山への誘い


 八月が終わると、急に柚莉ゆうりの元気がなくなった。声をかけても上の空といった感じだ。


 腕に怪我をしたこともあり、何があったのか何度も聞いたけど柚莉は何もないよと言ってくる。絶対に何かあったはずだ。なんで話してくれないんだ。


 いら立つ日が続いていたところ、雪竹ゆきたけが気分転換を提案してきた。


「ねえ、柚莉、三人で山へ行ってみない?」


「山?」


「キャンプ。ずっと勉強ばっかりだし、息抜きしようよ」


「遠出はあまり好きじゃない……」


「大丈夫。オレが車を出すし、立助りゅうすけはキャンプ慣れしているからテント張りは任せられるよ」


 急に何をと思ったが柚莉と遠出をしたことがない。学校では見れない彼を見ることができるかもしれない。


「大学の思い出になるからさ、出かけようよ」


「そ、そうだよ。先に行って準備しておくから雪竹と来なよ」


「……でも……」


 全然乗り気じゃない……。でも柚莉に来てほしい。オレが強く言うのはなんだか変だし……。


「三人の思い出をつくりたいからお願い!」


 雪竹が強くお願いしてきた。柚莉は困った顔をしていたが、「一泊だけで翌朝には帰るから」と頼みこんだら、やっとで了承してくれた。


 オレはすぐに「週末に行こう!」と告げた。雪竹は「いいね」と賛成した。柚莉の都合を聞くと予定は入っていない。しめた!


 強引に「決定だな」と言って、すぐにキャンプの話に持ちこんだ。決めてしまえば柚莉は行くしかなくなる! 断る口実ができないように、どんどんと話を進めていった。




 キャンプの前日になり、オレは雪竹と帰路につきながら明日の行程の最終確認をする。


 オレが先にキャンプ場へ行ってテントを準備する係で、雪竹と柚莉が道中で買い物をしてキャンプ地で合流という流れだ。


 キャンプはテントで夜をすごすだけだから、部屋で話をするのと大差はない。でも自然に囲まれた場所というだけで特別なものに思えてくる。


 雪竹とは何度もキャンプをしたことがあるけど柚莉とは初めてだ。どんな柚莉が見れるだろう。期待で顔が緩んでしまう。


 家に着いたので、ここで雪竹とは別れる。


「じゃあ、明日は現地で」


「○□△○□○○△□○」


 え……? うまく聞き取れない。

 雪竹はなんて言った?


 もう一度聞こうとしたら、彼はすでに歩き出している。

 聞きそびれたけど……まあ、いいか。


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