最後 悠か彼方の君へ

1、Death anniversary

 緩やかな坂の上、男はアスファルトの上で暑さに苦しむ自分を嘲笑う太陽の光を遮るように左の掌を伸ばしていた。


「暑いよね、お盆も過ぎたのに残暑どころか、今年一番の猛暑日なんだって」

 隣を歩く銀色の少女はいつもと違う格好をしていた。

「こんな日に間が悪いな」


 そう返す男も、普段のだらしない寄れたスーツとは違う格好だ。


「雨の一つでも降ってくれればいいんだけどね」


 的を外さない返しを繰り出す銀色の少女、ユメはアスファルトが地面を熱しているというのに、真っ黒なスーツを着ていた。


「そうだな」

 同意を見せる男、葵も示し合わせたわけでもないのに卸したての真っ黒なスーツ姿だった。


「げ、アンタら……」


 待ち合わせ場所の本部で待つ詩音は二人を見て唖然とする。


「しおちゃん、おはよう」

「おはよう、早いな」


 唖然とする詩音も、チョコレートなんぞあっという間に溶けてしまう暑さの中で黒いスーツを着用している。


「ウチらはSPか!」


 傍から見れば三人はお揃いの格好をしており、逃走中のハンターの休み時間か、そういうバンドの衣装のようにも見える。


「こんな日くらい、正装でいようと思ったんだ」

「同じく」

「はぁ……まあいい。行くわよ」

「はいよ」

「了解」


 それぞれ公用車とプラネットへと向かう。

 その表情は、SPにもハンターにもバンドにも見えない、それは葬儀場に向かう喪服の参列者だった。

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