三之章

 海辺の近くで生活を営んでいる住人たちは、ほとんど毎日海に出て漁や藻塩造りに、専念していると行商に来た男から、耕平は聞いたことがあるのを思い出していた。

それにも拘わらず、南の邑は妙に閑散としていて、邑の中にも浜辺にも人影ひとつ見当たらなかった。

「おかしいな…。こんなはずじゃないんだがな…。聞いた話によると海辺の人たちは、毎日塩づくりや漁をやって獲った魚は干物にして、オレたちの邑のほうまで物々交換にくると云っていた。それなのに、人っ子ひとり見えないというのは、おかしいとは思わないか。イサク…」

「ほだなぁ…。塩はどうやって作るのか、おらは知らねえだども、魚を獲ってる人も見えねえのは、やっぱりおかしいべな…」

「これだけの邑だ…。邑人の姿がひとりも見えないのが、どうもオレには附に落ちないんだ…」

「ほしたら、おらたちはどうしたらいいだベ…、邑長」

「まぁ、待て。イサク、これはこの邑に何事かの異変があったと見なくてはなるまい…」

「異変とは、どういうことだべか…」

「それはオレにも解からんが…、何かとんでもない事態が起きたと見なくてはなるまいな…。普段は藻塩草が天日に干してあると聞くが、今はそれすらも見られない…。こんなことは通常のことではあり得ない。この邑には、よほどのことがあったと見て間違いはないだろう…。とにかく、邑人の姿が見られない上は、事情も聞くわけにも行くまい…。この邑にも邑長がいるはずだ。手分けして邑長の家を探すんだ。オレたちは海沿いを探すから,イサクはもう少し山のほうを探してくれないか…」

「合点でさぁ。邑長、ほしたらおらは、もうちょっと山手のほうを探してみるだ…」

そう言い残すと、イサクはまるで韋駄天の如く走り去って行った。

「なんて身の軽いヤツだ…。あれで怪力の持ち主だと云うんだから、縄文人もまんざら捨てたものでもないな…」

 耕平は苦笑いをしがら、独り言のようにつぶやいた。

「さあ、イナク。オレたちもそろそろ行こうか。こんなところでボヤボヤしてたら、イサクに後れを取ってしまう…」

こうして耕平もイナクとともに、南の邑の邑長の家を探し始めた。探し始めてからしばらく経っても、邑の中は相変わらず物音ひとつ聞こえてはこない。

聞き耳を立てていたイナクが、

「あ…。コウヘイ、子供の声が聞こえるよ…」

その声は、集落のはるか向こうのほうから、微かに聞こえてくるようだった。

「やっぱり人間がいたんだ…。向こうのほうからだ…。行ってみよう。イナク」

耕平はイナクの手を引いて、小走りに走り出した。しばらく走ると、ひと際大きい竪穴式住居が見えてきた。

家の前では小さな子から、十歳くらいの子供たちが遊んでいるのが見えた。耕平は年長の子を呼び止めて話しかけた。

「あ…、君たち。おじさんは西の邑からやってきた。耕平という者だが、誰か大人の人はいないのかね…」

「おじいちゃんならいるよ。呼んでこようか…」

 その中のひとりの子供が、そういうと自分の家らしい住居の中に駆け込んで行った。

 少し間が空いて、子供とともひとりの老人がが出てきた。耕平と目が合うと老人はペコリと頭を下げた。

「これは、これは…。あなたが噂に名高い、西の邑のコウヘイ邑長でしたか…。よくぞ、おいでくだされた。さあ、中へお入りくだされ」

 乞われるままに住居の中に入った、耕平とイナクに老人は席を進めてから、自らもゆっくりと腰を下ろした。

「申し遅れましたが、わしはこの邑の邑長をやっている。クルミラと云いますだ」

「時に、クルミラ邑長。われわれも今日こちらに着いたのですが、どこを探しても大人の姿を見かけなかったのですが、これには何か訳でもあるのですか…」

「さすがはコウヘイ邑長。お気づきになられましたか。あれはちょうど、ひと月ほど前のことだったかのう…。

 どこからやって来たのか知らんがのう。この邑にある日、三人の男がやって来たんじゃ…。

 ヤツラは見たこともないような、スベスベとした着物を身に着けていてな。言葉もわれわれには、よく解らんような意味不明の言葉だった…」

「何ですと…。それで、その男たちはそれからどうしたんです…」

「それがの…。その男たちの中でも、ひとりだけ言葉が達者なヤツがいて、そいつが云うには『われわれはここに国を作り、その国の王になるんだ。お前たちはわれわれのために、一生懸命に働けばいいんだ。もし、命令に反抗したり背く者がいた場合には、邑人を全員皆殺しにするから、そのつもりでいるように…』と、云われて、みんなも死にたくはないから、働ける者は男も女も全員、山手のほうに連れて行かれただ…。だから、いま邑にいるのは、わしら老人と子供たちだけなんじゃよ…」

 老人の話を聞いて耕平は思った。

『きっと吉備野博士か、その後の時代の何者かが、この縄文時代の侵略を企てているのかも知れない…。クルミラ邑長は、山手のほうに行ったと云っていたが、山手にはイサクが行っているが、もし三人に出くわしたとしても、イサクの石つぶての腕は神業並みだし、まず心配はあるまい…。あ、そうか…』

 そこまで考え及んだ時、耕平はあるこことに気がついた。

「邑長、その男たちは武器のようなものは、何か持ってはいませんでしたかな…」

「武器かなんかは知らんが、何か竹筒のようなものを持っておりましたな…」

「竹筒…、銃だ…。そいつらは銃を持っているのか…。と、なると、迂闊に手も出せんぞ…。イサクが心配だ。ちょっと見に行ってこよう…。

 クルミラ邑長。少しの間だけ、この娘を預かってもらえんでしょうか…」

「可愛いお嬢さんだ…。娘さんですかな。コウヘイ邑長…」

「いや、これはわたしの妻ですよ…」

 耕平は、キョトンとしているクルミラにイナクを預けて、ひとり山手の方向を目指して出かけて行った。

「そうか、お前さまはコウヘイ邑長の嫁さまだったのかい…。さあ、中に入ってコウヘイ邑長が帰るまで、ゆっくりと休むがええだ…」

 クルミラに誘われるまま、イナクが中に入ると数人の老人たちが、ボソボソと何かを話しているのが見えた。

「誰かが来たようだったが、どなたでしたんかいのう。邑長…」

 その中のひとりの老人が尋ねてきた。

「みなも噂で聞いているとは思うが、西の邑にコウヘイという神さまみたいな、賢い邑長が住んでおってな…。いましがた見えられてな。いろいろ話しをしたんだが、例の三人組の話になると、一緒にきたもうひとりの方が心配だから、この娘を頼むと云われてな。ひとりで行ってしまわれたんじゃ…。

 こちらはな。コウヘイ邑長の花嫁さんだそうじゃ…。みなもよろしく頼む…」

 クルミラの話を聞いて、老人たちはざわめき立った。

「しばらくご厄介になります。あたしはイナクと申します。何も御礼などはできませんが、あたしの踊りでもご覧になってください…」

 イナクはさっそく踊り出すと、踊りが進むにつれて徐々に怪しげな笑みを浮かべて、着ている着衣を脱ぎ始めて行った。

「おお…、何とでかい乳じゃ……」

「ほんに、ほんに…。わしも若さが漲ってきそうじゃ…」

 老人たちは口々にイナクを称える言葉や、ため息交じりの歓声を挙げていた。

 イナクがひと通りの踊りを終えると、老人たちが周りに群がってきて、イナクの乳房といわず尻や体中を皺(しわ)だらけの手で触り出した。

「何という美しい体じゃ…」

「ほんに、ほんに…」

「キャー…」

 イナクが悲鳴を上げた。

「これ、みなの者。何ということを…、曲がりなりにもイナクは、コウヘイ邑長の花嫁ですぞ。何という、はしたないことをするのじゃ…」

 クルミラに一喝され、老人たちは手を引いて元の場所に戻った。

「いや、わしはただイナクの体が、あまりにも奇麗だったんで、つい触れてみたくなっただけで、別に悪気はなかったんじゃ…」

「わしもじゃ…」

「わしも…」

「いいんですよ。みなさん…」

 老人たちの話を聞いていたイナクが、急に話し出した。

「あたしは、コウヘイのお嫁になる前は、旅をしながら踊りを見せる仕事をしてました。ですから、裸とか体に触れられることは、苦にしてませんので、どうぞお気遣いなく…」

 大きな乳房をプルッとふるわせて,イナクはにっこりと微笑みを返した。

 クルミラの家でそんなことをやっている頃、耕平はひとり黙々と山手に向かう道を歩いていた。もう、どれくらい登り詰めただろうか。中腹くらいまできただろうか。それからしばらく登り続けたが、一向にイサクの姿を見つけることはできなかった。

「ふう…、疲れたな。少し休むか…」

 耕平は、腰を下ろして休めそうな場所はないかと、周辺を見渡したがゴツゴツとした岩ばかりで、休憩できるようなところは見つかりそうもなかった。しかし、ふと、たった今登ってきたばかりの下方に目をやると、何かしらチラチラと動いているが見えた。

