第17話

 

 〜〜!!!!

 今まで静かにしてたのに急に何なのミシェル!!

 さては今までの話、さっぱり理解出来なくて黙ってたな!!?


 どうにも神経を逆撫でする声と口調に苛立ちがピークに達して振り切れそう。

 隣のお父様とお母様も、無表情を顔に貼り付けたまま青筋を立てているのが見えた。

 イラつくでしょあの子……あれがミシェルなんですよ……。



「では、次に第1の問題に移ろう。まず初めに、クローディア嬢に謝罪したい。本当にすまなかったクローディア。間違いなく、私たちが得た証言や証拠は、偽物だと分かった」

「申し訳ありませんでしたオーキッド令嬢。私たちの調査不足でした」

「本当にすまなかった!! 俺は騎士として恥ずかしい!!」


 3人は、本当に申し訳なさそうな顔で、私に謝罪した。

 向こうの世界でも謝罪はしてくれたけれど、今回は本当に事実を確認した上での謝罪なのだろう。

 しかも、王の目の前という、最も公式な場で。



「私からも謝罪しよう。クローディア嬢。迷惑をかけたね」

「私からも謝罪を」

「愚息が大変失礼を致しました。必要とあらば、この地位はいつでも明け渡します」


 王や宰相、騎士団長までも頭を下げる。

 ニコラスパパ、やめてちょっと重すぎる。

 まあ普通の貴族令嬢からしたら、あんな派手に婚約破棄をされたらお先真っ暗だし、大袈裟ではないかもだけどね。


「謝罪を受け入れます。どうか頭をあげて下さい」

「オーキッド家と致しましては、この場で確かな真相究明をしていただき、国民に向け我が娘の無罪を丁寧に説明していただければ、何も言うことはありません」


 お父様がオーキッド公爵家の当主としての顔で、そう言った。

 お父様には、誰かが裏でトラヴィスを操っていた可能性があると伝えている。色んなバランスを考えて、お父様はここら辺が妥当だと判断したのでしょう。



 ミシェルがえっえっ? と目を白黒させている。

 まさかそんな展開になるとは思ってもいなかったという顔だ。彼女は本当に、全て私がやったと思っていたのだろう。


「でっでもクローディア様は私のことを虐めて……」

「ミシェル……いや、リリー令嬢。君が言う虐めとは、君のノートを破ったり、物を隠したりといった行為だったな。果たして本当に、クローディアがやったという証拠はあるのか?」


 トラヴィスが厳しい視線でミシェルを射る。

 まさかトラヴィスからそんな視線を送られるとは思っていなかったのか、ミシェルは怯んで目に涙を浮かべる。


「それは……っでもそんなことをする人なんて、クローディア様しかいらっしゃらないじゃないですか! それにロベリア先生が私の荷物を漁るクローディア様を目撃しています!」

「ミシェルくん。私が見たのは、君の席の近くに金髪の女性が居たということだけだ。決してクローディアくんだと明言した訳じゃない」


 ミシェルの顔が、驚愕と絶望に染まる。

 まさしく、リチャードがミシェルを切り捨てた瞬間だった。


「リリー令嬢。君に対する嫌がらせは、君のクラスメイトたちがやったことだと分かった。丁寧に聞き込みをしたら、怖くなったのだろう。犯人のうちの一人が打ち明けてくれたよ。君の、私たちへの態度が気にいらなかったそうだ」


