遠藤初陽視点
「遠藤、こんなところで何やってるんだ、通しなさい」
体育館へと続く長廊下である。
俺は両手を目一杯広げ、ここから先は何人たりとも通さんぞと、気持ちの上では羆あたりのイメージ映像を背負った状態で左右に揺れている。
「待って! 待ってください先生! 後生ですから! あと二十分っ! せめて! せめてあと十分!!」
「二十分とか十分とか何言ってるんだ。良いからそこを退けなさい。生徒が体育館倉庫に閉じ込められてるかもしれないんだぞ」
南城と神田の荷物を片手で持ってそう凄むのはムキムキの体育教師(二十八歳、独身)だ。恐らくこいつも遅かれ早かれこの学校で相手(♂)を見つけるだろう。
「わかってます! わかった上で言ってます! だからこそ、男、遠藤
「わかっているならなおさら退けなさい! 親御さんが心配してるんだぞ!」
「俺だってある意味保護者みたいなもんです! あと一歩! あと一歩のところまで来ているはずなんです! いまロマンスの神様が降臨なさっているはずなんです! 後生ですからぁ! 後生ですからぁぁぁっ!」
「ええい、退かないなら力づくだ! 体育教師を舐めるな若造がぁぁ!」
「うわぁぁぁ!!」
哀れ、最近ちょっと筋肉がつき始めた程度の細マッチョでは真のマッチョに勝てるわけもなく、体罰と問題にならない程度の力でひょいと退かされてしまう。
「南城! 神田! 俺はもう駄目だ! あとはお前達の力で頑張れ! 奇跡よ、起これぇぇぇ!」
俺は長廊下で大の字になり、天井に向かって吠えた。あいつらに届いているだろうか、俺の言葉が、この思いが。
最後に外の小窓から確認した時には、二人ぴったりと並んでいたのだ。あそこまで接近出来たんなら、さすがにもう手くらいは繋いでいるだろうし、キスだってしているかもしれない。いや、しているはずだ。だってあれから二時間だぞ!? してると言ってくれ! こちとら、具体的にナニをとは言わないが、やりたい盛りのDKなんだぞ。
が、先生が勢いよく倉庫に飛び込んだ後、かなり残念そうに出て来た二人の様子からして、何かはあったけど、何も起こっていないらしい。
着衣及び頭髪の乱れ、なし。
進展0。俺にはわかる。
お前達、もういい加減にしろよ。
なんやかんやで! 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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