 何だろうと思った耕平は、その付近まで下りて行くと、やっと見え隠れしているのの姿が判別できた。

『何だ…。イサクか。アイツ、こんなとこで何をしてるんだろう…』

「おい、イサク…。そんなところで何をやっているんだ…」

 耕平に上から声を掛けられたイサクは、少し慌てたように口の前に人差し指を立てると、『今そこに行くから待ってろ』という、見振り手振りで返答を送ってきた。

 見ていると、さすがは邑一番の怪力の持ち主らしく、何の苦もなく耕平のいるところまで、あっという間によじ登ってきた。

「いってぇ、どうしただ。こんなところまで、邑長。何かわかったのが…」

 イサクは、息切れもした様子もなく、耕平に聞いてきた。

「うむ、ここの邑長の家は見つけたが、お前こそこんなところで何をしてたんだ…」

「ほうが、そいつはよかつたな。おらもあっちこっち歩いでたら、おがスな着物ば着た三人組さ見つけたんだ。こいづはおがスいぞと思ったんで、どこまでも跡ば追っかけて来たら、この下の洞穴さ入って行ったんで、おらは見張ってたんだ。ほしたら、コウヘイ邑長の呼ぶ声がしたんで、おらは命が縮む思いがしただよ…」

「そうか、そいつは悪かったな。オレも今、この邑のクルミラ邑長に聞いて来たんだが、お前が見たという三人組は、オレがいた時代よりも遥かに遠い未来からやって来て、この時代に国を作りお前たちを、支配しようとしているらしいんだ…」

「何だって…、おらたちを支配するって云ってんのか…。おらはイヤだべ。絶対にイヤだべ。あんなデカいのや太いのやチッコイのに、こき使われるのなんておらは絶対にイヤだべ」

「何だい…。そのデカいのや太いのやチッコイのにって…」

 夢中で嫌悪感を露わにして、喋っているイサクに耕平は訊いた。

「ああ…、ヤツらのことだべさ。妙にヒョッロっとしたデカいのや、タヌキみたいに太いのとか、子供みてえにチッコいヤツラのことだ…」

「何だってそんなヤツラが、この時代を支配しようとしていのかは知らんが、黙って見ているわけに行くまい…」

「んで、どうすんだ…。邑長」

「しばらくは、ヤツラがどんな行動を取るのか見てみよう。それを見てからでも遅くはあるまい…」

 そんな話をしていると、下の洞窟から三人の男が出てきた。なるほど、背高のっぽの長身の男と、ズングリむっくりしたふとった男と、もうひとりは見るからに小学生並みの小柄な男だった。

「何だ。あれは…、昔テレビでやってた『脱線トリオ』そのままじゃないか…」

 男たちは山を下りると、何処へともなく立ち去ろうとしていた。

 耕平たちも急いで岩山を下りて、三人の後を追いかけようとしていた。

「いいか。イサク、ここは高地だから見失うこともあるまいが、しっかりと見張っていてくれよ…」

「それなら、でえじょぷだ。おらは目がいいんで、闇夜でもカラスとトンビが、見分けられるんだからな…」

「嘘をつけ…」

「ガハハハハ…」

 たわいもない話をしながら、三人組を追って山の麓まできた。

「ヤツラがどこに行って、何をしようとしているのかは、オレにもさっぱり分からんが、とにかく食い止める手立ては打たなきゃならん…」

 彼らが行き着いた先は、うっそうとした木の生い茂る森林地帯だった。

 そこには邑から強制的に借り出された、老若男女が木の伐採に取り掛かっていた。

物陰に隠れて見ていると木を切り倒している道具は、かつて山本徹が持ち込んだチェーンソーではなく、サパッという音とともにズザザザーッと、大木でも一瞬に切り倒してしまうという、耕平もこれまで一度も見かたことのないものだった。

『レーザーのようものを使っているのかな…』

 耕平はそんなことを考えてはみたが、あまりにも距離があり過ぎて判然とはしなかった。

「お…、邑長…。こんどは、まだおかスいのが出できたぞ…」

 イサクに言われて、耕平が伐採現場の近くに目をやると、脱線トリオとはまた別の制服らしいものに身を包んだ。新手の五人組が、伐採現場の三人を包囲するように、じわじわと近づいて行った。

 三人組を遠巻きにして、すっかり取り囲んだ五人の男たちは、何か言葉を交わしていたが、いきなり背高のっぽの男が発砲した。弾はひとりの男の頭上を掠めて、男たちも否応なしに交戦に転じた。

 背高のっぽとズングリむっくりした男は、たちどころに射殺されたのかその場に倒れこみ、一番背の低い男は姿をかき消すように、急に姿が見えなくなっていた。

「あ…、さてはタイムマシンで逃げたな…」

 ことの一部始終を見ていた、耕平は即座にそう思った。

 リーダー格の男が何かを命じると、四人の男は背高のっぽとズングリ男を、引き立てるように縄文時代から消え去った。

ひとり残った男は、計器のうなものを操作していたが、その手を休めると真っ直ぐ耕平たちが隠れている、岩陰を目指してゆっくりと近づいてきた。

「ど…、どうするべ…。邑長…、おらだちも殺されっつぉ…」

 邑一番の怪力の持ち主であるイサクも、見たこともない武器に恐れをなしたのか、ガタガタ震えながら耕平にしがみ付いてきた。

「大丈夫だよ。イサク、あの人は悪い人ではなさそうだ。安心しろ。むしろ、あの三人組のほうがよほど悪いヤツラに違いない」

 耕平がイサクをなだめていると、近づいてきた男もまるでふたりが、そこにいることを確信するように言った。

「そこに隠れていらっしゃる、おふたりに申し上げます。

 私は消して怪しい者ではありません。特に、そこにいらっしゃる佐々木耕平さんに、お伝えしたいことがございますので、どうぞ、安心して出てきて頂きたいと存じます」

 男は流暢な日本語で話しかけてきた。

「やっぱりそうか…」

「なんて云ってるだ…。邑長、おらには、さっぱり分かんねえだども…」

 イサクの問いかけには答えず、耕平は岩陰からすっくと立ちあがると、岩の前に立っている男のほうに出て行った。

「おお…、やはりあなたでしたか…。佐々木さん」

 イサクも耕平に着いて、オズオズと出て行った。

「こちらが縄文人の方ですか…。初めてお会いします。コンニチハ…」

 最後のコンニチハは、縄文語で言ったつもりらしいが、お世辞にもうまいとは言えない代物だった。

「申し遅れましたが、私は吉備野博士が時間犯罪を防ぐために、自ら組織された時間警備隊のヤマモトと申します。どうぞ、お見知りおきください」

「ヤマモトさんですか…。昔、わたしにも山本徹という友人がいたが、まさかそれとは関係ないよね…」

「いいえ…。私は、その山本徹の何世代も後の子孫にあたります…」

「ほう…。それじゃ、奈津実さんにも子供ができたのか…」

「はあ、その辺のところは、私も詳しくは解かり兼ねますが…」

「確か、オレがいたころは、山本と奈津実さんの間には、子供はいなかったはずだが…、養子でも貰ったのかも知れんな…」

 耕平は独り言のようにつぶやいた。

「それで、私の先祖の山本ですが、彼は学生時代から小説を書いていたそうです。それが後に、名前は忘れましたが、ある雑誌の新人賞を受賞しました。

 私の時代からすれば、古臭い文体の作品ですが、かなりの好評を得たようです…」

「そうか…、アイツ新人賞を取ったのか…」

「いえ、それだけではありません。山本はその後も順調に書き続けて、それから十数年くらい過ぎてから、直井賞という文学賞も受賞しました」

「ええ…、山本が直井賞を…、すごいな。それは…」

「はい、私の祖父も、わが家の誇りだと云っておりましたから…」

「もう少し話を聞きたいんだが、ヤマモトくんは時間のほうは大丈夫かね…」

「私も『チビタロウ』を追わなければなりませんが、少しの間なら大丈夫でしょう。チビタロウというのは、さっき逃げた男のニックネームです。しかし、ヤツはもう包囲されていますから、捕まえるのは時間の問題でしょう」

「それなら、わたしのところに行こう。と云いたいところだが、家までは二週間はかかるし、どうしたものかな…」

「それなら、ご心配には及びません。最近のマシンは吉備野チーフの研究成果によって、時間移動だけではなく、場所移動も可能になったのです。さあ、まいりましょう。佐々木さん…」

「おらも行くだか…」

「もちろんですよ。イサクさん、さあ、行きましょう」

山本徹の子孫と称するヤマモトは、瞬時にして山本が造ったロッジ風山小屋に着いた。

「私の先祖の山本徹という人は、かなり手先が器用だったようですね…」

 小屋に入ったヤマモトは、中を見回して歓喜の声を上げた。

「おお、これが囲炉裏と云うものですね。話には聞いたことがありますが、見るのはこれが初めてです…」

遥かな未来からやってきて、自分の先祖が造ったという山小屋に立って、感慨深げに想いを馳せるヤマモトだった。


  2

z耕平は、囲炉裏に小枝を置いて火をつけてから、充分に燃え上がるのを待ってから新たに薪を燃べた。

「いやぁ…、天然の火というのはいいものですね…。私の時代では、ほとんど見られませんからね。調理とかも、ロボットやなんかがすべてやってくれますから、今では一般の人が直接火を熱うこともありません」

