ついに告白

 時はさらに流れ、1ヶ月後。


 県内の高校は明日から夏休みになる。


 今日は1学期最後の日で午後全部は放課後だった。


「この時間なら大丈夫かな?」


「ん?何がだ?」


 久しぶりの登場になる小林がリュックを背負って俺に話しかけてきた。



「夏奈さんもこの時間に終わったかなって思っただけだよ」


「あーまた夏奈さんな」


「何だよ……」


「別に……ただ羨ましく思ってるだけだ」


 そう言うと小林は露骨に不機嫌そうな顔をして教室から出て行ってしまった。


 彼は俺が夏奈さんと良い感じになるとようやく俺の行動を認めてくれて(むしろうらやましがってくる)地味に俺の恋を応援してくれているのだ。



「よし、頑張ろう」


 小林の背中を見て改めて頑張ろうと思った。


 何を頑張るのか。


 勿論告白だ。


 1ヶ月前。夏奈さんのトラブルをきっかけに夏奈さんが俺の事をそれなりに良い人だと思ってくれていることを感じた。



 ならば、ここがチャンスだ。


 一目惚れをして早3ヶ月。お互いの関係がちょうどいいここで俺は決める。


 そのために俺は今、スマホの画面を夏奈さんとのチャット欄にしているのだ。


 早速文字を打ち始めて、伝えたい事を書く。


「今度暇な時、遊びませんか?」


 直接告白をしたい、なら誘い文句はこれだろう。


 これまで俺達はしっかりと『遊ぶ』と言って会ったことが無い。


 だからこそ、このタイミングで誘ってみる。



 今の関係性ならばOKしてくれるはず。


 俺の自信過剰な予想が外れることはそう無い。


 数秒してシュポッという音と共にチャット欄に彼女の打った文字が表示された。


「勿論OKです!」


 よし!取りあえず第一関門突破!


