厳格者の餓死

結騎 了

#365日ショートショート 328

「これは、餓死なのか」

 警部は部屋を改めていた。最初に死体を発見した警官が報告を続ける。

「この部屋の主は、熱心なヴィーガンの活動家で有名でした。しかし、近所の人がその姿を見かけなくなって数ヶ月。この部屋から異臭がするという通報があり……」

「駆けつけたらこのザマだった、と」

 部屋の中央では、渇いているのか溶けているのか、よく分からないほど損壊した死体が転がっていた。状況から見て、死因は餓死。しかし、冷蔵庫をはじめ部屋に食物は貯蔵されていた。

「ヴィーガンというと、あれか。いわゆるベジタリアンか」

「失礼ながら警部、厳密にはそれらは異なるそうです。私も、つい先ほど調べたばかりですが。加えて言うならば、亡くなったこの方は、エシカル・ヴィーガンを名乗っていたそうです。ヴィーガンの中でも、動物の命を尊重する特に厳格な者たちの呼称です」

「なるほど、道理で」。警部は冷蔵庫を開けながら「肉がひとつも入っていないわけだ。動物は食べない。とはいえ、野菜はたっぷり詰め込まれている。どうして野菜を食べることをやめたのか」

「あっ」

 突然、警官が声を上げた。

「どうした」

「見てください、こちらに遺書が。すみません、発見が遅れてしまいました」

 デスクの引き出しの中に、ご丁寧に遺書と題された封筒が置かれていた。

「それでは、ホトケさんの真意を聞いてみよう」

 手袋をした警部が便箋を広げると、そこにはこう記されていた。


 ……動物たちの餌を食べてしまっては、彼らに行き渡る分が減ってしまうかもしれない。私には、それが耐えきれないのだ。

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厳格者の餓死 結騎 了 @slinky_dog_s11

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