 耕平は黙ってヤマモトの話を聞いていた。

「ですが、佐々木さん。私は思うのですが、人類にとって火の発見というのは、人類の発展史上においては、この上もないほどの大発見だったと思うんです。

 人類がまだ類人猿に近かった頃。身の危険を冒してまで、火山や自然発火した山火事の後に行って、残り火を待ち帰ったのが始まりとされています。

 それまでは生で食べていた肉も、火を通すことによってタンパク質などの摂取を、より効率的に高めることに繋がりました」

「君もなかなか博学だね…。さすがは山本の子孫だけのことはある…」

「こんなことは誰でも知っている、ごく普通のことでしょう…」

「まあ、それはそうだが…。ところで、君がさっき射殺したノッポ男と、ずんぐりむっくりした男は、君の部下が連れ去ったようだが、彼らはどうなるんだね…」

「射殺だなんて、とんでもありません。私たちの時代には、私のような公的な職務にあるものは、時間犯罪者たちの悪逆非道な行為であっても、その者を射殺するなどという行為は、一切認められてはおりません」

「しかしだね…。現に君たちは、先ほどわたしの見ている前で、あのふたりを殺してしまったのではないのかね…」

「ですから、あれは違います。あれは麻酔弾でしばらく眠ってもらっただけで、あとは本部に連れて返って、良心に目覚めてもらうだけです。例え、どんなに悪い人間でも生まれてきた時は真っ新で、何もわからない状態で生まれてきます。

それが大人になるにつれて、雑多なものが取り込まれて行って、ある者は普通の人生を歩み。また、ある者は悪の道に走り犯罪を犯す者もいるでしょう。

しかし、それらの犯罪者にも心のどこかに、自分の生まれる時に持って生まれた、何者にも冒すことのできない、良心というものがあると思うんです…。

私らの役割は、そう云った犯罪者を取り締まるだけではなく、犯罪者自身が失いかけいる真の良心を,復元させてやることこそが最も重要だと、吉備野チーフから聞かされたことがありますす」

ヤマモトは、そこで一旦言葉を切った。

「それで…、ヤツらはどうして、この時代にやってきて支配しようなどと、考えたんだろうか…。もしかすると、君の時代にはすでにタイムマシンが、一般化しているのかね…」

「いえ、とんでもありません。タイムビジョンのほうは、一部研究者のために開放されていますが、ことRTSSに関しては吉備野チーフが、ことのほか慎重でありまして…」

「それは、そうだろうな…。あんなものが一般的に出回ったら、それこそ大変なことになるのは間違いない。それにしてもあの三人組は、どうやってタイムマシンを手に入れたんだね…」

「それがですね。吉備野チーフの研究所にチビタロウが忍び込んで、小型のRTSSを持ち去ったというんですよ。

 うちのチーフも、いづれはこんなこともあるだろうと考え、われわれ時間警備隊を組織して置いたのは正解でしたよ」

「うーむ…、あの窃盗団はそんなにすごい連中だったのか…」

「ええ、特にチビタロウは体が小さいから、逃げ足が素早くて私たちも手を焼いています」

「しかし、彼がマシンを持って逃げたとなると、いつ頃の時代に行ったのか、割り出すのに大変だろう…」

「いえ、その心配ならいません。これもうちのチーフが考案したものですが、盗まれたRTSSにはどこに行ったとしても、たちどころに分かるステムが装備されておりますので、まず一〇〇パーセント間違いなく逮捕できるでしょう」

 ヤマモトは、タバコのようなものを取り出すと、その中の一本を口に咥えた。

「ほう…、それは未来のタバコかね…。わたしは吸わないのでわからないが、山本もしょっちゅうプカプカやってたな…。

 やっぱり、君は山本の子孫なんだねぇ…。そうやって、タバコを吸っている姿を見ていると、山本を彷彿とさせるものを感じるんだ…」

「これですか…。これはタバコと云っても、昔のものとはまったく違うものなんです。これはですね。従来のものから有害物質をすべて除去したもので、まさに夢のタバコと云えるでしょう。それでも、ちゃんと喫煙感は損ないませんから、タバコ好きだった私の先祖の山本徹にも、一度は吸わせてあげたかったですよ…」

 山本もタバコが好きだったと聞いて、未来からきたヤマモトがしみじと言った。

 その時、ヒューッという信号音がして、ヤマモトは急いで計器を操作した。

「チビタロウの身柄を確保したそうです。なかなかすばしっこいヤツでしたが、どうにか取り押えたようです。それでは、私も行って見なければなりません。これで失礼しいと思います」

「おう、それは何よりだったね。わたしらふたりを、また南の邑までお送ってもらえんだろうか…」

「もちろんですよ。私の先祖の大事なお友だちですから、お送りしましょう。元の場所でよろしいんですね」

 ヤマモトが計器を操作すると、瞬時にして三人の姿は元の南の邑の中にあった。

 邑では多くの人々が藻塩を運んだり、天日に晒して海水をかける作業に従事していた。

「いやぁ、邑の人たちもみんな解放されて、元の暮らしに戻ったようですね。こうして、何に事もなくみなさんが暮らせるように,陰ながら見守ってあげることが、私たちに課せられた仕事ですからね。

 それでは、私は行ってみます。機会がありましたら、またお逢いいたしましょう。佐々木さんにお逢いできて、私も嬉しく思っています」

「ああ、こっちこそ送ってもらって、礼を云わなけばいけないところだ…。吉備野博士にもよろしく伝えてくれたまえ…」

耕平が別れの言葉をかけると、ヤマモトの姿は一瞬にしてその場から消え去っていた。

「さて、オレたちもクルミラ邑長のところへ、もう一度顔を出してみよう」

「それぬしても、おらぁビックリこいただ…。おらたちは何日もかけて、ここまで来たちゅうのに、あのヤマモトっちゅう人は、あっという間にここと邑長のところば、往ったり来たりすんだから、これが驚かずにいられっか…」

「まあ、そう云うな。イサク、お前には云ってもわかるまいが、そういうものなんだよ。文明というのはな…。あのヤマモトくんはオレよりも遙かに遠い、明日の世界からやってきたんだからな…」

話しながら歩いて行くと、クルミラ邑長の住居が見えてきた。家の前では子供たちが遊んでいたが、その中のひとりが耕平たちを見つけると、ふたりのところに飛んできた。

「やあ、おじさんたち、また来たんだね。お父やお母ァ、お兄ィたちもみんな帰ってきたんだよ。今おじいを呼んでくるから、ちょっと待ってて…」

しばらく間が空いて、クルミラ邑長が家の中から出てきた。

「おお…、これはここれはコウヘイ邑長。よくぞお出でくだされた。家の者たちも、邑の者たちもみんな帰ってきましてな。まずは中でお休みくだされ…」

 クルミラは耕平とイサクを中に招じ入れて、

「コウヘイ邑長が連れの人を探しに、山手のほうに向かわれてから…、ああ…、この人がそうですかな…。

なかなかか戻らないんで気をもんでいたら、しばらくすると家の者も邑の者たちも、ぞろぞろ戻ってきましたんじゃ…。これはコウヘイ邑長が何かをやってくれたんだなと、感謝をしておったところだったんですわい…」

「いや、わたしは何もしておりませんよ…。ただ、明日の世界からあの連中を捕まえにきて、連れて帰っただけのことですよ。嘘だと思ったら、ここにいるイサクにも聞いてくだ                   さいよ。彼が一緒に見ていた唯一の証人ですから…」

イサクも喋りたくて、ウズウズしていたところだったから、待ってましたとばかりに話し出した。

「ああ、ホントだともよ。邑長、おらとコウヘイ邑長が見てる前で、あっという間にノッポとデブを、ぶっ倒しちまったんだからよ。おらぁ、ビックリこいだのなんのってなかっだよ。邑長、ほんに世の中にはたまげるとばっかりだでよ…。命が縮む思いがしただよ…」

あまり言葉が巧みでないイサクも、自分が見たこと感じたことを率直に話した。

「でも、よかったですじゃ…。みなが戻ってきてくれて…。このままでは、子供たちとわしら年寄りだけでは、どうすることもできなかったですだ…。ほんに大助かりですだ…。これで、また元の暮らしに戻れますだ。ほんにありがとうごぜえました…」

「いや、そこまで礼を云われるようなことは、わたしらは何もしていません。ですから、どうぞ手をあげてください」

「それてしたら、みなが無事に帰れたことを祝って、今晩宴がありますのじゃ。一緒に酒でも飲んで、祝ってやってくださらんかのう…」

「お言葉はありがたいのですが、わたしらもこれから東の邑に行って、それから北の邑に寄ってから、西の邑に戻ろうと思っています。そういつまでも、邑を開けておくわけにはいきませんので、この辺で失礼したいと思います」

