2022/12/10 第10話

 先生は静かに千香さんの話を聞いていたが、

「馬刷間さん。よければこの動画、少し調べさせていただけませんか?」

 と言った。

「いいんですか!?」

 千香さんの顔がぱっと明るくなった。

「会ったばかりの方が不審死を遂げられているわけですからね。やはり気がかりです。私のような者の出る幕かはわかりませんが、少なくともただの偶然以上の何かを感じますね……」

「そうですか……そうおっしゃっていただけると嬉しいです」

 先生は千香さんから動画データを譲ってもらい、それから来美さんの通っていた大学や交友関係なんかについて色々と聞き出した。話している間に千香さんは安心してきたようで、「やっぱり先生にご相談してよかったです」などと言い、時折笑顔を見せた。コミュ力の高い男は得だ。

「本当にありがとうございます。こんなことにご協力いただけるなんて……私、誰にどう相談していいのかわからなかったんです」

「それはよかった。さしあたって、この動画と妹さんのことに、本当に因果関係があるのかどうかお調べしましょう」

「ええ、お願いします。本当に、先生が引き受けてくださってよかった……」

「これでも霊能力者の端くれですから。何かお役に立てるとは思いますよ」

 そう言って、先生は営業スマイルを見せた。端くれもなにもインチキなのだが――まぁこうして引き受けたくらいだから、何かしら心当たりがあるのだろう。

 それはさておき、千香さんは来た時よりはやや元気になって帰っていったので、インチキ霊能力者も多少人の役には立っているのかもしれない……などとこの事務所の存在意義に思いを馳せつつ、おれは先生と一緒に依頼人が帰っていくのを見送った。それから先生は静かに玄関の扉を閉め、

「偶然じゃね?」

 と言った。

「はい?」

「いや、動画のせいで人が死ぬとかありえなくね? たまたま同じ場所で自殺しただけじゃね?」

「い、いやいやいやいや、何言ってんすか先生! そんな偶然あります!? 百歩譲ってそうだったとしても、そんな説明で千香さんが納得するわけないでしょ!? ていうかさっき自分で偶然以上のものがナントカ言ってたじゃないすか!」

「だよねー。はー……」

 などと言いつつ、先生は肩をぐるぐる回しながら事務所に戻っていった――えっ、もしかして何も考えてないけど引き受けちゃったってことか? 大丈夫なのか!?

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