせ、物事が予測通りに進むことなんて無い。ならば、予想なんてしない方が良い。そう思うのは、僕だけだろうか?


 だって、下手にその通りになってしまったら、次も予測したくなる。失敗したら、何か至らないところがあったんじゃないかって、思い始める。そんなの、窮屈で面倒だ。意外と、見切り発車の方が上手くいくこともある。


 断っておきたいのは、その考えを他人に強要するつもりは無い。絶対、適切なプランや考えを持って物事に望んだ方が良いし、みんながみんな考え無しになったら、この世界は終わってしまう。


 単純に、僕個人の在り方としてそういう道を選んだというだけだ。今のところ、この考え方を肯定する人は一人もいなかった。僕としてはこの考え、凄く好きでこれからもそうありたいと思うのだが……


 まぁ、それは仕方のないことだ。人と違うことをすることに喜びを感じるのだから、そこに同調されては駄目なのだ。10人中、6人以上は否定するようなことを選び続けたい。


 皆がチョコ味を選ぶなら、僕バニラ味を選ぶ。バニラを選ぶなら、チョコを選びたい。いや、それは分からないかも。だって、僕はバニラ味が好きだから。そこは、自分の好きを選んでしまうかもしれない。


 皆が挙手をするなら、僕は手をあげない。逆なら、あえて手をあげていきたい。とは言っても、誰も手をあげない中一人だけ、手をあげるのは結構勇気がいる。でも、挑戦するのは辞めないで生きたい。


 最後にもう一つ、陰湿でそんなことを嬉々として語るのがおかしいと非難された出来事がある。それは、高校でのことだ。僕はこの話が大好きでよく話すのだが、性格も意地も悪いと言われてしまう始末だ。


 それは、高校の駐輪場で起こった事件である。事件と言っても、僕が一人で憤っていただけなので、本当に大したことじゃない。ただ、駐輪場のスペースをはみ出て自転車を停める奴がいて、その行為にただならぬ不快感を感じていただけだ。


 別に、停めるスペースがない訳では無い。ほんの少し遠い場所ならば、自転車を置く場所が確保できるのだ。そんな数メートルを渋って、しかも嫌がらせのように僕が通る道に停めてある。僕を困らせるためにそういう行為をしているのではないと、分かってはいる。しかし、ムカつくことに変わりは無かった。


 それだけに留まらず、その迷惑駐車自転車の持ち主は僕の嫌いな人物だった。明確に何が嫌いと表現出来ない。ひたすら、本能的に嫌いだったのだが、それを知ってさらに嫌いになった。


 初めて話をした時から苦手意識があったので、あぁやっぱり、僕の勘は間違っていなかったと思った。思っているだけで、それをわざわざ告げることも無かったし、この話は僕が不快になるだけで終わるはずだったのだ。しかし、僕のムカつきは増すことになる。その迷惑駐車害悪野郎は、まるでそうするのがカッコいいとでも言いたげに、すぐ横にスペースがあってもはみ出て停めるようになった。


 朝、その自転車が道を塞いでいると、無性に蹴っ飛ばしたくなった。普通に邪魔だし、何より朝からイラつかされるのが嫌だった。ルール違反というのは、僕の人と違うことをするというものとは似て非なるものなのだ。


 決まりを破らないと自己を確立出来ないなんて、全然良いとは思わない。定まったルールの中で、あまり迷惑をかけずに人と違うことをすることこそ、真に素晴らしい行為だ。犯罪なんてもってのほかである。


 そこから、毎日朝からイラつかされた。しかも、毎回はみ出ている訳では無く、雨の日はきちんと屋根のあるスペースに収まっているのもイラっとする。1週間、一か月、一学期が終わってもそれは続いた。


 そんな毎日の中、とある放課後のことだった。今まで、その自転車しかはみ出していなかったのに、横へ二台新しいロードバイクが駐車されていた。


 全てこいつのせいだと思った。お前がルールを破ったせいで、それを真似る輩が出てきたのだ。それを考えると、今まで胸の内に留めていた怒りが噴火した。その自転車三台が道を完全に塞いでいるせいで、僕はわざわざ遠回りしなければならなくなったのもある。もう、抑えなど効かなかった。


 妄想していたように、嫌いな奴の自転車を蹴っ飛ばした。ガコンっ、という音と共に横二台のロードバイクと、ついでに無関係な自転車が何台か倒れた。意味もなく倒された、ルールを守って駐輪していた人、本当にごめんなさい。


 しかし、無関係な自転車には悪いと思うが、三台の自転車達には一かけらも罪悪感が無かった。ざまぁみろと思ったし、今まで溜め込んだイライラがスッキリして、いい気分だった。


 恐らく、これは陰湿で許されざる行為なのだろう。意図していた訳では無いが、周りに人もいなかったせいで完全犯罪になってしまったのだから。それでも、僕はこの話をこれからも続けていこうと思う。


 大体、こういうことを言うと、変な顔をされるのがお決まりだ。しかし、だからといって共感や知ったかぶりをしないで欲しい。言われるのなら、変だとか頭おかしいとかの方が良い。そっちの方が、ちょっと傷つくと共に、やっぱり嬉しくなるので。


 寿司は嫌いでも寿司屋は好きだし、オカルトは好きだし、人と違うことするのは大好きだ。


 それと共に、そういう考え方をする自分が大好きだ。これからも、自分を好きでいるためにも人と違うこと、もちろん迷惑を出来るだけかけず、犯罪以外で行えることをしていきたいと思う。自分を嫌いには、なりたくないのだから。

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