「そうですか…、それなら仕方がありませんな。無理にはお止めはしますまい。くれぐれも体に気を付けてお行きくだされ…」

 こうして、耕平とイサクはクルミラの家に暇(いとま)を乞い、またふたりで気ままな旅に出かけて行った。

「だども、もったいないことしたな…。あの酒、一杯(いっぺえ)ぐれえはごっつぉうになってもいがったんでねえのがな…。邑長」

「おい、おい、そうさもしいことを云うなよ。イサク、そんなに飲みたかったら、今度オレがご馳走してやるから…」

「んだども,あの邑長がせっかぐ用意してくれだんだべ…。そんでも断らなくちゃなんねえだが、なしてだ…。ああ…、もったいねえ。もったいねえ…」

 イサクは、よほど南の邑の酒が飲みたかったのか、まだブツブツと愚痴をこぼしながら歩いて行った。

 東の邑に向かって歩み続けたふたりも、いつしか日暮れに差し掛かってきて、どこかにねぐらを探そうと躍起になっていた。

「この辺には、オレもあまり来たことがないんで不案内なんだが、お前はどこかに洞穴のようなものがあるところを知らないか…」

「おらもこったなどこ来たごどねえがら、さっぱス分かんねえなぁ…」

「しょうがない、どこかその辺に野宿でもするか…。その前に何か食い物を調達しないといかんな…。よし、手分けして獲物でも狩ろうか…」

「よス、わがった。さてど、こごいらには何がいっかな…」

 イサクは、きょろちょろと周辺を眺め回したが、どこにも動き回っている動物は見えなかった。

「まだ、日暮れまでには間がある。もう少し向こうのほうに行って見よう。草原とは違う何かがあるか知れない…」

 耕平はイサクを促して、少し離れた樹木の生い茂っている、森の方向へと足を向けて行った。森の入り口まで来た、耕平はふとこんなことを漏らした

「日暮れになるまでは、まだ少し時間はあるが中に入って、迷いでもしたら大変だな。何かいい手はないかな…。何かないか。何か…、そうだ。これがまだ少し残っていたな…」

 耕平は腰に下げた袋の中から、パラフィン紙に包まれた数個の爆竹を取り出した。

「邑長、何だ…。それは一体…」

 イサクが怪訝そうな顔で訊いた。

「これは爆竹と云ってな。ここに火をつけてやると、火山のような爆発を起こすんだ…」

「ひゃー、こだなものが爆発すんのげ…」

「そこでだ。力自慢のお前の腕を見込んで、これを矢の先に結わえてオレが火をつけたら、すぐにあの森の真ん中あたりの上空に、撃ち込んでほしいんだができるか…。どうだ。イサク…」

「何だ…。ほだなごどが…、森の真ん中でも飛びっ越したあっち側でも、どごへでも打ってやっから早く貸せ…」

イサクは弓に矢をつがえると、耕平が爆竹を括り付ける待った。

耕平は急いで、イサクの差し出した矢に爆竹を取りけると、これもまた置いて行ったマッチで火をつけた。

「さあ、早く撃つんだ。イサク、時間はあまりないぞ…」

イサクは、言われた通り力の限り弓を引き絞ると、森の頂点の空を目がけて爆竹のついた矢を放った。

イサクの矢は森の真ん中あたりに近づくと、放物線を描いて落下して行った。それと同時に爆竹が炸裂し始めた。パーン、パパーン、パパパーン、パーン…。爆竹の炸裂音が森中に木霊した。森の上空には、この森に生息する鳥たちが一斉に飛び立っていった。

 続いて地上でも、森のいたるところから様々な動物たちが、耕平たちには目もくれないで、一目散に駆け出し何処へともなく走り去って行った。ただ、イノシシだけは一旦驚いたりすると、前方に何がいようともお構いなしに、突き進んでしまう習性を持っている。ここから猪突猛進という言葉が生まれたらしい。

 その群れの中から一頭だけ、耕平とイサクのほうに突き進んできた。

「おや、なんて命知らずのヤツなんだろう。おらたちの腹ン中に入るとも知らずに、可哀そうに…、迷わず成仏しろよ…」

 拳大よりひと回り大きめの石を握ると、イサクは大きく振りかぶると突進してくる、イノシシの頭部目がけて力いっぱい投げつけた。

イノシシは地響きとともに、ふたりを目指して突進してきた。イサクの投げた石は、それと同期するかのように飛んで行き、『ズシャー』という鈍い音を立てて、見事にイノシシの前頭部に命中した。イノシシは突進をやめると、五・六歩前進したとところでパタリと倒れた。

「こいづは、よく肥えでて美味そうだ…。どんれ、ほんじゃ運ぶとすっか…」

「おい、ひとりで大丈夫か…。オレも手を貸そうか…」

「なぬ云ってんだ。邑長、おらは邑一番の力持ちと云われてんだぞ。こだなものは、小指の先でちょちょいだ。まあ、見でてけろ…」

 イサクはそういうと、イノシシの両足を二本づつ掴んで軽々と持ち上げ、まるで荷物でも背負うように、自分の肩に担いで歩き出した。

 こうしてふたりは、元いた場所に戻ると耕平がイノシを解体し,夕餉の準備に入り夕食を取った。夕食が終わった頃には、日はとっぷりと暮れて、ふたりの焚いている炎だけが、赤々と周囲を照らし出していた。

「いんやー、うめえがったな…。腹がいっぱいになったら、おらぁ何だか眠たぐなっちまっただ…」

「よし、それじゃ、オレが見張っててやるから、お前は先に寝ろ。この辺は慣れない土地だから、何がいるか分かったものじゃないからな…」

「とんでもねえ…。邑長に見張りさせて、おらが先に寝だなんて邑の長老に知れだら、おらぁ大目玉喰らっちまう。おらのごとなんて気にしねえで、邑長が先に寝でけろ」

「誰が、そんなことを云いつけるんだ…。オレは云わないし、お前が云わない限り誰にも分からないんだ。いいから、そんなことは気にせずお前が先に休め…」

「いんや、そうは行かねぇ。おらは邑長よりも若(わけ)えんだ。それが邑長よりも先に寝だとあっては、おらの沽券に係わるつうもんだ。何も心配しねえで邑長が先に寝でけろ」

 イサクは、頑として耕平の申し入れを拒んだ。イサクにしてみれば、邑の長老たちよりも年上の耕平に、見張りをさせて先に寝るということは、自分のプライドが許さないのだろうと耕平は考えた。

「分かったよ。イサク、お前の言葉に甘えて、オレは先に寝かせてもらうよ。

 いいか、イサク。何かあったら、すぐにオレを起こすんだぞ。この辺にも夜行性の獣たちがいっぱいいるはずだから、火だけは絶対に絶やすんじゃないぞ。それに何かあったら、すぐにオレを起こすんだぞ。いいな…」

「ああ、分かっただよ。邑長、どんぞ安心して寝でけろや…」

 耕平は焚火の傍で、火に背を向ける形で横たわった。ふと夜空を見上げると、満天の空には数限りない星々が、光り輝いているのが見えた。

 そして、耕平は昔山本と一緒に、夜空を見上げたことを思い出していた。思い出しながら、アイツとも二度と会うこともないだろうと、考えながら耕平はいつしか深い眠りに落ちて行った。

「コウヘイ邑長…、起きてけろ…」

 イサクに揺り起されて、耕平は目を覚ました。

「何だ…。どうした何かあったのか…」

「オオカミだ。あれを見でけろ…」

 耕平が辺りを見ると、焚火を反射して光る眼が、ふたりを取り囲むように並んでいた。

「こっちには焚火があるから、簡単には襲ってこないだろうが、何とかしないといかんな…。爆竹がまだ残っていたな…。これでヤツラを追っ払ってやるか」

イサクが弓を用意すると、矢の先に爆竹を結わえ付け、焚き木を一本取り出して火をつけた。

「いいか、これを急いでオオカミたちの後方に打ち込んでくれ」

「よし、わがった…」

 イサクは弓を夜空に向けて、力いっぱい引き絞って打ち上げた。矢は弧を描くように飛んで行くと、オオカミたちの後方に落ちて炸裂した。

 パパン、パパパン、パーン…。爆竹の炸裂音に驚いたオオカミたちは、蜘蛛の子を散らすようにして、耕平たちの周りから一目散に逃げ出して行った。

「これでひと安心だ。朝まではまだ時間がある…。今度はオレが見張りをするから、イサクも少し休め…」

「何を云うだ…。邑長、まだ寝だばかりでねえが、もう少し寝ででけろ」

「いや、オレもういい。それに少し考えごとがあるから、イサク先に休んでくれ」

「そうが…、ほんじゃ先に寝がせてもらうがな…」

 耕平に言われて、イサクは素直に横になるとすぐに寝息を立て始めた。

『爆竹が無くなってしまった…。あれは結構役に立ったな。山本が買ってきた子供の玩具だが、何回か命拾いもさせてもらった…。爆竹がなくなった以上、それに代わる火薬を造らねばなるまい…。

 確か、黒色火薬は木炭を粉末にしたものと、硫黄と硝石を混合して作るんだったな…。この旅を早めに切り上げて、邑に戻ったらさっそく製作に取り掛かろう…。硫黄と硝石は旅の道々探していけばいいか…。

割合は実験しながら確かめればいいし、これが成功すれば画期的だぞ。何しろ、縄文時代に黒色火薬だからな…』

 そんなことを考えながら眠りについて、耕平とイサクは翌朝になると東の邑に旅立って行った。


     3

 耕平とイサクは、東の邑と北の邑の視察を早々に切り上げると、西の邑へと引き上げて行った。。

 耕平は自分で思い付いた割りには、密やかに内側から湧き上がってくる、興奮を抑えることが出来なかった。

 それは、そうだろう。縄文時代に黒色火薬を造ろうなどということを、いったい誰が考えるだろうか。黒色火薬を造るに、木炭・硫黄・硝石が必要なことは、耕平も知ってはいたが硝石自体が、どんなものなのかどこで採れるのか、皆目見当もつかない状態だった。

 かと言って、火薬の「か」の字も知らない、縄文人に聞くわけにもいかず、耕平もほとほと手をこまねいていた。

『やっぱり、素人が火薬を造ろうとするのは、無理なんだろうか…。もし、山本ならこんな時、どうするんだろう…。アイツは昔っから、思い込んだら命がけみたいなところがあるからな。ホントに、どうするのかな…』

 耕平は、自分の想いと山本への思い込みが、一緒くたになって山本徹のことを、思い浮かべていた。

『アイツは、昔から無鉄砲なところがあった…。河野さんの大雑把な知識を信じ、それを鵜呑みにして、ろくすっぼ知識もなく縄文時代まで、オレを探しに来たんだから、まったく呆れてしまうよ。