 まさかクラスメイトに一人一人事情聴取をしたのだろうか。

 王太子自らそんなことをしたら、確かにその圧に耐えられなくなる者も出てきそうだ。


「それに関しては私たちにも責任がある。謝罪しよう。それに、君に嫌がらせをした女生徒たちにも、厳しい罰を与える。

 だが、不用意に犯人を名指しするとは、君にも罪があるのは分かるな。君はしばらく謹慎だ」


 その場でトラヴィスは、王に視線で了承を取った上で、ミシェルに謹慎を言い渡す。前もって決められていたことなのだろう。

 アカデミーに通う生徒に謹慎とは、つまり停学処分と似たようなものだ。しかも王家から直接処分が下されるというのは、想像以上の影響を与える。

 アカデミーの生徒は皆卒業後、貴族として社交界に出でいくことを考えれば、これはかなり厳しい罰だ。社交界で生き抜いていくには、かなりのハンデになることは間違いない。


「そんな……! トラヴィスさま、私はただ信じたことを」

「そういえば、君に名前を呼ぶ事を私は許可したかな。勘違いをしないでもらおう。さあ、もう話は終わった。出て行ってくれ」


 トラヴィスがそう促すと、ミシェルは下を向いてブルブル震えたかと思うと、これまでのあざとい表情から一転、顔を歪めて、憎悪に塗れた表情で私を睨みつけた。



「なんでみんなそんなブスのことを庇う訳!? 犯人そいつに決まってんじゃん! 可愛くてみんなに愛されてる私を妬んでそいつがやったんだってば!! そんなブスがトラヴィスさまの婚約者だなんて、不釣り合いなのよ!!」



 ………………。


 えええぇぇぇぇ!!

 まさかの逆ギレ! まさかの暴言!!

 うわぁこの性悪な本性を何重にも嘘で固めて隠していたのか!

 確かにミシェルは可愛らしいし、男ウケもいい。だからと言ってその本性は、さすがに犬も食わないだろうて。



 あ。

 隣で両親が激おこしてる。


「リリー令嬢。今の発言は、我がオーキッド家を愚弄したということでいいかな?」

「いえまさか。私の聞き間違いに違いないですわ。まさかそんな低俗なことを言う方が、この場にいる訳ないもの」


 笑顔のお父様めっっちゃ怖っ!!

 お母様! 扇子!! 扇子折れてるよ!!?


 二人の圧に我に返ったのか、ミシェルはまた元のあざとい表情で瞳を潤ませると、トラヴィスではもうダメだと思ったようで、ウォルトの方に向き直った。


「ウォルトさま! 私はただ、トラヴィスさまの横にはもっと相応しい方がいるのではないかと思っただけです! ウォルト様もそうおっしゃっていましたよね?」

「確かに、以前の私はクローディア嬢を誤解していましたからね。そんな愚かなことを言ったかもしれません。ですが、本当のクローディア嬢は、とても美しく素敵な人でしたよ。醜悪な本性を持つあなたよりずっとね」


 近寄ろうとするミシェルを避けるように一歩下がり、目が合ったら凍るんじゃないかと思うほど冷たい瞳でミシェルを眺めた。


「っニコラスさま! 皆さんが酷いのです! どうか、お守りください!」

「騎士が守るのはレディーと決まってる。安心しろ。もう暴力は振るわない。お前の様なレディーとは程遠い者でもな」



 そう言ってニコラスは、ミシェルを肩に担ぎ上げると、まるで荷物の様にミシェルを運んでいった。

 あのニコラスが強制排除に出たよ。

 よっぽどイラついたのかな。


「ちょっと! 降ろしてよ!! なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの!? 信じらんない!!」


 そうやって騒ぐミシェルに一切動じず、ニコラスは謁見室の外まで連れて行った。


 と思うと、すぐまた戻ってきた。


「リリー男爵が回収に来たから、そのまま渡してきた。謝りすぎて首が折れるんじゃないかと思ったぞ!」


 そう言って呵呵と笑った。



 その場はなんとも言えない空気に包まれる。

 リリー男爵はころんと丸いフォルムをしている可愛らしい感じの方なので、ちょっと起き上がり小法師を想像してしまった。

 その様子では、リリー男爵が仕組んで……とかではなさそうだ。

 家で謹慎して、少しは反省してくれると良いんだけど。




 この微妙な空気の中、トラヴィスが咳払いをして、再度シリアスな空気を出し話し始める。


「では、他の事件を考えよう。クローディアが使用人に怪我を負わせたという件と、王都のパン屋を強奪したという件。この件についてはニコラスが調べた。報告してくれ」

「はい。当事者たちに直接確認を取りに行った。するとやはり、全て虚偽の証言によるものだと分かったんだ。虚偽の証言を行なった者は、どちらも王都を去っていた。

 でも見つけたんだ。ただ、何故そんなことをしたのかは分からなかった。二人とも、死体になっていたからな」



え、何それ。

急にサスペンスなんですけど!?

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