夢か現か不明な場所

ふと目が覚める。

私は今真っ黒な空間にいる。

詳しく言えばこの世に存在するありとあらゆる光を完全に吸収してしまうのではないかと思わせる真っ黒な素材でできた箱の中にいる。

何故だ?確かに昨日の夜、私はちゃんと自室で眠ったはずだ。

ならば昨日作った錬金袋が何らかの影響を私に施しているのか?

...いや、錬金袋にそんな効力があるなんて話は聞いたことがない。

ならば捻じれだろうか、しかし昨日の作業はせいぜい合成台で色々したくらいで...そういえば腐敗草の種子の合成の時に汚染が発生していたな、それでだろうか?

いやいや、いくら汚染と言えど腐敗草の種子の合成程度で起きる捻じれなんてたかが知れている、もしかしたら臨界点ギリギリまで捻じれが溜まっていて合成で発生した汚染を吸い込んだことで臨界点を超えて捻じれの症状が発生し始めたのかと思ったが、ちゃんと捻じれ抑制、改善についてはしっかり気を使っていたしあれくらいで限界を超える程の汚染が発生するとは考えづらい。

ならば...夢か?

にしては意識が明瞭すぎる気がしなくもないが。

「夢ではありませんよ。」

背後から男性とも女性とも取れない中性的な声が響く。

「誰だ?」

くるりと振り向いた先にいたのは白無垢のような、黄金で縁取られた儀式服を着た中性的な見た目の無機質な人間だった。

見た目で特徴的なのは頭上に浮かぶ天使の輪と右手に持つ白を基調とした黄金の装飾の為された槍であり、槍の回りに巻き付くように白い蛇の装飾が彫られている。

便宜上あの人間を彼と呼称する。

こちらを見つめる眼球こそ生き生きとした人間の物であると見て取れるがそれ以外の部分は精巧に擬装された機械か何か無機質なもので出来ていることを魔力の流れから感じ取れた。

それ以上に不気味なのはただ見られているだけなのに全てを見透かされているような感覚が動悸が早まるごとに増大していることだ。

何故鼓動が早まるのか、何もかも分からないが、確かに何か恐ろしいものが彼に在ることだけは分かる。

「ごめんね、どうしても君と話したかったからちょっと乱暴だけど僕の部屋まで連れてきちゃった。」

「僕?君は男性なのか?」

「うーん難しい質問をするね、でも男性かどうかと言われたら答えはNOだよ。」

「だからと言って女性ってわけでもないけど。」

「人間か?」

「ひどーい、顔には自信があるんだけどなあ、ほら、僕の目とかすっごく綺麗でしょ?」

確かに一面の雪景色のような純白な白目部分と、大洋のような深い青の黒目回りを丸く囲む部分のコントラストは極寒の氷海のような美しさが在る。

「でもそうだね、人間ではないかも。」

「人間じゃなんのか。」

「こんな輪っか付いてるし、それに君賢いから分かるってるでしょ?」

「まあ、少し失礼なことを言うが君からは無機質さと不気味さを感じる。」

「そう...そろそろ自己紹介しようか。」

「僕は始めからいる人、皆は僕のことを管理者だったりアドミニストレータだったりアドミンだったりコマンダンテだったり、色々な名前で呼ぶよ。」

「結局何て呼べばいいんだ?」

「何でもいいよ、でもアドミンって呼んでくれると嬉しいな。」

「じゃあそれに従おう、でも何でアドミンなんだ?」

「かわいいでしょー。」

「ちょっと理解できない感性だな。」

少し苦い笑みがこぼれる。

彼から不気味な気配は未だ感じるが、少なくとも彼自身に敵意があるようには見えない。

少し肩の力を抜く。

「...そうだ、結局ここはどこなんだ?」

「ああ、言ってなかったね。」

「ここは僕の部屋、所謂空間魔術の一つでできた拡張空間だよ。」

「じゃあ君に用がある時はどうしたらいいんだ?」

「僕は管理者だからね、呼んでくれればすぐにいくよ。」

「便利だな、それは。」

「何かあったら呼んでね、僕も基本暇だからさ。」

まあいい人そうで良かった、雰囲気が怖いだけで。

「じゃあ早速なんだけど、一つ頼んでもいいかな?アドミン...さん。」

「アドミンでいいよ、さんとか君とか付けてたらせっかくかわいい名前が堅苦しくなっちゃうでしょー。」

「分かった、じゃあアドミン。」

「なにー?」

「もうすぐ朝食の時間になるから寝室まで帰してもらってもいいかな?」

「それもそうだね、じゃあ何かあったらすぐに呼んでねー。」

アドミンがにこやかな表情で手を振ると、突然部屋中が白に包まれる。

光ではなく白にだ。

部屋全体を漠然とした白が覆いつくすと、ピシッと亀裂が走り、部屋が崩れていく。

次の瞬間、私はすでに寝室のベッドの上に寝ていた。

タイミングよく、扉を乾いたノックが叩く。

「どうぞ。」

「失礼します。」

ガチャと開いた扉の向こうにはシンセティックがいる。

「朝食の準備ができました。」

「ああ、すぐ行くよ。」

さっさとローブを着て、シンセティックの元へ向かう。

今日の朝食は何なのだろうか、朝から胃もたれする出来事があったから軽いものだといいが。

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