 逢えたからいいようなものの、もし少しでも時代がずれていたら、どうする気だったんだろう…。山本は…、だけどアイツの実行力だけは、褒めてやらなくちゃいけないな…』

 そんなここことを考えながら、耕平は何の知識もなく火薬を造ろうとした、自分の浅はかな行為を恥じた。耕平の知っている硝石のイメージは、半透明のガラスに似たような鉱石、というくらいの知識しか持っていなかった。

 それがどこで採れるのか、縄文時代の日本には硝石自体が、存在しているのかどうかさえ、まったく把握できていなかったからだ。

『これではどうにもならん。木炭と硫黄ならどうにかなるが、硝石だけはどんなものでどこにあるのかさえ、オレはまったく知識をも持っていない…。やっぱり、黒色火薬の製造は諦めるしかないか…』

 耕平はため息交じりに、そんなことを考えていた。

『これでいいのか知れないな。歴史にも縄文時代に、火薬があったなんて記録は残っていないんだから…』

 そうは考えても、火薬は無理でも邑に何かあった時に、それを守るための火薬に代わる、何かは必要ではないかと思った。

 それがあってから、また耕平は自分の部屋に籠るようになった。部屋に籠って耕平は、ひたすら新しい武器の研究に没頭した。部屋に籠ってから五日目の晩に、ひとつのヒントのようなものを見出していた。それは昔テレビドラマで見た、西部劇に出てきたガトリング砲だった。ガトリング砲というのは、ハンドルを回すと丸い筒状の銃身が回転して、連続して弾丸を発射できる銃のことである。

 しかし、ここは縄文時代で火薬がないから無理だ。銃がダメなら弓矢で代用できないかと考えた。そして、耕平は連射式の弓というのは、出来ないだろうかと考えていた。

『ん…、連射式の弓か…。弓なら考えてみる必要性があるな。ひとつ腰を据えて研究してみるか…』

 しかし、弓は矢を弦につがえて飛ばす武器で、矢を引いた弦を固定しておくには、よほどしっかりと留めておかないと、危険極まりない限りだ。耕平の考えた連射式の弓では、独りの時ならともかく周りに人がいて、何かの弾みで誤射などをした場合には、最悪の場合ひとりの人間の生命を、奪い兼ねない状況に陥ってしまうからだ。

『やはり、専門的な知識と技術がないとダメか…。あのガトリング砲だって、鍛冶屋がいたからできたんだし、日本に種子島銃が伝来した時だって、時の権力者が日本中から刀鍛冶を集めて、二丁の模擬銃を造らせたのが始まりで、それが日本中に広がって行ったんだったな…。

 だが、ここは縄文時代…。オレには連射式弓の矢を安全に固定する、技術も知識も持ち合わせてはいない。縄文時代じゃ、あまり役に立たない知識ばかり、いっぱい持ってはいるが、実践的に縄文時代で役立つものは何もない…』

 耕平は、そんなことを考えながら、自分の無力さと何もできないでいる苛立ちに、大きくひとつため息をついた。

 縄文時代の武器は弓と槍と、黒曜石で造った石斧くらいしかない。中でも石斧は、武器というよりも木を切り倒したり、木を割ったりする役割のほうが多い。

 それでも耕平は、縄文時代でも弓や槍のほかに、誰でも簡単に作ることができる、武器はないものかと夢中で思案に耽っていた。

 こうして、耕平は連日のように、新しい武器の考案に没頭する日々が続いていた。

 そんなさなか、コウスケがひさしぶりに、耕平のもとに顔を出していた。

「どうしたんだい。お父…、最近は家の中に籠ってばかりで、あんまり外にも出ないそうじゃないか。どこか身体の調子でも、悪いんじゃないのかい…」

「いや、オレはどこも悪くないぞ。それよりコウスケ、お前ともだいぶ逢ってないが、カミラも元気でやってるのか…」

「ああ、元気だよ。ところで、お父。あまり家の中ばかりいると、体に悪いよ。どうだい、たまにはおいらと狩りにでも行かないかい…」

「うーむ…。行ってもいいが、それよりコウスケお前に聞くが、オレは最近ずっと考えていたことがあるんだ。弓や槍以外で誰でも簡単に作れる、新しい武器はないものだろうか…」

「あるだろう。ほら、お父が教えてくれたブーメランが、あれじゃダメなのかい…」

「ブーメランか…、あれはあれでいいさ。あれはな。コウスケ、お前だけのものにしておけ。オレが造りたいのはな。いままでにない、まったく新しい武器が欲しいんだ。何かいい案がないものだろうか…」

「まったく新しい武器か…。うーん…、お父に思いつかないものを、おいらが思いつくわけないだろう。おいらはお父みたいに頭もよくないしさ…」

「そんなことはないさ。お前はオレの息子にしては、よくできたほうだぞ。女の子にもモテるし、カミラみたいないい嫁さんを見つけてくるし、オレなんかよりもよほどモテるんじゃないのか…」

「そ、そんなことないって…。カミラの場合は、たまたま向こうが好きだって云うし、カミラのお父もおいらのお父のことを、『何でもよう知っている、神さまみたいな人だそうだ』と、云う噂をまるっきり信じていて、『そういうお人の息子なら、ぜひともうちの娘を嫁にもらってけろ…』って頼まれたんだ。やっぱりおいらなんて、お父の足元にも及ばないんだよ。

 やっぱり、明日の明日の、そのまたずうーっと明日の世界って、すごいところなんだろうね。お父…、おいら羨ましいな…」

 コウスケはいつか耕平から聞いた、二十一世紀の世界に思いを馳せていたが、縄文の時代に生を受けたコウスケには、二十一世紀がどんな世界なのか、まるっきり想像もつかなかった。

「何かないものかな…。考えれば、きっと何か思いつくはずだ…」

 そういうと腕組みをして、耕平はさらに考え込んで行った。

「ねぇ、お父…。やっぱり狩りに行こうよ。そうすれば、何かいい考えが思いつくかも知れないよ。それに気分転換にもなるしさ」

「うーむ…。気分転換か、それも必要だな…。よし、行こうか…」

 コウスケに言われて、耕平もその気になったらしく、家の隅に置いてあった弓と矢を手に取ると、耕平はすっくと立ちあがった。

「さあ、行こう。確かにお前の云うとおりだ。考えてばかりいても始まらんからな」

「そう来なくっちゃ、さすがはお父だ。話が早いや…」

「それで、どこに行こうと云うんだ…。コウスケ」

「うん、おいら今日は、ぜひ行って見たいところがあるんだ」

「ほう…、コウスケにしては珍しいことを云うもんだ。お前ほど、この辺の地理に詳しいヤツはいないと思っていたのに、まだ行ってないところでもあったのか…」

「それはあるさ…。ほら、お父も知ってるよね。邑の西の外れにある、通称『迷いの森』と呼ばれている、結構深い森があるのわかるだろう。

 実はおいら、あの森を越えた向こう側には、一度も行ったことがないんだ。しかも、あそこら辺りには、変な噂が立っているの知ってるかい。お父は…」

「知らんな…。どんな噂なんだ。コウスケ…」

「へぇ…、お父でも知らないことがあるんだね」

「それはオレだって、コウスケと同じ人間なんだから、知らないことだってあるさ。それで、どんなことなんだ。その噂というのは…」

「うん、おいらも噂で聞いただけだから、詳しくは知らないけど、何でも、化け物みたいな大きな生き物が、動き回っているみたいなんだ。周りの動物たちを片っ端から捕まえては、自分の餌にしているって話しだよ。

 単なる噂だけだから、おいらもあんまり本気にしてはいないんだけど、そんな化け物みたいな生き物って、本当にいると思うかい…。お父は…」

「うーむ…、お前の話だけでは何とも云えんが、オレには察するところ何かこう、恐竜のようなものを彷彿とさせるんだが、まさか縄文時代に恐竜がいるはずもないしな…」

「何だい。その…、恐竜とかって云うのは、お父…」

 耕平が独り言のようにつぶやいた、恐竜という初めて聞く言葉に、いち早く反応を示したコウスケが訊いた。

「恐竜というのはな。コウスケ。われわれ人間も、この地上に生れてもいなかった大昔から、地上をわがもの顔で闊歩していたんだよ。人間の何百倍あるか分からないくらいの、草食あり肉食あり雑食系ありという、もの凄く巨大な生き物が何億年か前に、ここいら辺りにも闊歩していたんだろうな…」

 コウスケは身を乗り出すようにして、耕平の話すことを熱心に聞き入っていた。

「恐竜というのは、体が巨大な割には脳が小さくて、その分尻尾をケガしても脳に伝わるまで、かなりの時間がかかったというから、考えてみれば可哀そうな生き物だな…」

「それじゃ、お父はおいらが聞いてきた噂の化け物が、その大昔にいた恐竜とかいう怪物だと云うのかい…」

「しかし、いまは縄文時代だし、恐竜がいたのは原始時代だよな…。それに白亜紀末か何の大量絶滅で、鳥類系のものを除いてすべて絶滅したはずだ。

それがなぜ、この時代にそんなものがいるわけがのか…。よし、とにかくお前が聞いてきた噂が、嘘か誠か一度この眼で確かめてみる必要があるな。うーむ…。

 そうだ。イサクはまだ邑に残っているのかな…。コウスケ、お前ちょっと行って見てきてくれ。もし、いたら一緒に出掛るから、すぐ来てくれと云って呼んで来てくれないか。

 アイツの怪力ぶりは、あれでなかなか頼りになるからな…」

「うん、わかった。イサクを呼んでくればいいんだね」

 コウスケは、いうよりも早く飛び出していくと、間もなくイサクを連れて戻ってきた。

「邑長、おらになぬか用だがね」

「おお、イサクか。実はな。これこれこういうわけで、ぜひお前の力を貸してほしいんだが、お前のほうの都合はどうだ…」

「云ってるだ。邑長、おらが邑長の頼みば、断われるはずあんめぇ。化けモンだろうが、怪物だろうが、みんなおらがやっつけてやっから、心配すんな」

「いやぁ、お前が一緒なら百人力、いや二百人力ってところだな。よろしく頼むぞ。イサク。それではすぐに出発するぞ」

 こうして耕平は、コウスケとイサクを連れて邑の外れにある、邑人たちから迷いの森と呼ばれている、森林地帯を目指して歩き出した。

 なぜ迷いの森などと呼ばれているのかというと、山菜などを採りにいった邑人たちが、あまりに森が深いために迷い込んで、帰ってこれなかった者たちが、十人や二十人では効かなぃところから、いつしか邑人たちからそう呼ばれていた。

