第4話 樹形種





 彼が引いた種族は『樹系種』。



 植物に酷似した姿や生態を持つ種だ。


 彼は緊張に姿勢を正し、目の前の美女から目を逸らす。


 「僕の名前はリョウ。よ、よろしく」


 「ハッ。リョウ様。この命と共に、忠誠を」


 再び平伏する配下に慌てながらも、頑張って距離を縮めようとする。


 「あ、そうだっ、名前つけてあげるよっ」


 リョウは彼女を見ながら真剣に悩む。


 「……ドーラ、なんてどうかな?」


 真剣に悩んだ末に出た、至って捻りのない名前。


 「名前まで下さるとは……有難き幸せでございます」


 おずおずと聞くリョウに、しかしドーラは感激を述べ微笑む。


 ホッとするリョウは次の行動を考える。

 迷宮素がなくなってしまったため、やることが限られてくるのだ。


 頭を悩ませているリョウに、横から声がかかる。


 「ご思案されている中、口をはさむことをお許しください。

 リョウ様は次の策を講じているご様子。もしよろしければ、私の眷属を各階層に配置させて頂きたく」


 「ん?眷属?」


 いまいち理由が分かっていないリョウに、ドーラは補足する。


 「私は花の精です。この場所を花畑に変えることができます」


 「花畑か……」


 悩むリョウを目に、ドーラの顔が不安に曇る。


 「……ご不満でしょうか?」


 「い、いや、不満では無いんだけどっ、……それは、戦力強化に繋がるのかな?」


 そう、今1番優先するべきは戦力の強化だ。


 ダンジョンを創ったのに、入ったら即ラスボスとエンカウントなど堪ったものではない。

 主にラスボス側が。


 綺麗な女性に見惚れようと、そこは忘れていないリョウであった。


 しかしそれを聞いたドーラは、安心したように息を吐く。


「勿論でございます。咲き誇る花は、全て食人の眷属でございますよ」


 「あ、うん。じゃあ問題ないね」


 問題なかった。


 言うが早いか、「では」、と早速色とりどりの花を生え散らかしてるドーラの背中を、

 リョウは顎に手を当て見つめながら思案する。


 そう言えば、くじを引いた時の紙に書いてあった。


 樹系種は自らの魔力で眷属を生み出し、縄張りを作り狩りをすることを得意とする。


 初期のダンジョンマスターにとって死活問題になってくるのは、やはり迷宮素のやり繰りだ。

 その点から考えても、自前で眷属を召喚できる樹系種はかなり当たりなのでは?


 ドーラ1人でも、3階層を埋め尽くすのにそう時間は掛からなそうだ。


 彼女は相当な強個体故にこんな芸当が可能なのだろうが、それなりの配下を召喚すれば、その眷属だけで充分な戦力強化を見込める。


「……ヤバい、楽しくなってきた」


「リョウ様?」

「ぬぁ⁉︎」


 ニヤニヤと計画を練っていた彼の横から、ひょこり、とドーラが顔を出す。


「ど、どうしたの?」


「いえ、ずっと私を見て微笑んでいらしたので、何かあったのかと思いまして」


 あざとい上目遣いも、激烈な美女がやれば芸術と化す。


 リョウは平静を装いながらも、目を鮮魚の如く泳がせて上擦った声を出す。


「なんでもないよ?凄いな〜って見てたんだ。綺麗だな〜」


「……ふふ、有り難き幸せです。もっと近くでご覧になって下さい」


「あ、はい」


 ウキウキと手を引くドーラに連れていかれ、彼はその後も人生初の花見デートを楽しんだ。


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