第7話 王城へ

王都の中心街には大きな商会や劇場などが並び立ち、それより南下すると大聖堂が。その大聖堂前の広場は朝になると市が立ち、庶民の活気に満ちている。

中心地より北側は主に貴族のタウンハウスが建つ貴族街になっている。貴族街はぐるりと市井壁で囲まれ、入り口には関門が設けられており、用の無い者や不審者は立ち入ることが無いよう警備兵が守っている。

現在社交シーズンではないが、王家主催の狩猟大会に参加した複数の名家がまだタウンハウスに残っており、ランシア家もその一つだ。現在帰り支度が進められており、3日後には領地に向かう予定だ。

ミヤ様の御子に出会えたのは非常に運が良かったと言えよう。

 更に北に進むと王城である白亜の要塞がある。小高い丘に座し、城の裏…北側は断崖になっている。絶好の難攻場である。

ただこの国はソーサラーの出生率が低いので油断はできないのだが…。


マクレガー伯爵はミカエラとあった日には伝令を通じ、その旨を王に報告した。本日はその仔細と今後について話し合うために登城したのだ。


「まさかコルガータ卿と共に亡くなっていたとはな…」

「短い間ですが、この世界に身寄りのないミヤ様を支えていたのでしょう…。小さな村で葬られたようですが、遺体か彼の持ち物を家族に返すようにした方が良いでしょう」

「分かった、手配しよう…。 2人のことは残念だが、御子が見つかったこと、そしてその御子がジルの血を継いで魔法が使えるのは僥倖だな」


眉間に寄った皺を揉み解しながら現王のニコラスは向かいにいるマクレガー伯爵を見た。

この男がもう少し不細工だったらこのような問題も起きなかったのだが…だがそもそも悪いのは彼の恋人でもないのに悋気を持った御門違いの令嬢どもか…


「魔法は現状少しだけ使えるとこのことです。息子に教えてソーサラーとして育てます」

「お前の息子たちも顔が良かろう? ランシア家が後見で、ミヤ様の二の舞になるようでは困る」

「3日後に領地に戻りますので、そのまま領地で育てます。ミヤ様の時のように王宮で大々的に公表して注目を集めなければ問題ありません。なので陛下もどうぞ御子のことは内密に願います。」

「…父が原因だと言いたいのか?」

「実際悪手になったでしょう?宰相は他国に狙われないよう秘するべきだと仰ってたのに」

「余に意見するとは実に不遜な男だな」

「輪が領地が独立したら、追い詰められるのは王国だということをお忘れなく」

「おのれ 足元見おって」


静まり返った謁見の間に、どちらともなく忍び笑いが始まり、やがて呵々大笑となる。

若い時分には、マクレガー伯爵はニコラスの”ご友人”に選ばれていたので比較的気安いのだ。


「…ジュリエッタは?」

「陛下の妹御は娘が欲しかったと言って喜んでおりますよ。周囲の者には彼女が運営している教会から引き取った娘として記録の工作も抜かりなくしていました。…賢い女性です」

「うん、ジュリエッタが男だったら僕の地位を脅かしかねない存在だ。だからマクレガーを紹介して押しつけたんだ」


ニコラスは口調をかつてのものに戻して一瞬柔らかく微笑み、再び顔を引き締める。


「では頼んだ。伯爵は捜索の結果が芳しくなく、ミヤ様の行方は相変わらず不明の旨を伝えに来ただけとする。…いつものように探す素振りはしておいてくれ」

「かしこまりました。有益な情報を彼女から聞けましたら、お知らせいたします」

「ああ」


王が玉座から立ち上がり、謁見の間を後にしてからマクレガー伯爵は退室する。

 子飼いの雀たちを使って先ほど国王が言っていたように、渡り人捜索が芳しくない、とさえずってもらおう。

渡り人が早逝されたことも、子が見つかったことも知られないようにせねば。

ああ、それと。

元々前王はミヤ様をニコラスにめあわせるために、外聞的に”伯爵家以上”の擁立者を必要としていた。

現王ニコラスも、息子の妃候補くらいには見込んでいるかもしれない。

だがあの子は数少ないソーサラー候補だ。嘘で塗り固めたような王宮の中に押し込めるより国の兵力とした方が有益だ。


「早めに騎士団に入れて、希少なソーサラーの地位を確立してしまえば妃候補から外れるかな…」


マクレガー伯爵は馬車の中で独り言ちた。


「それよりも息子たちがミカエラと上手くいけばいいが…”顔”が使えないんじゃなぁ…」

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