 やがて、迷いの森の近くまで来た時、耕平がコウスケとイサクに注意を促した。

「いいか、コウスケ、イサク。ここから先は邑の人たちでさえ、滅多に近寄らないところだと聞いている。お前たちも充分注意して進むんだぞ。オレたちがこの森で迷いでもしたら、邑のみんなの笑いものになるだけだからな。それじゃ、行くぞ…」

 三人は揃って森の中へと踏み入って行った。耕平自身も、この森に入るのは初めてだった。森の中は、外から見るよりうっそうとして、意外に深い森であることが分かった。

「こりゃあ、ずいぶん深い森だぞ…。いいか、コウスケにイサク。お前たちもオレから離れるなよ。それから前に進む時は周りの木の枝を、こうやって折って進むんだ。こうしておけば、帰りの目印になるから、決して迷ったりもしないんだ。お前たちも覚えておくといい…」

 耕平とコウスケは、道なき森の中を耕平がサバイバルナイフで、前途を塞いでいる枝葉を払い除け、イサクはイサクで行く手を阻んでいる樹木を、片っ端から根こそぎ引き抜き倒して進んで行くと、ようやく森の外れまで辿り着くことができた。

「ふうー、やっと森の外れまで来ることができたか…。それにしても、かなりしんどい森だったな…」

 と、いま来た森を耕平は振り返った。

「さぁてと、果たして、この縄文時代に恐竜の生き残りだか、何だか知らんが本当にいるのかいないのか、白黒はっきりつけてやる…」

 耕平たち三人は森から抜け出ると、天まで届きそうな巨木が点在する草原が、目の前に果てしもなく広がっていた。

「こう途方もなく広いと、どっちに行けば恐竜の生き残りとやらに、出くわせられるのかさえ判然としないぞ…。ふーむ…」

 何ごとかを考えていた耕平だったが、コウスケのほうを振り向くと口を開いた。

「コウスケお前には悪いが、一遍邑に戻ってムナクを呼んできてくれないか。

 この界隈ではムナクの弓は、彼の右に出る者がいないという凄腕の持ち主だ。いくら恐竜が巨大な体を持っていようと、目を射抜かれては手も足も出せまい…。

 お前がムナクを呼びに行っている間、オレとイサクはもう少しこの付近の辺りを、詳しく調べておくから、頼んだぞ。コウスケ」

「うん、わかった。それじゃ、おいらひとっ走り行ってくるから、待ってて…」

「頼むぞ。イサクが大分立ち木を引き抜き倒したから、もう迷うこともあるまい…」

「それじゃ、行ってくるよ。お父」

 そういうと、コウスケは踵を返すように、いま来た森の中へ姿を消して行った。

 それからふたりは、巨木が林立する広大な草原を歩き回ったが、恐竜がその辺にいるような、気配も痕跡も感じ取ることはできなかった。

「うーむ…。やはりこれも単なる噂に、過ぎないのかも知れんな…。大体において縄文時代まで、恐竜が生存していたなどという話は、これまで一度も聞いたこともないしな…」

 耕平は、自分自身を納得させるように呟いた。

「まあ、とにかく調べるだけは調べてみよう。しかし、あまり遠くまで行くなよ。コウスケたちが、見つけられなくなると困るからな…」

「わがっただよ。邑長、ほだぬ遠くさ行かねばいいんだべ」

 こうして、ふたりは恐竜が実在するという、痕跡をしばらく調べ回ったが、そのような痕跡は一向に見つけられなかった。

「なあ、邑長。その化けモンはおらだちと同じように、餌も喰えば糞もたれるんだべ…」

「そりゃぁ、するだろうな。恐竜だって、オレたちと同じように生きているんだから、糞もするだろう…」

「だども、邑長。コウスケから聞いたんだども、その化けモンっていうのが、体が山ほどでけえって云うでねえだが…。

 ほっだな、体がでっけえヤツの糞なら、そこらの小山ぐれえはあんめえに、その糞も見当たんねえ…。コウスケの聞いてきた話は噂だけで、ホントにいんだべがな…。邑長」

 イサクに云われるまでもなく、恐竜がいた頃の地球は気候も温暖で、動物も植物も現代とは比べ物にならないくらい、巨大化していたと考えられている。

「それはオレにも何とも云えんが…、昔から『火のないところに煙は立たぬ』というから、いるかいないかは別として、ここまで来たんだから徹底的に調べてやる…」

 果たして、この縄文の代に何億年もの昔に、絶滅したと言われている恐竜が、本当に生存しているのか耕平にも疑問だったが、その辺のところはやり始めた以上は、何としても白黒をはっきりさせてやろうと決めていた。

「お父ー、ムナクを連れてきたよー」

 と、コウスケが息急き切って、ムナクとふたりで走ってくるのが見えた。

「おお、ムナク来てくれたか。実は、ぜひ君の弓の腕を借りたいと思ってな」

「話は道々コウスケから聞きました。それで、その怪物とやらはどこにいるんです。コウヘイお父」

「うむ、それがな。いまもイサクとふたりで、あちこち見て回っていたんだが、この辺にはそれらしい気配もないし、イサクが云うとおり奴らの糞も落ちてないんだ…」

「それじゃ、お父はおいらの聞いてきた話は、単なる噂話だっていうのかい…」

「そうは云わんよ。オレたちはほんの少しだけ、この辺を見て回ったに過ぎない。

しかし、この辺一帯は見ての通り広大な平原だ。まだまだどこに何が潜んでいるか、まったくわからん状態なんだ。

これから、ここいら辺りを徹底的に探索したいと思う。何日掛かっても構わんから、みんなの協力を頼みたい。それから、コウスケ。お前はもう一度邑に戻って、昔山本が残して行った、テントを一式持ってきてくれないか。どうも、今回は長丁場になりそうだからな…」

「うん、わかった。あの山小屋にあるやつだね。それじゃ、おいら、これから取りに行ってくるよ」

 コウスケは三人に別れを告げると、邑に戻るためにイサクが怪力で引き抜き倒した、原生樹の生い茂る迷いの森の中へ、瞬くうちに姿を消して行った。

「ほんにコウスケは、いづ見でも元気でいいな…。おらぁ、羨ましいぐれえだ…」

「何を云っているんだ。イサク、お前にだって誰にも負けない、怪力というものがあるじゃないか。人間は誰だって、年を取って老いていくんだ。コウスケもまだ若いから、ああして元気に振舞っていられるが、それだっていつまで続くか分らないんだ。人間というものは、みなそういうものなのだよ」

「だども、邑長。おらもそろそろ歳だで、やっぱすコウスケどがムナクみでえな、若えヤツらが羨ましくてなんねえ…」

「そんなに寂しいこと云うなよ。イサク、お前は歳だと云ったって、オレよりもまだ大分若いじゃないか。まだまだこれからだ。もっと元気を出せよ…」

 耕平は慰めたつもりだったが、縄文人の平均寿命が三五・六歳と言われていた。

 現に耕平の妻のウイラも、実際の年齢は耕平自身にも判らなかったが、三十歳前半の若さでこの世を去っていた。

 それから、しばらくしてコウスケが、テントの用具一式を背負って帰ってきた。

「ご苦労だったな。コウスケ、ここはオレとコウスケで間に合うから、ムナクとイサクは今晩の食料でも、調達してきてくれないか…」

「いや、狩りならおいらひとりで大丈夫だから、イサクはふたりの手伝いでもしてやりな」

「いんや、おらも行ぐだ。鳥やウサギなら、おめえひとりでも運べるべえが、もしカモシカや野牛だったら、おめえどうする気だ…」

「その時は、その時だ。その時はお前を呼んでやるから、それまでコウヘイお父の手伝いでもやってな…」

 そういってムナクは狩りにと出て行った。

「なんだと、おらを邪魔にすんのが…。こらー」

「いいから、いいから。そう喚かないで、こっちに来て手伝え…」

 耕平に言われて、イサクはブツブツ言いながらも、三人してテント張りの作業を開始したのだった。


   4

 翌朝から恐竜の本格的な探索が始まったが、このだだっ広い平原のどこに行けば、恐竜に出喰わせるられるのか、誰ひとりとして知る者はいなかった。

「恐竜というのは、草食もいるが大体は肉食獣だ。草食獣はそうでもないが、肉食の恐竜たちは仲間同士で、殺し合いをしては共食いするという、壮絶な世界だったらしいな…。

だが、これだけ広い荒野だと、その恐竜もどこにいるのやらさえ、さっぱり分からんのだよ…」

 耕平は、三人にいい聞かせるつもりだったが、最後のほうは自分自身でもコウスケが聞いてきた、噂話が真実なのか虚実であるのか、判断がつかなくなっていた。

『恐竜は白亜紀頃が、一番種類や繁殖が盛んな頃だったよな…。当時の地球は気温が、いまよりも高かったから、動物も植物もみんなあんなに、巨大化して行ったんだよな…。

 しかし、そんなに気温が高かった地球にも、その後確か氷河期が一万年くらい、続くんじゃなかったのかな…。

 それにしても、白亜紀末か三畳紀かどこかの時代に、大量絶滅があって地球全体の、七十パーセントの生物が絶滅したはずだ。その時恐竜も絶滅したんじゃなかったのかな…。

 もし、絶滅を逃れた種族があったとしても、温暖気候の時代に発生した恐竜が、果さたしてあの過酷な氷河期を、どうやって生き延びたのだろう…。わからない…。ああ、オレにはまったく判らない…』

