蓮童友子、ほか一人
友未 哲俊
1.尻とパズル
部室の真ん中にでんと置かれた木造りの古い長机の上に並ぶマッチ棒パズルを、彼女は立ったまま睨み続けている。
「
「ダメ、静かに。あと少しで解けそうなの」
… こうして改めて観察してみると、なかなか清楚で愛らしい横顔だ。
「いいおケツ … 」
だが、腰まで届く鴉の濡れ羽色の髪を優しく湛えた彼女の頭の中にはパズルのことしかないらしい。微動だにせず、そのままさらに何秒間か見つめ続けたあと、「できた」と会心の笑みを浮かべてマッチ棒を二本だけ動かし、見事に四つの四辺形に作り変えた。それから、ようやく澄んだ瞳を弟に移して愁訴する。
「おケツくらいいつでも触らせてあげるから『姉ちゃん』だけはやめてね。人前で呼ばれると顔から火が出るの。そもそも、その歳で『姉ちゃん』なんて、プライベートでも普通恥ずかしくないかしら?せめて『姉さん』か『姉貴』にして」
この日の
ここ私立
この春、前の部長と、もう一人の先輩部員がめでたく大学へと巣立って行って、探偵クラブには高等部三年の彼女ひとりが残された。仕方なく弟を無理やり助手役に中等部から引っ張って来てはみたものの、二人の活動はと言えば相も変わらず新聞やネットから犯罪記事を拾って瓦版にすることくらい。幸か不幸か、園内では謎の殺人事件など起きそうもなく、不可能犯罪捜査の要請も望めないのですることが何もない。それでも三月までは申請すると雀の涙ほど出ていた活動補助費さえ、創部三年目にしてあっさり打ち切られ、新しい文化サークルでも出来ようものならこの長屋の角部屋からも追い出されて、探偵事務所を失う憂き目を見ることになるだろう。おまけに、弟の入部以来、放課後をこのちっぽけなプレハブ小屋に閉じこもって二人きりで何をしているのかと勘繰る者まで現れはじめた。そんな疑いを招く責任の大半は、未だにベタベタと姉にまとわりつく弟の側にあったのだが、それを持て余しながらも
「姉ちゃん、五月晴れだよ。外に出て小遣い稼ぎに男でもたぶらかして来よう」
「君がいたら無理でしょ」
蓮童姉弟を知らない者が聞いたら、間違いなく人格を疑うだろう。
「それより事件さがしにでも行って来い。猫さがしでも、いじめでも、何なら出歯亀退治でもいいわ」
「わかった。戻るまで待っていて」
やれやれ、蓮童友子は吐息する。今日も一緒に帰る気だ。
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