2022/12/06 第6話

「バカか柳ィ! お前は素直か!」

 先生はおれの左頬に人差し指をぐりぐり押し込みながら言った。客がいなくなった途端にこの態度である。

「そんな純真な心でどうやって生きてきたんだ? 小学生か?」

「いだだだだだ、そこまで言います!?」

「言うわ! お前一応俺の助手だろうが! 大体なぁ、心霊動画ってのは十中八九偽物なんだよ!」

 そう言って先生はため息をついた。「よくうちで働いてられるな……」

 そうだった。先生なんか一から十までインチキだった。心霊動画より純度の高いニセモノである。

「す、スンマセン……」

 おれが謝ると、先生は「はーっ」と大きなため息をついた。

「お前なんでそんな騙されやすいんだ……さっきの動画なんか、最後まで見るまでもなく怪しかっただろうが」

「はい?」

「途中で変な編集入ってただろ? なんであんな編集入れたか知らんが、撮ったまんまの動画じゃないって時点でもう十分怪しいぞ」

「編集? どこに?」

「自分で気づけ! もちろん最後に映ってた女も合成! あれくらいなら素人でもできるだろ」

「えっ、そうなんすか?」

「そうなんすかじゃないよお前……大体馬刷間って子は映画部で映画撮ってんだろ? 動画編集に多少詳しくてもおかしくない。まず依頼が来た時点で馬刷間嬢のことをちょっと調べたんだが、ちょっとしたインフルエンサーだな。ほら」

 そう言って先生は自分のスマートフォンを差し出した。

 SNSのアプリ画面だ。アイコンは馬刷間さんの顔写真に設定されている。名前も本名だ。フォロワー数は一般人にしてはかなり多い方だろう。

「へぇー、なんか賞とったりもしてるんすね」

 プロフィールを見た限りでは、監督や脚本家として活動することが多いようだ。学生とはいえ、小さな劇団で燻っていたおれとはえらい違いである。

「その筋じゃわりと知られた賞らしいから、有名人っちゃ有名人みたいだ。ま、動画の合成に多少造詣があってもおかしくないだろ」

「なるほど……じゃああの、映ってた子が自殺したっていうのも嘘なんですね! よかった〜」

「あっ、それはホント」

「……マジすか!?」

 死んでるのかよ! じゃああの動画、やっぱまずいやつなんじゃないの!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る