魔女と魔術師は勝負をすることにした。
去年のクリスマスに合わせたアドベントカレンダー企画(基本12月1日~25日の毎日投稿で一作書きあげる自主企画)の参加作品なこともあり、現実の24・25日にあたる祝祭日をふたりは勝負の日と決める。内容は、祝祭のディナーで相手をもてなし、より相手を満足させた方の勝ち。1話ずつ、ふたりの視点を交互に入れ替えながら、それぞれの準備が整っていく様子を描いていく。
全体にゆったりとしていて、やさしく甘やかな雰囲気の物語だ。ただもてなしの準備にいそしむだけでなく、ふたりは異なる種族(魔術師は人間らしい)なりの異なる棲み処で、日常のことや季節行事など、それぞれの営みもこなしていく。合間合間に自然な流れで現れる幻想世界のフラグメントは、どれも童話のように品がよく、時には物々しく、どこか詩的でさえあり、小さな世界を驚くほど豊かに彩る。
ふたりはまた、勝負の日まで相手を訪ねないこととし、代わりに魔法のメッセージカードで進捗を報告し合うことにする。騒々しさとは無縁そうなふたりのささやかな〝文通〟は、時に恋人未満のようなういういしさやいじらしさを垣間見せ、読む者の心をあたためる。
しかしながら、ふたりは決して善の者ではないという。人を超えた倫理を持ち、闇に生きる者。時には恐ろしい業にすら手を染める彼らには、それぞれに確かに思惑と望みがあり、魔女が時おり見せるかげりや、魔術師が見せる不穏でシニカルな表情が常にスパイスのように香る。勝負の末、相手を好きにできるとすれば、何を望むか……。
実は去年リアルタイムでほとんど終盤まで読んで、しかし読み切れないうちに時間が思うように取れなくなってそのまま流れかけていた。けれど、どうしても忘れられず、半年以上もたってようやくだけれど、ふたりの勝負の結果まで見ることができた。
クリスマスにふさわしい、あたたかで美しい物語。なおかつはるかに切ない、このふたりらしい結末と未来。絶えぬ拍手を贈りたい。
この世界観がとてつもなく素敵で、どう言葉で表現したらいいのか。
冬の景色に感じる清廉とした空気、暖炉の匂い、香草の香り。夜の静寂、音が聞こえそうな星の瞬き、何処か恐ろしい闇と影。その空間に身を置いているかのような、臨場感と広がりを感じる文章と表現。
自然と限りなく溶け合った美しい魔術の世界で、長い寿命を持つゆえか人とはずれた感性を持つのんびりとした素直な魔女と、冷徹でいつも何か企んでいそうな不穏な魔術師が勝負をする事になります。その日に向けてメッセージをやり取りしていく中で、お互いに影響を与え合って行く過程が最高。
お話は、魔術師サイドと魔女サイドの交互で綴られていて、二人の日々と考え方のズレを味わいつつ、来るべきその日に向けて準備する様子が本当に素敵。
読者の想像が入る余地もたくさんあって、1話ごとに噛み締めるように反芻するのも楽しい。
雰囲気としては童話的なメルヘンさがありますが、「大人が読みたくなる」という言葉を添えたい感じです。
森に住むふんわりおっとりした魔女と、夜の魔術師と呼ばれる冷徹な人間の男。
来たる祝祭日をどちらがより見事に彩ることができるのか、勝負に向けて準備をする二人の物語です。
お菓子やお酒、手紙に住居。そこかしこに魔法の組み込まれた世界観は、文字を追っているだけでワクワクします。
色香の漂うような文章と、隅々まで作り込まれた舞台。作者さまの発想と感性が素晴らしく、大変魅力的です。
純粋に祝祭日を心待ちにする魔女と、彼女に対して拗らせた想いを抱く魔術師の、絶妙に噛み合わないメッセージのやりとりが楽しい。
勝負の行方はどうなるのか。
二人の関係性に変化はあるのか。
結末をしっかり見届けたいです。