第二十五話 パーティ【後編】

 そこにいたのはイリヤとキール、ノアのルーヴェンハイト皇子三人だ。

 きゃあきゃあと女性陣が群がったが、中には男性もいて礼儀正しく挨拶をしている。その様子は彼らがどれほど慕われているかがよく分かる。


「すげーな」

「篠宮さんのことなんて全員忘れてますよきっと」

「別にいいよそれは」

「重要なのはその他大勢じゃなく唯一の相手だからな」

「マルミューラドはそろそろ黙れ」


 二人はまた何かじゃれているが、ふいに女性の歓声が残念そうに引き留める声へ変わった。

 見れば皇子三人がこちらへ向かって来ている。


「げ。来る」

「失礼だぞ」

「じゃあ後は任せるわよ。私はルイ様と楪様探すから」

「馬鹿か。皇子に挨拶しない奴があるか。挨拶だけはしろ」


 嫌だ、と思ったけれどそんなことをしている間に三人はやって来た。

 後方ではざわつく声の中に明らかなブーイングが混じっている。

 確かめるまでもなく、この見目麗しい男性陣に囲まれるなつのへのブーイングだ。

 礼儀なんか捨てて逃げようかと思ったが、そんななつのの心を見透かしたかのようにイリヤがくすっと笑った。


「ナツノ。今日はとても可愛いね」

「ど、どうも……」

「おや。どうして逃げるんだい? 挨拶くらいさせておくれ」

「は――は!?」


 イリヤはなつのの手を取り軽く口づけをしようとした。

 そんな文化圏で生きて来なかったなつのは驚き飛び上がったが、唇が触れる前に篠宮が引っぺがしてくれる。


「あんたふざけるのも大概にしろよ!」

「そうだ。本気の奴に悪いだろう」

「お前は黙ってろ」

「おや。そんな怒ることかい? これくらい挨拶だろう」

「日本はそういう文化じゃないんだよ。行くぞ!」

「は、はいっ」

「あ、今そっち行かない方がいいよ」

「なん」


 何でですか、そう問いかけようとした。

 けれどその言葉を遮るようにして海の方からドオンと大きな音がした。

 同時に地面がぐらぐらと揺れ転びそうになる。


「きゃあっ!」

「向坂!」


 しばらくの間ぐらついていたが、すぐに揺れは止まった。


「大丈夫か?」

「はい。何ですか、今の」

「地震にしちゃ音が派手だったな」

「あーあ。着地気を付けてくれって言ったのに」

「着地?」

「あの子はそういうところが雑でいけないね」


 イリヤは解放されたテラスの先にある海を見ていた。

 背の高い建物も電柱も船も何も無いので遠くまで良く見える。

 いつもなら。


「あれって……」


 海には何かが浮いている。

 それはとても大きい。大きな船だ。


「……はい?」


 ルーヴェンハイトに船はない。だからいつも海は見通しが良い。

 けれどそこには確かに船がある。

 まるで瞬間移動でもして現れたかのようだ。


「まさか」


 なつのはテラスへ出ようと一歩踏み出したが、その時目の前に何かが現れた。


「きゃあ!」

「向坂!」


 突如目の前が暗くなり何かにぶつかった。驚き転びそうになったが、すぐに篠宮に支えられる。

 混乱したまま見上げるとそこにいたのは楪だ。


「ご要望通り持って来たよ、船」

「……はい?」

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