 耕平もコウスケが聞き集めてきた、噂の信憑性もどこまで信じていいのか,判断に戸惑うのが現状でもあった。

 まして恐竜などは、その種類も多く生き残ったものが、どんなものかも判然としないのでは、ますます困惑するばかりだった。

 地球の歴史を辿れば、最初に生命が誕生したのは海中だった。それが何億年もかけて進化を遂げて行き、やがて、それらは次第に海から陸へと、移り住むようになって行った。

 その間、さまざま生き物たちの移り変わりもあって、自ら滅びゆく物もあり新たに誕生するものもあった。そんな中で、一万年もの長きに渡って続いた氷河期を、恐竜がどのようにして生き永らえたのか、耕平にとってはまったくの謎であった。

コウスケが聞き齧(かじ)ってきた噂話なら、単なる噂であってほしいとさえ思えた。それでも耕平は、そんな思いを取り払うように三人に言った。

「よし、ここまで来た以上は、恐竜が本当にいようがいまいが、そんなことはどうでもいい。とにかく、ここまで来たからには後には引けない。白か黒かはっきりさせるんだ。

 みんなもしっかり頼んだぞ…」

「ああ、ほだのはおらに任せでけろ。邑長」

「おいらも、コウスケから聞きました。恐竜だか何だか知らないけど、おいらの弓でソイツの目玉を射貫いてやりますよ。まあ、見ていてください。コウヘイお父」

 イサクもムナクも、自信たっぷりに言い切った。

「おいらのブーメランじゃ、とても太刀打ちなんかできないから、今回はおいら見物させてもらうよ…」

「そうか…。コウスケのブーメランでは、恐竜のような大き過ぎる物には、あまり役には立たないか…。やはり、ここは新しい武器の考案が必要になるな…」

 ブーメランの威力の限界を知る、コウスケの言葉を聞いた耕平は、新しい武器の必要性を改めて感じていた。

「ここにいても始まらないから、どこかもっと向こうのほうに行きませんか。それから、昨夜寝たテントとか云うものは、イサクに担がせて持って行きましょう。あれはなかなか便利でいいですから…」

 定住の地を持たない遊牧民族の末裔である、ムナクは寝泊まりする場所には敏感らしく、かつて山本が持ち込んだテントが、ことのほか気に入ったようだった。

「さて、これからどこに行けばいいのかな…。ムナク、君は西のほうから来たと云っていたが、どこかに恐竜が潜んでいそうな場所に、心当たりはまったくないのかね…」

「心当たりですか…。特別に、これといったものはないですが…、そう云えば、あのずうっと向こうのに、小さな山が見えるでしょう…。あの近くを通りかかった時、どこからともなく、いままで聞いたこともないような、凄まじい鳴き声を聞いたんです。もしかすると、あれがそうだったんですかね…」

「いや、オレも恐竜の鳴き声なんて、聞いたこともないしな…。とにかく、そのムナクが鳴き声を聞いたという、小さな山の近くまでみんなで、行って見ようじゃないか…」

「いいですよ。行きましょう…」

「よす、行ぐべ。行ぐべ…」

「それでは、おいらもお供しますか…」

 コウスケも判ってはいた。耕平がいう通り、恐竜というのはとてつもなく凶暴で、途方もなく大きな体を持っいるために、ブーメランなどでは到底歯が立たないことを…。

 耕平が模索していたように、コウスケもまた弓や槍以外に、何か新しい武器の必要性を感じていた。

 だが、耕平でさえ思いつかないものを、果たして自分なんかに考えられるだろうかと、独り思い悩んでいたコウスケだったが、

『おいらもお父の息子だ…。出きるか出きないなんて、やって見なければ判らないじゃないか…。よし、おいらはやるぞ。誰にも云わず、たったひとり自分だけでやるんだ。おいらにだって、お父の血が流れているんだからな…。

お父は明日の明日の、そのまた明日の世界から、やって来たって云ってたけど、おいらなんかの想像もつかないような、素晴らしいところなんだろうな。きっと…』

そんなことを考えながらもコウスケは、三人の後をゆっくりとした足取りでついて行った。

しばらく行くとムナクは、恐竜の鳴き声を聞いたという、場所まで来たらしく急に足を止めた。

「ほら、この辺りでしたよ。おいらが西の邑に来る途中、恐竜の遠吠えのような咆哮を聞いたのは…。コウヘイお父」

「それは、どっちの方向から聞えてきたのかね…」

 耕平はムナクの、次の言葉を待ち切れずに訊いた。

「はい。ほら、見えるでしょう。向こうのほうに小さな山がみえるのが…、ちょうどあの辺りから聞こえてきたんですよ」

「よし、これからみんなで行って見よう。ここから見た限りではそう遠くはない…。それに今日はイサクに、宿泊用のテントも運んでもらったから、寝る場所の心配もしなくて済む。だから、日が落ちるまでにはまだ時間があるから、もう少しあの山の麓まで行って見ようじゃないか」

 耕平は三人を促し先頭を切って歩き出した。

「それにしても、大量絶滅を退かれたとしても、この縄文時代まで生き延びた恐竜とは、一体どんなヤツなんだろう…」

「あのう…、その大量絶滅とか縄文時代って云うのは、何のことなんですか…。コウヘイお父」

 コウスケもそうらしいが、耕平が時々は使う自分たちには、理解のできない言葉にムナクが訊いた。

「うむ、大量絶滅か…。大量絶滅とはな。ずうっと昔、君たちの想像もつかないほどの大昔、恐竜たちがまだ全盛だった頃の昔だ。

この世界に小さな星の欠片が、落ちて来てぶつかったんだ。その衝撃で、空に舞い上がった塵が、太陽を覆い隠してしまって、この世は真っ暗の闇の夜が何年も続き、世界の生き物の約大半以上が、この時に死滅したと云われているんだ。

それでも生き残ったと云うんだから、恐竜というか生き物の生命力というのは、凄まじいものがあるんだろうね…」

「星って…、あの夜空で光っているヤツですよね。あんなものが落ちてくるんですか…。それは豪(えら)いことですね…」

 耕平の話を聞いていたムナクが、驚いたような表情で訊き返した。

「ああ…、あの夜空に光っている星は、みんな太陽と同じようなものなんだ。君たちには理解できないだろうが、あの周りをわれわれのような大地が、本当は丸い球の形をしていてるものが、いくつも周りを廻っいるんだ。そして、その上にはわれわれのような人間や、動物たちが棲んでいるかも知れないんだ…。いや、もっと違った生き物かも知れないな…」

「ひゃー、そりゃあ大変だ…。そんなものがおらだちのどこさ、襲ってきたら大変なことになるだぞ。邑長…」

 このイサクという男は、前に耕平が言った通り発想が、普通の縄文人とは少し違っているらしかった。この時代の人間は宇宙人の存在など、考えることすらもしなかっただろう。

 なぜなら、夜空に光る星が太陽と同じで、その周りを地球や火星のような、惑星が廻っているなどとは、思ってもいなかっただろうからである。

「なあ、イサクよ。お前はどうして、あの夜空の星に人間が棲んでいると思ったんだ…」

「どうすてって…、おらだちがこごさ住んでるようぬ、あの星の上ぬも人が住んでいでだな…。そんで襲ってなんか来られたら、おっかねえべなと思っただげだ…」

「なるほど…、お前は縄文時代に置いておくには、ホントに惜しい人間だな…。

 だがな、イサクよ。その心配ならいらんぞ。オレがいた明日の世界にだって、そんな話は聞いたことがない。まして、ここは縄文時代だ。まず、そんなことは絶対に起こらないだろうよ…」

 耕平とイサクが、そんなやり取りをしながら歩いて行くと、ムナクが西の邑にくる途中に、恐竜の咆哮を聞いたという、小さな山の麓まで近づいていた。

「確か、この辺りでしたよ。恐竜とかいう化け物の鳴き声を聞いたのは、ずっと向こうの山のほうでしたがね…。あんなところに棲んでいるんですかね。こんなに広い原っぱがあるというのに…」