 次は遊ぶ場所だ。


 俺達と言えばやっぱりあそこしか無いよな……


 俺は次の言葉を打ち始める。



 俺と彼女が出会い、共に過ごしてきた場所。


「場所はOOでどうですか?」


 すると今度は一瞬で返信が来た。


「え~それはさすがに嫌だな……」


 だろうと思った。さすがにはずいよな。


「そう言うと思ったのでこっちはどうです?」


「うん!ここなら良いよ!!」


 こうして遊ぶ場所も決まった。


 後は夏奈さんと俺のスケジュールを合わせて遊ぶだけ。


 それは後で決めれば良いので俺はここでトーク画面を閉じる。



 そして、遊ぶ日がやってきた。


 やってきた場所はこの前2人で勉強会をしたメガドンキから少し西に行った場所にあるカラオケ屋。ここは俺が働いているカラオケ屋と同じ会社でこっちが本店だ。


 本当ならば俺は彼女と出会ったあそこで告白をしたかったが、夏奈さんがいやだと言ったのでこっちにしたのだ。


「おまたせ~」


 カラオケ屋の入り口の前で待っていると夏らしい白のワンピース姿の夏奈さんが歩いてきた。


「歩きですか?」



「ううん、なんかお父さんが暇だからって送るって言ってくれたの」


「な、なるほど……」


 なんともやりづらい状況……てことは俺の事を見られた可能性もあるな。


 どうしよう。ここに来て自信を無くしてしまった。


 彼女の父にどんな感じで見られたのだろうか。俺の脳内はそれが大分大きく支配していた。


「早く行こうよ!!私久しぶりのカラオケで地味に楽しみなんだよね~」


 下を向いて考え事をしているところを夏奈さんに手を引かれ、店の中へ。


 店の中はうちとは違う作りだが色合いが全く同じだった。



 俺達はバイトと言うことで特別な会員証を持っているため割安で利用出来るのだ。


「ふう、入った~」


 店員さんに案内され部屋の中に入った。


 ここも、いつも作業に入る部屋とほぼ同じなので特別面白味は感じなかった。


「さ、歌おう!!」


 今日の夏奈さんはいつもよりテンションが良いらしい。連続で4曲ぐらい入れていた。


「歌いすぎて喉潰さないでくださいね」


「分かってるよ~」


 と、マイク越しで言われても説得力が無い。だが、マイク越しの夏奈さんの声も可愛いな。


 と言う事で夏奈さんの先行でカラオケデートがスタートした。



 数時間後。


 カラオケデートも中盤に差し掛かっていた。


「あー楽しい!!大地君歌うまいね~」


「らしいですね。友達にも言われます」


 ま、友達って言っても小林だけなんだけどね……


 てか、やっぱり声がガラガラじゃないですか。


「少し休憩しますか?」


「うん、ちょっとお花を摘みに行きたくなっちゃったしいいよ……」


 夏奈さんはそう言うと部屋から出て行ってしまった。



 1人になった俺。今やるべき事はさっきからバクバク言っている心臓の鼓動を落ち着かせることだ。


 落ち着け……落ち着かないと言いたいことも言えないぞ……


 オレンジジュースを一口飲んで、これから言おうとしている事を脳内でリプレイしていた。


 うん、大丈夫。今なら一目惚れした彼女に告白できる。


 そう思っていると部屋の扉が開き、そこから夏奈さんが現れた。


「ごめん……」


 そう言う、彼女もどこか緊張した面持ちだった。


 言う、言うぞ。今日はそのために夏奈さんを遊びに誘ったのだ。


「「あの!!」」


 勇気を振り絞って言った言葉が偶然にも2人同時に重なった。


「さ、先にどうぞ……」


「あ、ありがとうございます……」



 出鼻をくじかれた俺のライフはほぼ0だった。だが、それでもやります。


「夏奈さんに言いたいことがあります」


 俺の震える声がボックス内のBGMに混じって消える。


「単刀直入に言います!!」


 ゴタゴタと言葉を並べても仕方が無い!男ならド直球で想いを伝えろ!!


「俺、初めて会った時から貴方の事が大好きです……」


 い、言ってしまった。これで後戻りは出来ないぞ。そ、そう言えば、夏奈さんに彼氏いるのか聞いたことなかったよ。やっべ、ここに来て不安要素が出てきたよ。


 しかし、俺の言葉は止まらない。



「俺、初めて一目惚れしたんです。貴方が扉を開けたあの時から、今目の前にいる貴方までいや、これからもずっと俺の目には貴方の事がとてつもなく魅力的に見えるはずです。それだけじゃない。一緒に過ごしていくうちに、家族にも内緒で必死に努力をし続ける姿や、俺見たいな馬鹿に一生懸命勉強を教えてくれる優しい一面も知ることが出来ました」


 ここで俺は顔を正面に座る夏奈さんに向けた。彼女の顔は真っ赤だ。俺のハズい言葉に赤面しているのか、俺の事を好いてくれているから赤面しているのか俺には分からない。だが、俺は言う。


「それだけ知れれば、俺は十分です。改めて、俺近藤大地は東山夏奈さんのことが大好きです。もし良ければ俺とお付き合いしてください!!」


 俺は頭を全力で下げた。



 テーブルにおでこがぶつかる直前まで下げた。


 これで、断られても悔いは無い……はずだ……


 部屋の中はうるさいはずなのに静かに感じる。


 てか、1番うるさいのは俺の心臓の音だ。早く、止めよ……


「わ、」


 しばらくして夏奈さんの声が発せられた。


「私も大地君の事が好き……です……」


 それを聞いた俺は顔を上げた。


 驚いた顔をしていると思う。そりゃそうだ。出会って3ヶ月しか経っていない男の事を好きと言っているのだから。


「私は最初はただの年下の男の子って感覚しか無かったけど。その後、一緒にアイスを食べたり、勉強したり、私自身の相談に乗って貰ってこの人と一緒に居たいなって思いました。だから、私からも言わせてください」



 夏奈さんが生唾を飲む音が聞こえた。


「大地君。私も貴方の事が大好きです。是非、一緒に居てください」


 彼女の笑顔が締めくくった。


 俺が初めて見た彼女の顔。この顔が俺の全てだったのだ。


「よ、良かった~めっちゃ緊張した……」


 口に出したら一気に力が抜けた。


 全身を長椅子に預け、天井を見上げていた。


「私も~てか、私から告白しようと思ってたからちょっと悔しい……」


 夏奈さんの声がいつもとちょっと違う。なんか甘えたような声だ。


 やべ、結構嬉しい。てか、かなり嬉しい?ホントに嬉しい時って嬉しさが遅れてくるって本当なんだな。



「良いじゃないですか……そこは男の俺に格好付けさせてくださいよ」


「ふふ、だから譲ったんじゃない」


 脱力した体に力を入れ、改めて夏奈さんを見た。


「続き歌いますか!」


「うん!!残りも楽しんじゃおう!!!」


 彼女も起き上がり、早速タブレットで曲を入れていた。


 あー最高!俺の人生、多分ここがピークだわ。


 そう思えるぐらい楽しい時間を過ごせました。


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一目惚れは人を本気にさせる 親知らずの虫歯 @oyashirazunomushiba

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