「さあね…。そこまではオレにも分からんが、とにかく行って見ようじゃないか。この広い平野に進出してれないのには、何かそれなりの理由があるのかも知れん…」

しばらく歩くと、行く手が行き止まりになっていた。

つまり、進行方向が断崖絶壁になっているのだ。イサクが断崖に近づき下を覗き込んだ。

「うわぁ…、こいづはおらでもこごば降りんのは、ちいっとばっかり無理だな…。邑長だちもこっちさ来て見でみろ…」

 イサクに呼ばれて、耕平たち三人も断崖の淵まできて、断崖絶壁下をゆっくりと見おろした。

「うわぁ、これはちょっとダメだなぁ…。特においらは高所恐怖症で、高いところが苦手なんだ…。ここから見おろしただけで、おいらはお尻が抜けそうなんだ。

 ここはひとつ、力自慢のイサクに頼んで下の様子を、見てきてもらったほうがいいですよ。コウヘイお父」

「バ、バガ放(こ)ぐでねえ…。こだな高えどっから、おらさあそごまで降りでけっつうのか…。

 もす、おらが足ば踏み外すたら、間違げえなく谷底さ落ぢで死ぬだぞ。それでもおらに行けっつうのが、おめえは…」

「何もおいらは、そんなこと云ってないじゃないか。ただ、イサクは力自慢だからちょっと降りて行って、下の様子を見てきてもらったら、どうかと云ったまでじゃないか。

 それを何だい。落ちたら死ぬのなんのって、そんなに落ちて死ぬのが怖かったら、行かなきゃいいだろうが、誰も無理してでも行けとは、頼んでいるわけじゃないんだから…」

「誰が怖いっつったよ。おらぁ、死ぬのなんてちっともおっかなくないぞ。人間だって獣だって虫けらだって、生きてるヤツは必ず一度は死ぬごどになってんだ。おらの死んだじいさまがら聞いだんだから、絶対に間違いねえぞ。

 じいさまはこうも云っていだな…。人は死んでも、まだ生まれ変わっがら心配はいらねえども…」

『この時代よりも、もっと早い時代。旧石器時代以前から、死んだ人を埋葬する風習があったと云うから、人は死んでもまた生まれ変わるという、発想は一体いつ頃の時代から、人間に芽生え始めたのだろう…』

 イサクの話を聞きながら、ふとそんなことを考える耕平だった。

「まあ、ふたりともよしなさい。この断崖絶壁ではどんな人間でも、ここから下まで降りて行くのは不可能だ。下を見てもあまりに高すぎて、どこに何があるのか何も見えない…。

 ムナクが恐竜の鳴き声を聞いたというのも、どこか遠くで鳴いたものを風に流されて、たまたま聞こえてきただけなのかも知れない…。いずれにしても、オレのいた時代には遥かな昔に、絶滅したことになってるんだ。たとえ生き延びたとても、そう遠くはない時期に、滅んでしまうのだろうがな…」

「それじゃ、おいらの聞いてきた恐竜の噂は、まるっきりデタラメでもなかったんだね。お父…」

 コウスケは、自分で変な噂話を聞き込んできて、嘘つき呼ばわりされるのが怖かったのか、耕平の話を聞いて安心したように、ホッとした様子で耕平のほうを向いた。

「ああ、そうだとも、オレもまさか縄文時代まで恐竜が、生き残っていようとは思ってもいなかった…。しかし、これもひとつの史実として、認めざるを得なぃだろぅな…」

「あのう…、コウヘイお父。時々お父が口にする。そのジョウモンジダイというのは、一体何のことなんですか…」

 ムナクは耕平が時折口にする。聞きなれない言葉が気になっていて、ジョウモンジダイもそのひとつだった。

「縄文時代か…、縄文時代というのはな。ムナク、オレがいた時代に使われていた、歴史の区分を分けるための言葉だ。いまわれわれが暮らしている、この世界のことなのだよ」

「じゃァ、コウヘイお父は、おいらたちが生まれる前のことや、これから先のことまで、何でも判るって云うのかい…。それじゃ、ますます神さまみたいじゃないですか…。これでは邑の人たちがお父のことを、みんなで神さま扱いにするわけだ…」

「オレがいた世界では、学校というところがあるんだよ。そこでは、いろんなことを教えてくれる、専門の人たちがいて自分が担当する、さまざまな事柄をみんなに教えてくれる

んだ。だから、オレの知っていることぐらいは、オレのいた世界の人間なら誰でも、みんなが知っているということになる。それが教育というものだ…」

「それじゃ、コウヘイお父…。西の邑だけでもいいから、みんなを集めてお父が知っている、いろんなことを教えてやってはどうです…。おいらもぜひ聞きたいし、みんなだって聞きたいと思っているんですよ。そうだろう…。イサク」

「ああ、そうだどもよ。おらも邑長の話すは為になっから、絶対ぬ聞きだいと思ってだんだ…」

「自分のお父に改まって聞くのも、気恥ずかしい思いもするけど、おいらだってやっぱり、お父の話しは聞きたいと思うよ」

 コウスケも耕平からは、これまでも様々なことを教えられてきたが、みんなでまとまって話を聞くのは初めてだった。

「いや、お前たちだけなら教えてやってもいいが、邑の者全員となるとことは大きくなるな…。それに第一、そんな邑の人間が集まって来るかどうか…」

「なーぬ、おら行かねえ。なんつうヤヅがいだら、おらがぶん殴ってでも連れでくっから、心配すんな。邑長」

「おい、おい。あんまり乱暴なことは云うな。イサク、怪力のお前に殴られたら、普通の人間は一発であの世行きだ。人を集めるとか、ものを頼む時はもっと低姿勢で、穏やかに行かないと誰も着いてこなくなるぞ。イサク」

「それなら、おいらたちで手分けして、邑のみんなに呼び掛けてきますよ。コウヘイお父」

「うむ、頼むぞ。ムナク」

「それで、いつから始めるの。お父…」

「それは、お前たちの呼びかけの進行状況にもよるな…。そんなに急ぐこともないし、ゆっくりと時間をかけて、のんびりとやればいいさ」

 そんなに広くもない邑だが、一軒一軒訪ね廻って一人一人、説明して歩く作業はことのほか大変だった。年寄りたちは辞退するものも多く、好奇心の旺盛なコウスケと同年代の、若者たちが参加を希望してきた。

 その結果参加希望者は、当初耕平が予想していたよりも、遥かに多い人員となっていた。

 三人から報告を受けた耕平は、何を教えたらいいか思案に耽っていた。

『さて、人数も集まったし最初は何を話したらいいか…。縄文人は文字を持たなかったから、文字を教えるわけにもいかないしな…。

 いや、もし仮に、オレが縄文人に文字を教えたとしたら、日本の歴史を根本から覆してしまうことになるのか…。いや、そうでもないのかな…。オレも若い頃に、山本からタイムマシンがどうのとか、タイムパラドックスがどうのとか、散々SFの話しばかり聞かされてきたが、雑学的にオレの頭の中にこびり付いていたから、あのタイムマシンを拾った時も、そんなに困りもしなかった…。しかし、まさかオレが本当に、タイムマシンを拾うなにて、考えてもいなかったことだけどな…。

 だから、オレがあのタイムマシンを拾った時点で、日本の歴史は大きく変わる運命を、辿ることになっいてたんだろう…。たとえ縄文時代で何かしらの歴史が、変わることがあったとしても二十一世紀の未来では、既に起こったこととして処理されてしまうから、みんな当たり前のこととして、捉えて行ってしまうのかも知れないな…』

 耕平は、山本に昔常日頃から耳にタコができるくらい、聞かされてきたSF談義のことを思い出していた。山本がもっとも得意とするジャンルは、タイムマシンや時間旅行を扱った、いわゆる時間ものと言われている分野だった。

 山本は耕平と逢うたびごとに、新しく仕入れてきたネタを披露するのだが、SFにはあまり興味を示さない耕平には、半分以上はありがた迷惑に思っていたに違いなかった。

 よく山本は耕平に、こんな話をすることが多かった。

「いいか、耕平。よく聞けよ。実際にタイムマシンがあったとしてだ…。ひとりの男が過去に行って、自分の先祖のひとりを殺したとする。この時点で先祖を殺した男はどうなると思う…」

「そんなのは簡単だよ。殺した男はどうにもならなかった。と、いうのがオレの答えだろうな…。その理由としては、殺された男の先祖には、双子の兄か弟がいたんだろうな。

こういうトリックは、SFばかりに限らず推理小説にも、よく使われる手なのさ」

「ちぇ…、何だ。知ってたのか、しかし、答えは幾通りもあるんだぜ。

 例えば、殺された男も自分を殺しにくるのを知って、替え玉を用意しておくとか、別人に成りすまして、こっそり雲隠れしてしまうとか、考えればいろんなことが思いつくだろうが…」

 そんなことを思い出しながら、ふっと苦笑いをする耕平だった。

『山本か…、アイツともしばらく逢ってないな…。最後に逢ったのが、ろくすっぽ当てもないのにオレを探しに、縄文時代まで来たというんだから、アイツの無鉄砲さにもほとほと呆れるよな。あれからかれこれ二十年近くになるのか…、逢えたからいいようなものの、少しでも時代がズレていて、オレに逢えなかったとしたら、どうする気だったんだろう。アイツは…、山本のヤツ。いま頃は何をしてるんだろう…』

 旧友に想いを馳せる耕平だったが、山本のいる二十一世紀とは年代にして、一万年近い

隔たりがあることを耕平は知っていた。

 この時ほど耕平が、山本に逢いたいと思ったことは、これまでに一度もなかったことであった。いくら逢いたくても、いまの耕平には時を越える術は持ってなかった。例のタイムマシンは、かつてパラレルワールドからやってきた。耕平と同一人物である、佐々木耕助に吉備野の許可を得て、やってしまったからだった。

『なんとか吉備野博士と、連絡を取る方法はないものだろうか…』

 こうして、耕平はしばらくの期間を家に籠って、思案の日々を過ごすのであった。




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